Kちゃんが亡くなってから、数ヵ月経った。
けれどKちゃんは、小島の夢に現れることが1度もなかった。
どうしてもKちゃんに会いたかった小島は、枕の下にKちゃんの写真を置いて寝たりもしたけれど、それでもKちゃんには会えなかった。
朝起きてKちゃんの写真がしわくちゃになっていた時は、Kちゃんの顔が怒っているみたいになっていて小島は焦ったりもした。
少し時間を戻って、小島とKちゃんが知り合った頃、小島はにわかに信じがたい話をKちゃんから聞いた。
Kちゃんは小さい頃からいくつも病気にかかっていて、度重なる病気に親が「何か変なものが取り憑いているのでは?」と心配になり、中学生の時に霊能師に見てもらった事があるらしい。
見てくれた霊能師が言うには、Kちゃんの中に魔物が取り憑いているとのことだった。
その魔物が、いろんな動物の霊を引き込んで、その動物たちの霊がKちゃんの体を蝕む病気をもたらしていると言うのだ。
動物の霊を徐霊することは可能なのだけれど、元凶の魔物は霊力が非常に強くて人間レベルの霊力だと除霊することは出来ないとのことだった。
小島は、その話を聞いて「へぇ~」と言ったら「信じてないでしょう~(汗)まぁどうすることも出来ないみたいだし…私もそんなに信じてないけどね。」と言ってKちゃんは笑っていた。
Kちゃんがいなくなって、そんなこともすっかり忘れていた1月の寒い日のことだった。
初めてKちゃんが小島の夢に現れた。
その夢でKちゃんはずっと謝っていた。
「ゴメンねトシ。ほんとにゴメン…」
小島が「何が?Kちゃん謝ることなんて何もないよ!謝らないで!」と言っても…
「ゴメン…ごめんなさい…」
と手を合わせて拝むようにKちゃんは謝るだけだった。
小島は、Kちゃんに近寄ろうとしても距離を縮めることが出来ない。
「待ってKちゃん。行くなよ!」
小島がそう言ったところでKちゃんは消えて夢の場面が急に変わった
いつものように2階のベッドで寝ている自分を小島が天井から見ている場面だった。
「えっ?俺!?」
小島は、たまに自分を客観的に見ている夢を見ることがあるのだけれど、その時はいつもと何か感覚が違った。
階段を不気味で大きな毛むくじゃらなバケモノがゆっくり上がってくる姿も見えた。
バケモノは、目だけが赤く光っていた。
「なんだこいつは!?」
寝ているもう1人の小島は、バケモノに全く気付いていない。
そして毛むくじゃらのバケモノは、どんどん階段を上がって部屋の前まで来た。
小島は、ベッドに寝ている自分に知らせたいけれど、どうすることもできない。
「ヤバい!」
そう思った瞬間バケモノが部屋のドアを開けて、ハッと目が覚めた。
そして小島は、寝ぼけながら時計を見た。
「もう仕事行かないと…寒っうぅ」と起き上がり、布団から出て仕事着に着替えて部屋から出ようとしたときに「ん?」と気が付いた。
部屋のドアが全開になっていることに…
「えっ!?なんで開いてるん?寝る前に絶対に閉めたはずなのに…」
と思いつつも急いで仕事へと向かった。
小島は、仕事へ向かいながら「そう言えば、初めてKちゃんが夢に出てきたな…でもなんであんなに謝ってたんだろう?」と考えていると、Kちゃんの中に住んでいる魔物の話を思い出した。
そして夢に現れた毛むくじゃらのバケモノが、Kちゃんに棲みついていた魔物だったのではないかと思った。
Kちゃんが亡くなって居場所を失った魔物が自分の所に来たのではないかと…
そのことをKちゃんは必死に謝っていたのではないかと…
小島は、変な夢のつじつまが合って急にゾッとした。
そして部屋のドアが開いていたということは、魔物が自分の中に入ったのではないかと思った…
そして、もう1つ不思議な事が起こった。
小島の家には固定電話があるのだけれど、昼間に親から電話がかかってくるくらいで誰からもかかってくることが無い電話だった。
そもそも携帯電話があったので、家の固定電話の番号を人に教えることすらしていなかった。
ただ一人を除いては…
小島は、Kちゃんと最後に会った日に、Kちゃんに宛てた手紙を書いた。
その時に、なぜだか覚えていないけれど、家の固定電話の番号も書いた。
そんな家の固定電話が親以外から初めて鳴った。
それはKちゃんが亡くなって初めての小島の誕生日の深夜0時ちょうどのことだった。
小島は、こたつで寝ていたのだけれど、聞きなれない固定電話の音で目が覚めた。
聞き慣れていない音と寝ぼけていたせいもあって、電話を取るのが遅くなった。
「こんな時間に?誰だろ?」と受話器を取ろうとした瞬間に電話が切れた。
小島は、イタズラ電話の類いだと思った。
その後、携帯電話に友達から誕生日おめでとうメールが届いて「あっ、今日俺の誕生日か!」と気づいた。
そして自分でもにわかに信じられなかったけれど、電話をかけてきたのはKちゃんではないかと思った。
小島は、その後も10年その家に住み続ける。
その間、使わない固定電話を解約せずにおいたのは「もしかしたら、また誕生日にKちゃんから電話がかかってくるんじゃないか?」と思ってのことだった。
結局、真相はわからず仕舞いだし、それ以来1度も電話が鳴ることが無かったけれど、世界中の人が「それは勘違いだ」と言っても小島はKちゃんからの電話だったと思っている。
第三章 完




