こんな生活のルーティンワークの上で、時間だけがアルミホイルの上の覚醒剤の様に溶けていった。
生活時間帯の乱れと仕事の興奮と疲労と、化けの皮を剥がしキチガイ剥き出しのトラウマの履歴書と
歪んでいない衣服と言動の裏に隠された歪みきった思考と嗜癖の履歴書を余白が無くなるまで
埋め尽くした様な客たちのまなざしが、肉体からも精神からも落ちなくなって、私はそれらをだんだん
抱えきれなくなると同時に、それと引き換えに思考がシャープに働かなくなっていった。
日常的にぼんやりと虚空を眺めるようになり、仕事以外は思考がフリーズする様になった。
ぼんやりと虚空を見つめる私のまなざしの先なのか、心の中なのかよく分からなかったが
確かに認識できる違和感が、大きく大きく地球のように大きく毛糸玉のように膨れ上がり、
無数の処理せねばならない糸は、一体どこから糸をひけば解けていくのか分からないほど
こんがらがっていた。
いつも脳みそに微熱があるようで、仕事以外の気力がなくなっていった。
たとえ前日の仕事が夜中になっても欠かさなかったダンスのレッスンに行く気力が消えていった。
出勤と仕事と睡眠だけが人生の義務であるように、それしか出来なくなった。
私は時間が空くと、町をほっつき歩く様になった。
ネオンでギラギラ輝いている路地から始まり、目先の欲望とくだらない現実逃避の渦のエネルギーを
浴びた後、痩せた桜の木が並ぶ路地の植え込みに腰をかけ、ぼんやりと虚空を眺め、その風景の
一点のシミになり、ただ風に吹かれることが多くなった。
ものすごい勢いで休みなく働き始めた私がこの町に馴染むのに時間は必要なかった。
昭和初期であれば、少し離れれば立ちんぼがいる様な環境。
太陽と、自然の摂理と、大多数の日本人が抱く倫理と逆行する人種で構築された町。
弁護士の客が 「貴女がこれを着たら完全にカタギに見えなくなるので、是非これを着て欲しい」 と
買ってくれたフェイクファーのロングコートの襟を立て、前をしっかりしめていつものごとくボサーっと
し始めた。
そういやこの町に来る前は・・・ホステスやってたよなぁ・・・
いつもの病院で右腕をまくって、慣れた手つきで右腕内側の皮膚をさすり血管を浮き出させていた。
看護師が私の腕に針を刺し、太い注射器で薬液をゆっくりと静脈に入れていく横で医者が口を開いた。
「あなたさ~、こんな生活続けてたら死んじゃうよ。飲み過ぎですよ。腸がこんなに炎症起こしていて、
こんなに点滴打ちに来てもまた飲むんでしょう?」
私の腸の写真を目の前に貼りながら、呆れ顔でドクターにこう言われたんだっけな・・・