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良博さんの父良夫さんが使っていた仕事机。今は良博さんの仕事場だ=横浜市旭区

 【及川綾子】 三橋良博さん(60)は今年9月に父が96歳で亡くなるまで、妻と両親の3人を介護してきた。

 横浜市旭区の2世帯住宅の1階には、父良夫さんと、母美代子さん(86)が暮らしていた。1階には文具の開発・販売の会社もあり、父子で営んできた。

 父は白内障の手術を受け、両耳に補聴器を入れていたが、「同世代に比べて元気だった」と良博さんは振り返る。88歳でインドに契約に出かけ、現地で年齢を信じてもらえず「パスポートを見せろ」と言われたほどだったという。

 母は足が不自由で、歩いてもふらふらするため、外出には杖を使っていた。階段や坂道では転んでしまうこともあった。

 2010年5月、当時92歳だった父は、月に1度の趣味の集まりに朝から出かけた。ほどなく、消防から「駅のホームから転落し、頭を打って出血している」と自宅に電話が入った。

 頭蓋骨(ずがいこつ)や肋骨(ろっこつ)などが折れる大けが。さらに、同年7月には仕事場のいすに座ろうとして落ち、腰を強打して救急車で運ばれた。

 父は体を起こす際に激しい痛みがあるため、寝て過ごす時間が長かった。認知症の症状も出始めた。

 自宅には若年性認知症の妻芳枝さん(61)もいた。夜は母が父の面倒を見なければならなくなった。

 父は真夜中でも構わずに大声で呼ぶ。母は、隣の部屋で寝ている父の元に、はいずって行く。「トイレに行きたい」と言う父に、母は長い時間をかけて、布団の横に用意したバケツで用を足させた。

 母は泣きながら、自分の布団へ戻る。父は耳が遠いため、母の泣き声は聞こえない。そんな2人を見て、良博さんは「おやじは介護している時の優しいお袋の顔しか見ていない。つらさには気がつかない。このままでは共倒れになる」。

(朝日新聞 2013年11月14日掲載)