ちちぶ天狗 -2ページ目

ちちぶ天狗

埼玉県の秩父に天狗がでるそうな

Kちゃんは複雑な家庭で育った。

Kちゃんの母親は離婚を2回している。

 

Kちゃんが中学生になったばかりの時に2人目の父親が現れた。

Kちゃんは、母親から寝る前に「お父さんにおやすみのキスをしなさい!」と言われていた。

思春期のKちゃんは、「突然現れたオッサンに何でキスしなきゃいけないの!?」と思った。

Kちゃんが嫌がると、母親はヒステリックに怒り、Kちゃんを叩いた。

 

Kちゃんは母親が嫌いだった。

 

母親は、Kちゃんが入院していても病院から呼ばれない限り病院に来ることはなかった。

中学生の女の子が誰も来ない病室で1人で過ごす…どんなに寂しかったろうか…

「私は必要とされてない邪魔な人間なんだ。愛されない人間なんだ。」と、Kちゃんは、リストカットで何度も死のうとした。

 

Kちゃんが高校生になると、母親は2度目の離婚をして家計は苦しくなった。

Kちゃんの病院代、大量の薬代…母親はお金の工面に大変だったこともあってか毎日イライラしていた。

 

母親は、

「入院してないときは、男に体を売って金少しでも稼いでこい!」

「お前なんか生きてたって意味ないんだから早く死んでくれないか?」

そんな言葉を毎日Kちゃんに浴びせ続けた。

 

Kちゃんが高校2年生の時に母親は3度目の結婚をした。

3人目の父親はヤクザだった。

気に入らない事があると母親をすぐ殴るDV男だった。

そしてKちゃんが学校から帰宅して家にいるのに、昼間から居間で母親とセックスをしていた。

 

「家に居たくない…」Kちゃんがそんな気持ちで付き合い出したのがヤンキーグループだった。

Kちゃんは、仲間に合わせるように服装や髪形が派手になっていった。

そのグループは、女をさらって廻したり何でもありの集団だった。

幸いKちゃんが当時付き合っていたのが、そのヤンキーグループのトップの男だったので、Kちゃんの身は安全だった。

けれど、その頃のKちゃんはいつ死んでもいいと思って生きていた。

 

 

Kちゃんは、小島にこんなことを話している。

「私さ…学生の頃からほんと男選び下手でさ~ヤり目の男ばっかり近寄って来てたんだよね…

それで、ヤったらポイされて」と。

 

小島はKちゃんと過ごしていろんなことを話しているうちに、この話は間違いではないけれど少し違うことに気が付いた。

ヤったらポイというよりも、Kちゃんが自分の病気のことを話したり、病気を支えきれなくなった男たちが去って行ったのだと。

 

そんな考えを確信するのがKちゃんとのセックスの時だった。

Kちゃんは、すごかった。

キス、フェラ、挿入してからの腰の動き、全てにおいて小島が今まで経験してきた女性とは格が違った。

小島はKちゃんと出会うまでに70人以上の女性と経験をしてきたけれど、今までのセックスはなんだったんだろうと思うほどKちゃんのセックスは良かった。

 

Kちゃんにとってセックスは命を削る行為だと言っていた。

そしてKちゃんの病気が原因で男たちは去っていった。

だから小島は思った。

病気というハンデがあっても必要とされるように、捨てられないように、つなぎとめるために命を削って必死でテクニックを磨きあげたのだと。

そして命懸けだから他の女性と格が違うレベルになったのだと。

 

だから、小島はKちゃんとセックスすると気持ちいいのだけれど、いつもとても悲しくなった。

 

 

 

つづく

小島は、将軍のお見舞いに何度か行っている。

その度に将軍が喜びそうなお土産を持って行った。

 

最初にKちゃんとお見舞いに行った時には、将君が大好きだった「よっちゃんいか」を持って行ったけれど、白血病の治療中のなので治療用に加工していないものは口に入れられないと断られた。

 

であればと、トモとお見舞いに行ったときは、マンガの「アカギ」をお土産に持って行った。

けれど将軍の家には「アカギ」が全巻あったので、もう読み飽きているから持ち帰ってくれと言われた。

 

ならばと、鉄郎とお見舞いに行ったときには、「ナース専門のエロ本」をお土産に持って行った。

それは本当にシャレにならないから持ち帰ってくれと言われた。

結局、小島が持っていったお土産は、全て断られてしまった。

小島は「しかたない…」と思い、エロ本を病室の入り口にそっと置いて帰った。

 

次にお見舞いに来た時に小島は、将軍に本気で怒られた。

「小島!看護師さんが来る前に俺が気付いたからよかったものの、散々お世話になっている看護師さんにあれ見られたらマジでシャレになんねぇぞ!」

小島は「すまんこ」と謝った。

 

 

少し話が脱線するけれど、そんな小島と将軍との間で、“痛パン”と呼んでいる言葉がある。

例えば、小島がボケて友達が「なんでやねん!」と頭をどついた時、思っていた以上の痛みで、「痛た!」と思った瞬間にパンチやビンタが出てしまうこと、それを“痛パン”と言う。

 

別の言い方をすると、ふいの痛みで反射的にやり返してしまう行為、それが“痛パン”だ。

将軍いわく「本能だからしょうがない!」とされている行為だ。

 

で、小島が将軍のお見舞いに行った時に戻って…

将軍は、小島にこんな話をした。

将軍は、投薬治療の間、自力でトイレに行けなくなるので尿道に管を入れなければいけなかった。

看護師さん(50代女性)が、将軍のチンコに管を入れた際、将軍はあまりの激痛でとっさにその看護師さんのおっぱいを2揉みしてしまった。

「あれは“痛パン”ならぬ“痛乳揉み”だな!」と将軍は言った。

 

小島は後にこう語っている…

「将君が言うには『あの看護師イッてたな!』とのことだったが…100%嘘だと思います(笑)」

 

そんなアホな話をしていたけれど、将軍は、まだまだ予断を許さない状況で投薬の合間は少し元気になるものの日に日に弱っていった。

アフロは全部抜け、がっちりしていた体はガリガリになって自力で立つこともできず、人を惹きつける力のある声もどこかへ行ってしまった。

つらそうな将軍にトンチンカンなことばかりしていた小島だったけれど「死なないでくれ!」という思いは変わらなかった。

いや、むしろ強くなるばかりだった。

 

しゃべるのもつらそうな将軍は、小島にこんな話もしてくれた。

小島がKちゃんとお見舞いに来た後も、Kちゃんは度々将軍のお見舞いに足を運んでくれて、いつの間にかカホちゃんとも仲良くなっているとのことだった。

小島は、自分の知らないところでカホちゃんと仲良くなっているKちゃんにちょっと嫉妬しそうとなったけれど、「お前の事ばかり幸せそうに話してたよ!Kさん!」と将軍が教えてくれたので、「でしょうね!」と強がってみせた。

 

小島がKちゃんと知り合って1年になろうとしていた…

 

 

 

つづく

将軍が白血病で入院してから1ヶ月以上経って、「やっと面会の許可が下りた」とカホちゃんから連絡があった。

小島は早速お見舞いに行くことにした。

そのことをKちゃんに話すと「私も行っていい?」と言うので、2人で病院へ行った。

 

将軍が入院している病院は、Kちゃんの家から数分の赤十字病院で、Kちゃんは何度もその病院に入院しているので詳しかった。

 

将軍の病室の前に着くと、ドアに『面会謝絶』の札がかかっていた。

小島は、それを無視して部屋のドアを開けて「ウィース!」と入ってくと、奥から「小島か!?お前この部屋には入っちゃダメだぞ!俺が行くからちょっと待ってて!」と将軍の声がした。

 

トイレから戻って来たKちゃんに「面会謝絶って書いてあんじゃん(汗)バカなの!?」と怒られていると、将軍の病室のドアがゆっくり開いてガリガリに痩せた将軍が現れた。

将軍は、治療が始まって1度も食事を取れてなかった。

そして娯楽室に向かうのにも松葉づえを使っていた。

 

小島「ずいぶん削られたな~(笑)どうなん!?死なずに済みそうなん!?」

 

将軍「あんな…全然まだ死ねる!」

 

と言って、なぜか3人で笑った。

 

それから小島はKちゃんを将軍に紹介した。

将軍とKちゃんは、その日が初対面だ。

 

将軍は、カホちゃんから、お札(ふだ)とファイルと御守りをもらった事を聞いていたので、

「あっ!あなたが…ありがとうございます!」

と、あの将軍が素直にお礼を言った。

そして将軍は、首から下げている御守りをパジャマから出してKちゃんに見せた。

「治療の時はこの御守りを握ってます(笑)ほんとありがとうございました。」

そう言って、またKちゃんに頭を下げた。

 

小島は「人間弱ると…感謝の気持ちが芽生えるんやな~」と今まで見たことない姿の将軍を見て思った。

 

将軍は、Kちゃんからもらったファイルを全部読んでいて、病気についてかなり詳しくなっていた。

小島は、ファイルで勉強をしたけれど、「白血病で完治した人がいる!」とわかると小難しいことはスルーしていた。

だから将軍とKちゃんが専門的な会話をしている時に全くついて行けず、完全に仲間外れ状態になった。

 

小島は、かまって欲しくて会話の途中途中でボケをはさむと、将軍には「ちょっと黙れ!小島!」とキレられ、Kちゃんには「トシ!ハウス!」と犬扱いされた。

 

ならばと小島は、お土産に持ってきた将軍の大好きだった「よっちゃんいか」差し出した。

すると治療用に加工してないものは口に入れられないと断られた。

しかたなく小島は沈黙することにした。

 

小島がしばらく黙って2人の話を聞いていると、あることに気づいた。

 

「あの将君が…初対面の女子高生に『お前顔がドリアンだな』とか言う将君が…初めて行ったキャバクラで『おい!ブス早く酒をつげ!』と言ってしまう将君が…『Kさん』と呼んでいる…」

 

小島は将軍と付き合いが長いけれど、女の人に「さん」付けで呼んでいる将軍をはじめて見た。

 

 

 

それから小島とKちゃんは、将軍を部屋まで送って病院を出たのだけれど、途中ですれ違った医者や看護師がKちゃんを見るたびに親しげに声をかけていた。

 

小島には、その光景が悲しかった。

 

 

 

つづく

8月も終わりに近づいた頃、小島はKちゃんといつものように電話をしていた。

 

2人で楽しい会話をしつつも、将軍の話題になった時はKちゃんが「私の主治医に将君を担当する伊藤先生の事聞いたんだけど、安心して任せられる先生だから大丈夫!」と言って小島を励ましてくれた。

Kちゃんがいてくれて、本当に良かったと小島は思った。

 

それから小島は何となく「Kちゃん夢ってあんの?」と聞くと「昔も今もお嫁さんになること!」と言ったので「小学生か!」と軽いツッコミを入れた。

小島は言ってから「あっヤバイ(汗)」と思った。

Kちゃんは、ボケたのでなく本当の夢を言っていると察したからだ。

 

「笑われるかもしれないけど…病気のせいで、当たり前に出来ることが私は人より少ないからね…付き合うって事は出来ても、結婚となるとね…」

 

「ごめん…茶化した…」

 

「逆にごめん…暗い話にしたの私だ…ごめんね…」

 

と、電話中にそんな会話になった。

 

 

 

小島はその頃、毎日考えていたことがあった。

それは、ナツと離婚してKちゃんと一緒になることだった。

その事は、Kちゃんには言ってなかったけれど、このままではナツに対してもKちゃんに対しても良くないと思っていた。

だから小島は、ナツに打ち明ける決断をした。

 

ナツに「大事な話がある」と言って座らせた。

「気持ちが抑えられないくらい好きな女が出来た。その人と一緒に生きていきたい。俺と離婚してくれないか!」

変に言い訳するのは自分らしくないと思った小島はストレートな言葉を使った。

ナツは、しばらく黙ってから口を開いた。

 

「他に女がいるのは何となく気づいてた…浮気じゃなく…本気なんだね…」

 

「・・・」

 

「はい、わかりました。とは言えない。私の返事は離婚はしません。寝るね…」

 

それから2ヶ月、小島とナツは口を聞かなかった。

そしていつも一緒に1階で寝ていたけれど、小島は2階の部屋で寝るようになった。

 

 

 

小島は「Kちゃんが病気で長く生きられなくても、せめて死ぬときは、俺の嫁として逝って欲しい」そう思っていた。

「小島」の姓で最後を迎えて欲しかったのだ。

だからKちゃんをお嫁さんにしたかった。

「その後なら、俺は…どんな罪と罰を受けることになってもかまわない」と思っていた。

 

そして、小島はKちゃんの容態からこう感じていた…

「もう時間はそんなに残されていない…」と。

 

 

 

8月の終わりにKちゃんは体調を崩し入院した。

Kちゃんの家族や彼氏に出くわす可能性が高いので、不倫をしている身の小島はお見舞いにも行けなかった。

ただでさえ体調を崩して苦しんでいるKちゃんに、自分がお見舞いに行くことで、さらにしんどい思いをさせることなんてできなかった。

小島はそんな自分の立場が、ただただ悲しかった。

 

2週間ほどで退院できたKちゃんは、退院した次の日に小島と会いたいと言った。

小島はKちゃんを迎えに行き、いつものプレハブホテルに入った。

退院明けだったので、小島はもちろんセックスするつもりもなかったけれど、その日はKちゃんから積極的に求めてきた。

 

それから小島は、ナツに離婚を切り出した事、そして離婚を断られていることをKちゃんに全部話した。

その話を聞いたKちゃんは、しばらく黙っていた。

そしてゆっくり話し出した…

 

「私ね、子供の頃から病気で色々な事を諦めてきたの…やりたいスポーツ、入りたい部活、仕事、子供を産むこと、結婚…

それともう1つ…入院中にずっと考えてた事あって…それはトシの事…トシの事も諦めないといけないって…

でもトシの事だけは諦めたくないの…好きなの…一緒にいたいの…」

 

小島は、Kちゃんを強く抱き締めた。

 

小島は、ある言葉を使ったことがない。

気安く使ってはいけない気がしていたし、そもそもその言葉の意味がよくわかっていなかった。

けれどKちゃんといる時間が長くなるにつれて、その言葉の意味がわかってきた気がしていた。

 

小島は、その言葉をKちゃんに伝えたくなった。

けれど声を出したくても出せなかった。

こんなことは初めてだった。

それでも言った、聞こえるかわからないほど小さな声になってしまったけれど…

 

「Kちゃん…愛してる…」

 

Kちゃんの反応がなかったので、小島は「聞こえなかったか…」と思った。

しばらくしてからKちゃんは、バッと勢いよく顔をあげて小島を見つめた。

Kちゃんの目には、たくさん涙がたまっていた。

 

「愛してる…私もトシを愛してる」

 

そう言って小島にキスをした。

 

「最初にこの言葉を言えたのがKちゃんで良かった…」小島は、そう思った。

 

 

 

つづく

将軍が白血病で入院すると面会謝絶で小島はお見舞いに行けなかった。

けれど将軍の奥さんのカホちゃんが電話で状況をこまめに教えてくれた。

 

カホちゃんは、将軍の抗がん剤が始まると、元気がみるみるなくなり、体重が落ち、自慢のアフロヘア―もどんどん抜けて毎日ベッドのシーツが毛だらけになると言っていた。

 

小島も病気のことを知って将軍と一緒に戦おうと、Kちゃんからもらったファイルで学生の頃より勉強をした。

小島は白血病になってしまうと助からないと思っていた。

けれど勉強していくうちに、絶対死ぬとは限らないと知った。

 

「病気ってね、知らないから怖いの!知ってしまえば闘い方は必ずあるの!」

Kちゃんが言っていたことは本当だった。

治療法云々より、「白血病で完治した人がいる!」それが小島の一番の希望になった。

小島は「死なないでくれ!」と願いながら、Kちゃんのおかげで希望が持てたことに感謝した。

 

そんな中、カホちゃんから小島に電話があった。

カホちゃんは、将軍のベッドのシーツに毎日大量の毛が落ちるので、その毛をコロコロでいつも取っていた。

けれど毎日いくらやってもキリがないので、直接将軍の頭にコロコロをやって全部抜いてしまったらしい。

それがカホちゃんのツボに入ったらしく、爆笑しながらその話を小島にしてくれた。

 

小島は「さすが将君の奥さんだ(汗)」と思った。

そして、この件を境にカホちゃんと最初に会った時の「普通の女」という印象は完全になくなった。

 

 

 

つづく

小島の家で将軍とトモと鉄郎とでよく麻雀をしていた。

ある日、いつまで待っても将軍が来なかった。

なので小島が将軍に電話をかけると「わりぃ…肩が痛くって今日は行けそうもない…」と将軍は言った。

小島達は何だそりゃって感じで、その日は将軍抜きで麻雀をした。

 

それから数日たって、ナツが夜勤で家に居ないときに小島は39度5分の熱でくたばっていた。

Kちゃんから電話あったけれど、小島は意識が朦朧としていて、その時何を話したのか覚えていないし、電話中に意識が飛んだ。

 

小島が気が付くと顔に違和感があった。

冷えピタが顔中に貼られていた。

そして台所に誰かがいた。

 

小島はゆっくり起き上がって台所へ行ってみると、そこにはKちゃんが、おかゆを作っていた。

1時間30分かけて小島の家まで来てくれていたのだ。

 

小島「えっ、なんで!?」

 

K「何で!?じゃないよ~、電話中に急に声聞こえなくなるし、あわてて来ちゃったよ。」

 

小島「てか、嫁いたらどうするつもりだったん!?」

 

K「ね(笑) そしたら…トシ要らないなら私に下さいって土下座するかな?!」

 

小島はKちゃんに おかゆを食べさせてもらって、そのまま眠りについた。

小島が目覚めると、Kちゃんが小島の顔を見ていた。

 

「ずっと起きてたの?」

 

「ずっとトシの顔見てた」

 

「イタズラしてないよね!?」

 

「ごめん。キスはした。」

 

「風邪移るじゃん!」

 

「いいの…それでトシがよくなれば…それより好きな人の寝顔って見てるだけで幸せになれるね。」

 

「ブサイクだったろ?」

 

「うん。ビックリするくらいね(笑)」

 

小島は後にこう語っている…

「起きて一番最初に見る顔がKちゃんってこと…それがどんだけ幸せな事だったか…この時の俺にはまだわかっていなかった…」

 

 

それから数日経つと小島の風邪も治って仕事に復帰した。

小島の働くガソリンスタンドの道向かいに役場があるのだけれど、その役場から将軍の奥さんのカホちゃんが出てくるのを小島は発見した。

「役場に何の用事だろう?」と思った小島は、カホちゃんの所へ行った。

 

小島が「オーイ!どしたん?役場になんか珍しいじゃん。」と言うと、いつも明るいカホちゃんが浮かない顔でこう言った。

 

「将がさ…病気になっちゃって…その事でちょっと役場に者類もらいに来たのよ…」

 

「病気!?肩が痛いって言ってなかった?」

 

「まだ誰にも言ってないんだけど…小島には今日の夜電話しようと思っててさ…白血病になっちゃったの…」

 

「えっ!?…白血病!?…助かるん(汗)?」

 

「わかんない…私もまだ気持ちが追いついてなくて…」

 

「わかった…なんか俺に出来ることあれば何でも言って。」

 

「うん。ありがと…小島には経過とか逐一連絡するから。まだ他の人には黙ってて。」

 

「うん。わかった。連絡頂戴。」

 

カホちゃんが車で帰った後も小島はその場から動く事が出来なかった。

小島の認識では、白血病は死ぬ病気だった。

 

「将君が死ぬ!?」

 

体の震えが止まらなくなった。

そして小島は無意識にKちゃんに電話をかけていた。

 

声も震えながら「将君が…将君が…」と言う小島にKちゃんは…

「トシ!落ち着いて!事情はわかった。待ってて!」と言ってKちゃんは電話を切った。

 

小島には「待ってて!」の意味がわからなかった。

それより自分に何が出来るか必死に考えた。

けれど何一つ小島に出来ることなどなかった。

 

その日、小島は仕事を早退して家で1人ない知恵を絞って色々考えていた。

気がつくと、もう夕方になっていた。

 

Kちゃんから電話が鳴った。

「今トシの家の前に来てる!出てこれる!?」

小島が家から出るとKちゃんの車が停まっていた。

小島はKちゃんの車に乗り込み、少し走って公園の駐車場で停車した。

 

Kちゃんは、小島に「はい!これ!」と言って荷物を手渡した。

それは…

将軍の家の神棚に置く用のお札(ふだ)。

将軍、カホちゃん、小島の御守り3つ。

そして白血病の事、白血病になった家族が知っておくべき事やできることなどが、びっしり書かれた資料をプリントアウトしたファイルを将軍用と小島用に1冊ずつ。

 

そしてKちゃんは「トシ!大丈夫!トシの大事な友達は死んだりしないよ!絶対助かるから!だから泣かないの!」と言って小島を抱き締めた。

小島はいつの間にか泣いていた。

 

「将君が死んでしまうかも…」という恐怖、そして自分の友達の為にこんなにしてくれるKちゃんの優しさがごっちゃになって小島は泣き続けた。

そんな小島を泣き止むまでずっとKちゃんは抱き締めてくれていた。

 

小島が落ち着くと、Kちゃんは小島を家まで送ってくれた。

そして小島との別れ際に、

「病気ってね、知らないから怖いの!知ってしまえば闘い方は必ずあるの!

トシは将君やカホちゃんの支えになってね。トシは私が支えるから!」

そう言ってKちゃんは帰って行った。

 

小島は後にこう語っている…

「Kちゃんは、俺がかけて欲しい言葉をいつもくれていたんだ…

心に響く言葉をくれたり…グーパンチをくれたり…振り幅の広い女性だったけど(汗)」

 

それから将軍は入院して、1ヶ月以上を無菌室で過ごす面会謝絶となり、小島はお見舞いにも行けなかった。

 

 

 

つづく

小島には、Kちゃんに言えない悩み事があった。

それは、ミーコとの関係だった。

 

小島とミーコは、以前に書いた世にも珍しい手マンフレンド、略して『手フレ』の関係である。

小島は、手マンでミーコの潮を吹かすけれど、セックスは1度も無い。

 

小島は、結婚する前に作った借金の返済で毎月都内へ行っていた。

その時にミーコの潮を吹かすのが恒例行事になっていて、それはKちゃんと付き合うようになってからも続いていた。

 

小島はKちゃんにぞっこんだったし、ミーコの要望に応えているだけで決して浮気ではないと思っていた。

「けれど、やっぱりこれは浮気になるのか?」と小島は悩んでいたのだ。

 

だからといって小島は、おっかないKちゃんに「これは浮気なのか?」と聞けるわけもなかった。

 

 

 

つづく

2人はいつもプレハブのラブホテルを利用していた。

そのホテルは、冬にはこたつがあって、こたつの上にみかんまで置いてあった。

しかも夜8時から入室して宿泊とフリータイムで次の日の夕方5時までいても11000円と格安だった。

 

小島は、利用しているうちに受付のおばちゃんとも仲良くなって、家のニワトリが産んだ卵や畑で取れた野菜をお土産に持たしてくれる仲にもなった。

きれいな部屋ではなかったけれど、カラオケまでついていたしDVDも見れたので、2人には十分だった。

そんなホテルにも1つ難点があって、コンセントがベッド周りになかった。

 

ちょうどその頃、世間では電マが流行り出していた頃で小島もいち早く導入していた。

けれど当時はコードレスタイプの電マはなくて、コードタイプだったのでベッドで使えなかった。

テレビ近くのコンセントに差して、ソファーでプレイするのが限界だった。

 

しかし幼き頃、神童と呼ばれた小島はいいことを思い付いた。

「家から延長コードを持ってくればいいんだ」と。

それによってベッドでの電マプレイが可能になってKちゃんも大満足だった。

 

 

小島が不倫する日は決まってナツの夜勤の日だった。

 

そんなある日のこと、ナツの夜勤にあわせてKちゃんと会う約束をしていた小島は、前の晩からワクワクしていた。

ナツが小島の部屋に入ってくることは滅多にないので、バックにお泊まりエロセットを用意して、2階の自分の部屋のこたつの中に隠しておいた。

 

そして2人が会う当日、小島は仕事が終わってからのKちゃんとのプレイを想像して、勃起しながら帰宅した。

小島は、2階の部屋に入って固まった。

お泊まりエロバックがこたつの上に置かれ、中身の電マや延長コード、ローターにコスプレ制服などなど全てのグッズが出されていたのだ。

小島の勃起していたちんこが、一気にクリトリスくらいの大きさになった。

 

「血の気が引くというのはこういう事か?」と小島は思った。

「まぁジタバタしてもしゃあない」と小島は、エログッズをバックに詰め直して出かけ、いつも以上に熱いセックスをした。

 

しかし、ふとよぎるエロバックがバレたと言う現実。

小島は家に帰りたくなかった…

そして家に着いても何の言い訳も見つからなかった。

 

夜に帰宅すると、案の定ナツにその事を問い詰められた。

追い詰められた小島がその場の勢いで言った言い訳が…

 

「あのな…隠してた事なんだけど…

俺な…東京でマダム相手に金もらってセックスしてんだよ。

お前も俺が金ないの知ってるやろ?

この前俺が20万持っててビックリしてただろ?

お前にはパチスロで勝ったと言ったけど…

あの金…自分の体売って作った金なんだよ。」

 

しばらく黙っていたナツがやっと口を開いたと思ったら…

「延長コード…どんなプレイなん?」だった。

 

小島は「電マに繋ぐコードだけど」と正直に答えた。

 

 

 

つづく

Kちゃんは昔から霊感が強くて数々の心霊体験をしている。

そして入院している時間を利用してかなりの本も読みあさって、軽い徐霊も出来るようになったと小島は聞いた。

 

小島はそんな話を聞いたので、小島の家の2階に住んでいる幽霊の話をKちゃんにした。

小島には幽霊が見えないけれど、足音やドアを叩く音や気配を何度も感じていて、鉄郎も実際に体験しているし、女友達が家にきたときには「2階に女の人の霊がいるよ」と言われた話をした。

 

するとKちゃんが「じゃあ、どんな霊がいるか見に行こうか?」という話になって、小島の家に来てくれた。

さっそく2階に案内すると、Kちゃんは部屋の入り口に立ったまま部屋へ入ろうとしない。

小島が「どうしたの!?」と聞くと「いやね…入り口に女の霊が立っていて私をこの部屋に入らせないようにしてる。どうする?ぶっ飛ばしていい!?」と言った。

 

「えっ!?ぶっ飛ばせるの!?

てか、やっぱり女の霊なんだ!?

特に俺には害がないから、とりあえずぶっ飛ばさなくていいよ(笑)」と小島は答えた。

そして「どういう霊がいるの?」と聞くと、

 

「たぶんずいぶん昔に亡くなった人だと思う。

着物を着ていて髪も長い。

地縛霊だとは思うけど…トシにこれからも害がないとは言い切れないよ。」

 

「まぁ今の所は害がないなら徐霊はいいよ!」とKちゃんに霊を追い払うのをやめてもらった。

 

 

ある日、いつものプレハブホテルでKちゃんと会っていた夜のこと、小島は先に寝てしまった。

 

小島は、Kちゃんの声がしたので目が覚めた。

まだ小島は寝ぼけていて「電話してるのかな?でもこんな時間に?」と思いながらぼんやり目を開けると、Kちゃんは小島と向かい合った体勢で携帯を持っていなかった。

小島には自分の後ろの誰かと話しているように見えた。

 

「えっ!?誰かいるの!?」と小島は目覚めてきて「Kちゃんどした?」と聞くと…

 

「あっごめん(汗)起こしちゃった?トシん家にいる霊が憑いてきてしまったみたいで、今、トシの後ろに立ってるのよ…」

 

「マジで(汗)ここに来てんの!?で、ケーちゃんは何話してたの!?」

 

「えー…ここはあなたの来ていい場所じゃないよ。もしこの人に何かしたら私が許さないからって言ったの(笑)」

 

「もし俺に何かしたらどうすんの!?」

 

「もちろんぶっ殺す!」

 

「いやいや、もう死んでっから(笑)」

 

「そっか(笑)」

 

小島は「こっちおいで!」と言って、Kちゃんを抱きよせ「ありがと…Kちゃん…」と言ってからキスをした。

 

6月があと少しで終わり、夏がもうすぐそこまで来ていた。

 

 

 

つづく

ミズエから電話があって「トシくん!いつになったらKさんに会わせてくれるのよ!?」と小島は催促された。

小島は、すっかりそんな約束をしてたことを忘れていた。

 

なので小島は、Kちゃんに電話をして事情を説明すると「私に会いたがってくれてるのぉ!?嬉しい!じゃあ明日の夜にでもカラオケ行こうよ!」となった。

 

そして次の日、小島の相棒的存在の鉄郎も誘って4人でカラオケに行くことにした。

ミズエは、人の懐に入るのが上手で30分もしない内に「K姉ちゃん!」なんて呼んで、Kちゃんと腕組んで女子トークをしていた。

小島と鉄郎が誇張した長渕剛ものまね対決を繰り広げていても、Kちゃんとミズエは自分たちの話に夢中で、小島たちの歌を聞いていなかった。

 

ミズエはその頃、ミュージシャンを目指していたほどの腕前だったので、みんなに圧巻の歌声を披露した。

Kちゃんもキャバクラで鍛え上げた『桃色吐息』や高橋真梨子の『ごめんね…』で色気のある魅力的な歌声を披露した。

 

そんな楽しいカラオケも終盤に差し掛かった頃、小島はKちゃんの機嫌が良くないことに気がついた。

小島には、思い当たる節がない。

けれど必死で色々考えていたときに不機嫌の原因が小島の目に飛び込んできた。

 

不機嫌の原因はキーホルダーだった。

小島はKちゃんと初めて会ったクリスマスの日に「お揃い」と言ってキーホルダーを2つプレゼントしている。

その時に渡したウルフマンブラザーズのキーホルダーは、確かに小島とお揃いだ。

けれど、もう1つのバウンティーのキーホルダーは、友達にお土産感覚で5つ買ったうちの1つを渡していたのだ。

そして小島は、ミズエからバレンタインデーのケーキをもらった時にバウンティーのキーホルダーをお礼として1つあげていた。

そんなお土産感覚キーホルダーが、ミズエのバックに分かりやすくぶら下がっていたのだ。

 

「ミズエも持っている…これが原因か!」と小島は察した。

そして「しまったぁ~!!ミズエに、ちゃんと説明するか、Kちゃんに正直に話しとくべきだった~!!」と思ったけれど、時すでに遅しだった。

 

小島はKちゃんに近寄り「Kちゃん?怒ってる!?」と聞くと「べつに(怒)今はミズエちゃんも鉄君もいるからさ…トシ!後で話があるから!!」

 

「ブチキレとる~(汗)」

 

元ヤンのKちゃんの声のトーンは、かたぎでは出せない怖さがあった。

それから30分カラオケは続いたけれど、その間の記憶が小島にはまったくない。

 

カラオケが終わって、鉄郎にミズエを送ってもらう事になった。

当然小島はKちゃんを家まで送ることになる。

そしてKちゃんの家までは1時間ほどかかる。

小島は、これから地獄のランデブーが始まるのだと思うと、「楽しかった!また来ようね♪」なんて言いながら帰って行く鉄郎とミズエを見送りながら「行かないで~(泣)」と心の中で叫んだ。

 

小島とKちゃんが車に乗り込んで出発してから最初の15分はお互い無言だった。

それから静かな口調でKちゃんが口を開いた。

 

「トシ、なんか言うことは!?」

 

「え~と…まず言い訳してもいいっすか!?」

 

「言ってみ、じゃあ(怒)!」

 

小島が言い訳を始めるとKちゃんの相づちは「で!?」「へぇー、で!?」とめっちゃ怖い…

 

「まぁだいたいわかった…でも私はトシとお揃いって事が何よりうれしかったの!

違う物だったら気にもならないけど…私と同じものをミズエちゃんも持ってて…ミズエちゃんにも『俺とお揃いだから!』ってあげてるトシを想像したら凄いムカついてさ(怒)!」

 

「はい。ごめんなさい。」と、小島は素直に謝った。

 

しばらく2人で黙っていると、Kちゃんの顔の表情も和らいできたので、小島は「なんとか乗り切った~」と思っていた。

 

が、

 

「じゃあ…もう許すから…一発殴らせて!」

 

「えっ!?殴んの!?」

 

「うん。それで許す!」

 

「まぁいいけど…じゃあ次信号で止まってからね…」

 

小島は思った。

「俺は殴られる程の事をしたのでしょうか?」と。

 

そして赤信号で停車した。

小島がKちゃんの方を向くと、握り拳を固めていた。

 

「えっ!?グーなん!?」

 

「そだよ!じゃあチョキがいい!?」

 

「えっ!?目潰すの!!」

 

そんなやり取りの後、小島は本気のグーで殴られた。

小島は後に語っている…

「普通に痛かった…」と。

 

「あ~スッキリした!仲直りはフェアじゃないとね!トシも私を叩いていいよ!」とKちゃんが言ってきた。

 

小島は「じゃあ歯を食いしばれ!」と言って拳を握ると、「グーなん!?」とKちゃんは言った。

もちろん小島が本気で殴るわけがなく、Kちゃんの目を瞑らせてビンタと見せかけてキスをした。

「プップー!」と後ろの車からクラクションを鳴らされて、小島は慌てて車を発進させた。

 

仲直りが出来て小島はうれしかった。

もちろんそれはKちゃんも同じだった。

 

 

 

つづく