小島の奥さんのナツは運動音痴で、そのおかげで小島は色々笑せてもらった。
ナツがキャッチボールをしたいと言うので、小島はグローブを買ってあげたのだけれど、いつも数球でボールがナツの顔面に直撃し、ふてくされて辞めてしまう。
他にも小島はプロにスカウトされるほどボーリングがうまかったので、ナツにもボーリングを教えたけれど、ちっとも上手くならなかった。
小島が、ナツに対して一番運動音痴を感じたのは走り方だった。
ナツは、いたって本気なのだけれど、小島から言わせればふざけているとしか思えない走り方をする。
「ナツの走り方の面白さは見たものにしかわからない」と思った小島は、地域の運動会のリレーにナツを参加させた。
すると小島が思った通り、ナツが走ると会場から笑いが起きた。
そんなナツが、ダイエットの一貫として夜にジョギングをすると言い出した。
小島は「駅弁でパワーボムされたことを気にしているのだろう…」と思ったけれど、そこは黙っておいた。
そしてナツは「1人だと怖いから付き合って!」言ってきたので、小島は毎日付き合ってあげた。
そんなある日、いつものようにサウナスーツを着て2人でジョギングへ出掛けると、栗の木が茂っている辺りから獣の鳴き声が聞こえた。
通りがかった車のライトで栗林が照らされると、イノシシの集団が見えた。
その中に他のイノシシよりもふた回りほど大きなイノシシも混ざっていて、さすがの小島も「襲われたらヤバイ!」と思い、そっと後ずさりをしながら距離を取った。
けれど1匹がブヒブヒ鳴きながら2人に向かって来た。
小島は「逃げるぞ!」と言って走り出した。
けれどナツは、足が致命的に遅い。
ナツが「待ってよ~」と言ったので小島が振り返ると…
必死の形相でふざけた走り方をしているナツが目に飛び込んできた。
ただでさえ面白い走り方をしているのに必死の形相が加わって、小島は笑いがこらえられずに脇腹が痛くなり走れなくなった。
イノシシがまだ追いかけて来るので小島も頑張って走ったけれど、ヘンテコな走り方をしているナツに追い付くことが出来なかった。
小島にとって「火事場のクソ力ってこういう事を言うんだな!」と思った出来事だった。
小島は後にこう語っている…
「テレビを見ていて、運動神経悪い芸人でフルポン村上の走り方で爆笑してるナツに…
『お前に笑う資格ねぇぞ』って言ったら…
『イノシシに追いかけられたら私速いから』と自慢げに言っていた。
俺が言ってるのは…速さじゃなくて走り方なんだけどな…」
つづく