母がボケ始めたのはもうかなり前になる。

 

というより、ガンをきっかけに彼女は外見も内面も大きく変化してしまった。

今考えるとその頃からおかしかったのかの知れない。

 

どこの分かれ道でそうなってしまったのか、今となっては思い出せもしないが、ご立派な態度とは裏腹にそれは着実に進行していた。

一度電話を取ると不動産の勧誘の如く、しつこく電話をしてきては同じ話を何度もする。

仕事で疲れていると本当に鬱陶しい・・・

いつしか携帯の着信画面に”母”の字が出ると無視する自分がいた。

お情け程度に出る電話もすぐ嫌になり、「父さんに代わって」と言っては父親とばかり話しをするようになった。

両親はそんなことを気付いてかあまり連絡をしなよう気をつけているようだった。

 

 

それは師走の始め、父の誕生日の夜に起きた。

父親の携帯に連絡を入れるも出ない。まだ20時。いつもなら折り返してくるはずなのに一向に来ない。

自宅に電話をするもやはり出ない。

随分前から行方不明になったり、時々うっかり出現してくる母の携帯に連絡しても出ない。

 

翌朝8時に連絡を再度するも出ない。

ニュースに出てくる”介護の結果の無理心中”とか、嫌なワードばかりが頭に出てくる。

 

9時になるのを待って市役所に連絡をしてみた。

かくかくしかじかで親と連絡が取れないんですと・・・

市役所の男性はなまり交じりにこう言った。

 

「そういうことは警察に相談してください」

 

「え、警察などが家に行ったら親がびっくりしてしまいます・・・ご近所も気にするでしょうし」

 

田舎というものは警察に敏感だ。

警察=事件だし、ご厄介になる=問題人間のレッテルがつくという恐怖感がすごい。

とかく、うちの両親のような”真面目で世間様に恥じない生活を”精神の持ち主にとっては、警察が家に来ただけでこの世の終わりになりかねない。

 

ということを丁寧に説明してみたが、お役所にはお役所の事情があるのか、近くの交番の電話番号をネット検索するよう言われるだけだった。

期待はしていない中の期待はみごとにぶち壊された。

 

 

仕方なく、近所の交番の電話番号をGoogle検索し電話をかけた。

再度同じことを説明・・・

交番のおじさんは自宅へ行くことを極力渋ってくれた。

 

「ご近所に親戚が知り合いで見に行ける方はいませんか?」

 

仰る通りです・・・確かに伯父が近所に一人で住んでいるはず・・・

ただし連絡先など知る由もなく、住所も知らない。

連れ子再婚の親戚付き合いの難しさの末路をこの時改めて痛感したのだった。

 

結局、親戚付き合いも希薄な娘のアホさ加減を理解してくれ、双方望まない形だが警察官は我が家に出動してくれた。

白黒パンダよ、ありがとう・・・

 

それから約30分後、自宅の電話番号から私の携帯に連絡が入った。

 

「お母さん、無事でした。電話に気づかなかったようです。」

「お父さんは通院で朝出かけて行ったようで不在なようですよ。」

 

よかった。とりあえず無理心中からは脱出していた。

錯乱している母を電話越しでなだめ、警察官へお礼を言う。

 

その後、父とも無事に連絡が取れ一件落着に思えたこの出来事が、よもや始まりになるとは・・・

いや、先述した通りの問題に発展してしまっただけなのだが、今考えても他に対応がなかったのか悩ましい。

 

 

 

つづく・・・