一時期、ほぼ毎週のように通っていた山手線の駅に行った。
相変わらずすごい人通りで、というか道が狭いだけか。
そんな人混みを抜け、少し歩くと閑静な住宅街に入った。
「老後を暮らすにはのんびりできる場所なのかなぁ…」と思ったがよくよく考えたらここは大都会だった。
そして、途中で道を一本間違えたが、目的の古びたアパートにたどり着いた。
「ドラマや映画だったら、スーツ姿の中年の男が、こんな人気のないところをうろうろ見て歩いてたら、通報されるんだろうなぁ」なんて思った。
通報はされなかったが、先ほどから目に入っていたご老人に話しかけられた。
「どちらさまですか?」と。
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そこで私は、かくかくしかじかで、と説明した。するとよっぽど似ていたらしく「あぁ、息子さん!?」とその方はおっしゃって、父が住んでいた部屋を見せてくれた。
7年くらいそこには住んでいたらしい。定年退職まで勤めた後、安い家賃の家に引っ越してきたのだろう。
その方は父と親しくしてくれていたらしい。父の最後の職業が警備員だったこと、相変わらずお酒が好きで大家さんとアパートの住人の方とよくお酒を飲んでいたらしい。花が咲くころは楽しくお花見も、敷地内でしたそうな。
親しくしていた女性もいたらしい。
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「お酒で迷惑をかけていませんでしたか?」と私は聞いた。親しくしてくれていた人に、亡くなった人の悪口を言う気にはなれなかった。私に苦しみを数十年にわたり植え付けた人だったとしても。母に暴力をふるい、とことん追い詰めた人だったとしても。
父がいたから私がいるのは間違いない事実。
例えば、戦争の是非はひとまず置いておいて、そういう戦争で散っていった人たちがいるから今のこの時代があるわけで、それは受け入れざるを得ない事実。
それと似たようなことで、憎しみや悲しみを抱いていても、父がいたから私がいる。その父を否定するようなことは、年齢とともに言いづらくなってきた。
話は戻るが、その話をしてくれた父のご友人は「お酒は好きな方だったねー」とだけ言っていた。そのお酒で、私たちがどれだけ苦しんだか。
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実は、私たちが家出をしてから一度だけ父から手紙が来たらしい。どうやって調べたのか、いや、その気になれば簡単だろうとは思うけど。どうせ読んでも意味ないと思い私は読んでいない。ただ、母から聞いた話では、恨みつらみが書いてあり、「お前たちのやったことはあまりにひどすぎないか?」と書いてあったらしい。
父は父でそう思っていたらしい。私たちに何をしたかもわかっていないのだろう。自分だけが被害者になっている書き方だ。
きっと30年近い年月の中で、私たちに思うところはあっただろう。いつも心のどこかにあり、逆に父の悲しみ苦しみの原因に、私たちがなっていただろうと思う。
まぁ、それでも人生の最後に親しくしてくれた仲間と女性がいたと聞いて少しほっとした。もちろん私たちの事も心のどこかで憎んでいたと思う。でも、仲間に囲まれた幸せな生活が送れたならよかった。
私が父に、憎しみと悲しみを抱いていたとはいえ、「地獄に落ちろ」と思っていたわけではない。
その親しくしていた女性は、もう引っ越したらしい。
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案内をしてくれた父のご友人は、一緒に住んでいた仲間に連絡をし、私とをその件の女性と会わせて良いものか、父の写真がないか、調べてくれようとしていた。
しかしその間も、「そんな父の生活を知って一体何になる?」と自分に問いかけていた。
結局、父の写真を持っている人はその場では見つからず、おそらくその父と親しくしていた女性は持っているだろうということだった。
「もし、お父さんの写真が欲しいと思ったら、また来てください。今年中はまだ私はここにいますから」と父のご友人はおっしゃっていた。
そうだ、時間は有限なんだ。また私はここでも判断を迫られたことになる。昨日は台風で天気が大荒れで、たまたま雨がやんでいた時間に行くことができた。そして明日から休みという状況だったから、訪ねることができた。
そして、いま私は個人事業主で毎日働いている。次の日の仕事を考えると、どれだけ時間をさけるかわからない。
そこまでしても、父の最後の写真と、父がどんな生活をしていたかという話を手にしたいのか?
その時も言ったのだが、私もどうしたらよいのかわからない。
最後に気になっていたことを私は聞いた。父はどうしてここから引っ越したのか?と。すると
「内臓を悪くされてね…。肝臓か膵臓か。最後は車いすでしたよ」ということだった。
そりゃそうだ。若いころからずっと酒が好きで晩年だって、暇があれば一日中飲んでたっていうんだから、そうなってもおかしくない。私はアルコール依存症を疑ってはいるが、山口メンバーみたいなもので、医者判断では違ったのだろうとも思う。
そして、兄弟に引き取られていったらしい。時期から考えて、たぶんそこからすぐ亡くなったんだと思う。おそらく、親戚のお墓に入ったのだろう。それと同時に、意図的にか頭が回らなかったのか、父のお金の受給を停止をしなかったのだろうと思った。
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父の兄弟といっても良い年だから存命かどうかもわからないし、お墓があったとして、行く勇気はない。いままで父方の親戚とは接点が全くなかったし、きっと私たちの事は悪く言われているに違いない。下手をしたら引き取って墓を作れと言われかねない。
または、お金を払えと言われる可能性もある。
今私は自分の生活で精いっぱいで、これ以上の出費はまず無理。もうこの辺でやめた方が良いと、どこかから声が聞こえてくる気がする。
まだ、私の過去との決着はつけられていない気がする。しかし、ひとまず、父の住んでいた街を訪れたことで、最初の目的は十分に達成したと思う。
今後このままでいるのか、さらに追及していくのか私自身もわからない。
でも私が父との生活から逃げ出したことで、父が地獄のようなつらい生活を送ることにはなっていなかったことが分かれば、それだけで私が背負っていたものが下ろせた気がする。
ひとまず、父の事に関しては、もう少し考えることにする。。
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