経営者候補のO氏がいた。
O氏は大学卒業後東京に残り、何年か修行して
父が経営する地元の会社に帰る予定をしていた。
父は経営者であったが、人がお金で困っていると、
何とかしてあげたいと思う典型的なお人好しタイプだった。
このことが原因で会社が傾き、急遽父の会社に帰ることになった。
自業自得とはいえ、苦しんでいる父を一日でも早く助け会社を盛り返したい。
その強い想いがO氏にはあった。
仕事を始める。
人並み以上に仕事をこなした。
ところが、しばらく経つと積極的に経営改善に取り組む気が湧かなくなっていた。
帰ってきた当時の想いが全くなくなってしまった。
それは・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
自分が働きだしたこの会社は父の会社だと思っていたが、
父が手形で大きな損失を出し、代表取締役を解任されてしまった。
父に何の権限もなくなる。他人が代表取締役になった。
強いショックを受けた。
父が苦労してつくり上げた会社。その後姿を見て育った。
父を助け、若くして亡くなった優しい母のやりきれない思いが浮ぶ。
「この会社は、父母が手塩にかけて育てた会社、自分達の会社だ!」
「会社は乗っ取られたんだ!」
「経営の世界にはどろどろした汚いものがある!」
やるせない想いをぶつける日々が続いた。
父の後を継ぎ会社を盛り返すという目標がなくなり、仕事が手につかなくなった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
世間の人や経営に対しての極度の不信が募る。
そんな思いでいるときSIPに取り組まれた。
トレーナーとして、O氏の状況を十二分に聞き、分かったことがあった。
2つの誤解があった。
1つ目は「会社を乗っ取られた」こと、2つ目は「経営は人を陥れる」こと。
O氏と整理してみた。
1つ目の誤解
「乗っ取られたのでなく、救済してもらうために株式を譲渡した」
お人好しの社長では経営の再建は無理と判断され、経営者交替となっただけ。
(事実、5年後にO氏は株式を買い戻し、代表取締役に就任された。)
2つ目の誤解
「経営の世界にはどろどろした汚いものがある」という考え。
広い世間にはそのような経営もあるが、それは一面の事実にしか過ぎない。
すべての経営がそうではない。
「経営とは芸術だ」といわれるように、人の信頼を勝ち取り価値を世に生み出し、
学校教育ではできない教育で、人を育てることができる。
そういう経営者の下で働ける社員は幸せだ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・
O氏に7時間くらい費やしたSIPだった。
「想い」を聴き「事実」と「意見」を整理することで、1ケ月後にO氏の誤解は解けた。
現在、O氏は会社を再建され、地元の雇用創出の経営に邁進されている。