ナザールボンジュウ 15 違和感 | アダルトチルドレン時々日記

アダルトチルドレン時々日記

機能不全の家族の中で育ち、その後遺症を人生上に色濃く残し、一般常識とまともな生活を知らず、悲観的なことを言いつつ能天気な性格でふらふら気ままに流転の人生を送っております。魂の病気と共存し狂気と正気を往ったり来たりする日常を徒然なるままに書き綴ります。

「な~に、シケたツラしてんのよ~。それともどこかいっちゃってるのかしら~?

女王様もコーヒー飲むぅ?」


皺だらけの指に、大昔に流行が過ぎたピンク色のパール入りのマニキュアを乗せた手が

異空間にスライドさせてくれる様な香りの湯気をたたえたマグカップを目の前に連れてきた。

ぼんやりと虚空の一点を見つめては動くことも瞬きも呼吸さえも忘れそうになる私を気持悪がったのか

ユミエがコーヒーを入れてくれたのだった。


この指はシャブとローションで皺だらけになったんだろう。 手は皺だらけだが、脳ミソには皺なんて

大してないのだろう。 しかし、彼女の作る料理は美味かった。 慣れた手さばきで料理を作る。

ハナクソみたいなコーヒーでも彼女が入れると美味しい気がした。

この脳ミソに皺がなさそうな下品な女の作る料理は、おふくろの味に飢え、今でもママンのオッパイと

共に生きているマザコン男どもを唸らせるほど美味しかった。

濃くない品の良い味付けの煮物など、こんなに美味しく料理を作るのに・・・どうしてここにいるんだろう?


アダルトチルドレン時々日記

女なんて、脳ミソに皺なんて作らなかった時代の方が・・・幸福だったのだろうか。

彼女たちがいつも自分より幸せそうに見える。


ユミエが中心になってする話は、いつも手に乗った金の重さの話と、ホストにどれくらい貢いだかの話。 

昔、自分がどれほど魅力的で男を手玉に取ってきたかの自慢話にクスリの話にダイエットの話・・・

それだけでいいのか。 それだけ話しとけば、幸せなんだろうか・・・・・


自分の存在理由なんて、要らないんだろうな。

生まれちまったから存在してるんだ。 選んだからこの道を歩いているだけなんだ。

どこに存在理由なんて必要なんだろう? 

退廃的な日常を彩る他愛もない会話の旋律は、私だけを置いて時間が過ぎていく様な孤立感を

連れてきて、何を考えてもすべてが答えを出せない疑問ばかりになり、それと同時に、どうしてここの

皆は何も疑問を感じないのだろうかという疑問を連れてくる様になった。


私は、どうして理由が欲しんだろう・・・・・  私は、何を求めているか分からなくなっていた。

良く考えようとすると、大きな透明のカーテンが自分の周りを取り囲んでくる気がして息が出来なくなった。

横になって考えようとすると、天井から大きな丸太が落ちてきて、自分を潰した。

その幻想から逃げられなくなっていた。



マグカップから立ちのぼるコーヒーの香りに、我を忘れてしまいたく、飲まずに香りを嗅いでいた。


「アンタ、それ吸って気持ち良くなるかね?」  ふいにユミエが言葉を投げた。


「え、いや・・・匂いがどれだけ脳を濡らすかと・・・ほら、コーヒーで南国な気持ちになって

解放的になって・・・。まぁ、なんちゅ~か、どこまで飛べるかという試みってやつかなぁ・・・」


ふいをつかれて苦し紛れにいつもの自分っぽいことを言う努力をしてみた。


「あ~ぁ、ここにも変態がいるよ。SM嬢ってのは人格が変態ってのが一番よね。」


「ただ・・・精神が病んでるだけですよ。」


「それは基本でしょ~。病んでるのが我々の健康じゃない。うちらが健康っている状態は世間から見りゃ

すごく病んでんの。 病んでないSM嬢がこの世にいるなら会ってみたいわ~。」


「あ、それ会ってみたいですね。アハハハ!・・・つぅ~か、やっぱ会いたくないかも。

だって病んでないSM嬢なんて最高の変態ってことじゃん。」

「ハハハ!マヤ、笑わせんなよ~。俺はお前たちが一番変態だと思ってんのによ~。

もっと最上級がいんのかよ~。」

社長が首を突っ込んできた。今日は電話の鳴りが悪い。 この商売は待ちの商売だから、予約の電話が

鳴るのを待つしかない。店が暇な時は社長も暇なわけで、こうして会話に参戦してくる。

「まぁ、そんな健全なSM嬢なんて今んとこいないから、うちらが最上級の変態だわね~。」


毎日繰り返されるその場だけのたわいもない会話と黄色い笑い声。

深く眠れないせいか、会話をしていながらみんなの声が遠くなる時がある。

最近はここに待機している違和感が出て来た。

解けない答えが多くなりすぎると、答えを探す自分を上空から見ている自分が出現するのと同じように、

待機室にいながら本当の自分は虚空の彼方にいる様な実感のない日々が続き、同時に女王様の仕事が

辛くなってきた。 仕事が出来ないわけではないし、指名が取れないわけでもない。

仕事を楽しめない。


やればやるほど辛くなり、私の背中には背負いきれないほどの、お客が置いていった業と欲望と

ストレスと渇きが張り付いて、ウロコの様に何重にも重なり、強張った背中からは自分の魂さえ出る事が

出来なくなって、夜な夜な横になると他人から与えられたウロコが精神の背中に刺さって悪夢で冷や汗と

歯ぎしりを起こす様になった。

こういうのを「壁にぶち当たった」というのだろうか。 でもこれ・・・ただの壁なのかしら。

何が原因なのか、日々少しずつ原因が溜まるとそれに気付かず、溜まった原因が大きくなった頃には

巨大な塊を前に、どんな原因が蓄積していったのか皆目検討がつかなくなる。



SMクラブの待機が辛くなってきた。 人と顔を合わせるのが辛いわけではない。

なにか・・・大きな重いものがいつものしかかっていて・・・解放されることがなくなっていた。

なんだか分からないけれど、これ以上仕事が出来ない様な気がしてきた。





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