『友達ちゃんと作れよ!』

別れ際の彼女のセリフは、そんな明るいものだった。
高校生活1日目。入学式。
私は1人、クラスの隅に腰掛けている。
頭の中のイメージは彫像、もしくは空気。
平常心の3文字を胸にしっかり刻みつつ、私は口を真一文字に結んだ。
周りでは、どこ中ー?部活何にするー?などというどことなく弾んだ会話が花を咲かせている。
・・・別に羨ましくない。
コミュ障だから声をかけられないとか、そういうわけじゃない。
ほら、私は彼氏(もしくは嫁)は三次元より二次元派だから。
3Dは目が疲れるから苦手だし。
・・・・・・。
嘘です。ごめんなさい。すいません。神様白状します、実はめっちゃ羨ましいです。
羨ましすぎて友達が火星人でもよくなるくらい私の精神が危険です。
誰か声かけて!寂しいの!たぶんちゃんと話せないけど、それでも声かけて!
私、ぼっちで3年間過ごしたくないよーっ!!

『あんた、高校では1人だよ?』

私と中学まで一緒だった悪友、美幸の声をふと思い出す。
同級生でも敬語、職員室とかただの地獄、男子?話したら死んじゃうというレベルのコミュ力の私に、彼女はよく呆れていたものだ。
中3になってからは口癖のように高校では1人と言っていたが、既に現実となりつつある。
美幸・・・恐ろしい子!
まあ今のは冗談だとしても、彼女はなかなかのコミュ力を持っていると私は思う。
その証拠に彼女は他県の高校に進学して、もう友達を作りつつある。
いわく、合格発表の日に仲良くなったとか。
・・・もう、お前なんか友達じゃない。
と、それを聞いて一時いじけたりもした。

それにしても、なんだか変な感じ。
いつも隣にいるのが当たり前だったのに。
今は1人。まともなコミュニケーションひとつとれやしない。
本当に、助けられてたんだな・・・。
今更ながらそんなことを実感し、妙に気分がざわつく。
ほんのちょっと切ない気持ちになってしまって、あわてて窓の外を眺めた。
第67回入学式。達筆な文字の看板が遠目にうすぼんやり見えて。
3年前の雨の中学校入学式の風景がフラッシュバックした。
薄ピンクの桜の花弁が鮮やかに舞い散り、私の瞳が桜色に染まる。
新入生の証の紅白の花飾りが、卒業式での美幸のピンクの花飾りを彷彿とさせた。
彼女は、ほんとにここにはいない。
私は高校生になり。
みんなみんな、バラバラになり。
ほんのちょっぴり、大人になり。
一人前の大人みたいに、別れを実感したり。
・・・・・・。

「ねえ、体調悪いの?」

美幸とは正反対の鈴を転がしたかのような可憐な声。
反射的に顔を上げると、彼女と同じように2つに分けられた髪型が目に入った。
私を気遣うような表情のその子は、女の私から見ても十分可愛い。
ぶっちゃけ、この子が二次元だったら嫁認定してる。
「あ・・・だ、大丈夫です」
しどろもどろになんとか答えると、一瞬変な顔をした女の子はすぐににっこりと笑った。
「よかったあ。あ、私ね春香っていうんだ。あなたは?」
「あ・・・」
淀みない自己紹介に、思わず口をつぐむ。
ゴクリと唾をのむと跳ね上がる心臓がわずかに治まった。
カラカラに乾いた喉をゆっくりと空気が通っていく。

『とりあえず、名前言って笑え。言葉通じるんだし』

「吉永 奈々・・・です」
慎重に言葉を紡ぎ、僅かに口の端を上げる。
にっこり微笑むなんて、私には難易度が高い。
きっと今の私は不気味な顔なんだろうな。
妙に冷静な頭でそんなことを考えていると、よろしくね!という明るい声が降ってきた。
きらきらと、日の光が春香ちゃんの瞳を輝かせる。
なぜだか、頬がカッと熱くなった。
「よ・・・よろしくお願いします」
ガバッと頭を下げると、ドキドキと高鳴る心臓の音がやけに近く感じた。
やっぱり、初対面の人との挨拶は苦手だ。
でも。

『まあ、頑張りな』

ちょっとだけ、頑張ってみてもいいかもしれない、と。
記憶の中の美幸の笑顔に、素直にそう告げてみた。



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勢いだけでかいた短編です。ほんとに勢いだけ。
コミュ障な某友人をイメージしてかきました。意外とかきやすかった。