【記憶】の続きを書けばいいのですが、思い出しちゃったんで先日の続きを書きます。
次の日の昼が待ち遠しかった。 マスミに早く電話をかけたかった。
同い年のマスミは私が17歳の頃にいたスナックに、やはり歳を誤魔化して入ってきたヤンキー女で
この度胸の良さは、突き抜けたバカだからなのかと思うほど、知性のかけらもなかった。
18歳の頃にはすでに50人くらいの男と寝ていた、喧嘩っ早い昔ながらの暴走族上りのヤンキーだった。
私とはまったく違う幼少期だったが、なんとなくお互い異人種に歩み寄ろうとする努力があった。
マスミはいつもこう言って私を苦笑させた。「ピヨちゃんって難しい言葉沢山知ってんだねぇ」
私はマスミが話す話の内容が良く解らなかった。 でもお互い仲は良かった。
そのマスミが今では、その地域を総括する組の組長の二号をやっている。
ほんの少し前までは三号だったらしいが、組長が二号と別れたので二号に繰り上げられたらしい。
しかし、どうせまた三号を作るんだろうという心配がついてまわる様になったようだ。
暇つぶしでホステスをやっているから昼頃まで寝ているだろうと思い、遠慮していたがたまらなくなって
11時に電話した。
「ピヨちゃん久しぶり~、いっや~元気だったぁ?」
「うん・・・マスミちゃん、こんな早い時間に起きてたの?」
「このぐらいの時間には起きるわよ。それより、ピヨちゃん・・・なんかあったんでしょ」
「あのね・・・今朝のニュースでも出たんだけど・・・昨晩、彼の舎弟が事務所で撃たれちゃって・・・・・」
「あ~あ~、ま~た物騒な事が起きたねぇ」
「でさぁ・・・心配なんだよね・・・」
「アンタの彼氏ってどこの組だっけ? だ~いじょ~ぶよ。一人死んだら次は無いわよ」
「マスミちゃん、アンタ冷静ね・・・」
まったく動じないマスミに一晩眠れずにいた私は拍子抜けしてしまった。 ちょっとは心配してよ・・・
マスミは続けた。
「な~に言ってんのよ、ピヨちゃん。アンタの彼氏なんて幹部でしょ。うちのは組長よ。舎弟が撃たれたなんて
偶然だったのよ。でもうちのなんて直で命狙われるんだよ。ピヨちゃんにしか言わないけどさ、
うちなんて寝る時に枕の下にチャカ入れてるよ。寝返りうったりしてたまに枕がズレたりしたら硬いのに
ぶつかってさ、あれ?なんだっけ?なんて寝ぼけてると思っちゃうんだよね。あ、そーかピストルだ・・・ってさ」
「そっか・・・マスミちゃんも大変だね・・・」
「まぁ、覚悟はしてるからねぇ。 ピヨちゃんも心配する必要ないよ。しばらく本部でバタバタするだろけど
1週間もしないうちに彼氏も帰って来るんじゃない? 心配だったら身の回りは整理しとけば?
クスリとかさ・・・でもこの程度じゃ警察なんて女のとこには来ないって。心配ないよ」
「うん、わかった。 ありがと、マスミちゃん。ちょっと元気になった。クスリ抜いとく」
「そーだよ、アンタ好きだからねぇ。私もたまにはやりたいけど、うちのがうるさいからね~。
心配だったらいつでも電話しといで、元気だしなよ!」
マスミはマスミでいろんな心配事があるんだな。 そうだよな、組長だったらピンで命を狙われるもんな。
私だったらそんなの耐えられるかな?
そもそも・・・私・・・ヤクザが好きなわけじゃないのに。ただクスリが好きなのといつしか周りがヤクザだらけに
なっているだけなんだよな・・・。なんか不思議だな・・・。
しかし昨晩のショックは相当なものだった。誰もが一生のうちに経験するものでもないだろう。
覚悟なんてしていても、それを目の前にしてみなけりゃ分からないんだ。
私は肝が据わった女なんかになれないよ。 驚いたし、眠れなかったし、心配だし・・・寂しいし・・・・・
でも、マスミのお陰で気持が晴れたのは確かだった。彼が殺されなかったんだから・・・よしとしよう!
でも・・・・・やっぱり舎弟が可哀想だ・・・痛かったのかなぁ・・・・・・・私は強くなんかなれない・・・。
20代半ばに差し掛かった頃の記憶でした 【終わり】
次回からはサボっていた『記憶』の続き書きます。
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