小学5年生のトモ(柿原りんか)は母ヒロミと二人暮らしだが、ヒロミは家事らしい事は全くしない上男手入りが絶えず、なけなしの金をアパートに置いたまま男を追って蒸発。またかとウンザリしつつトモはヒロミの弟・マキオ(桐谷健太)宅に厄介になる事に。マキオは今ある人と一緒に住んでいるとトモに告げる。家に着くと性転換したリンコ(生田斗真)が待っていた。マキオは認知症の母が入所している老人ホームで介護士として働いているリンコと出会い、恋に落ちたのだ…。

 

 この所生田斗真の主演作を立て続けに観ている。主演作『告白 CONFESSION』が公開中なので、それに合わせ生田主演作をケーブルTVで連続放映…という事らしい。本作は『かもめ食堂』(06)で知られる荻上直子が自ら執筆したオリジナル脚本を映画化。母に育児放棄された女のコが、叔父&トランスジェンター女性のカップルと疑似家族生活を送る…というストーリー。生田が難役に挑戦しリリィ(本作が遺作に)、田中美佐子、小池栄子といったベテラン陣に加え桐谷健太、門脇麦、江口のりこといった、今主役級の俳優が出演。トランスジェンター問題をテーマにした事で、出品された第67回ベルリン国際映画祭で高く評価されて賞をゲット。

 最初は驚きリンコに馴染めなかったトモだが、フランクに接してくるリンコに心が絆され、3人は家族の様な生活を送る。リンコは男のアレを模した編み物をしており、煩悩の数(108個)だけ作ったら燃やして供養するのだとトモに言う。やがてトモもマキオも108個制覇を目指し一緒に編み物をする様になり、このままトモを養子にして正式な家族になろうと考える。でも周囲はそんな3人に冷たい。スーパーで会ったトモと親しいクラスメート・カイの母親は、トモがリンコに丸め込まれていると誤解し、激怒したトモから洗剤を顏に浴びせられた。根に持った母親は児童相談所に通報。そんなゴタゴタ続きの中突然ヒロミが戻ってきてトモを連れ帰ろうとする…。

 

 荻上監督の作風が『かもめ食堂』の頃と全く違っているのに驚いた。映画前半は頗る快調。小学5年生にも平気で下ネタを連呼し、卑下する所が全く無いリンコに好感持てる。田中美佐子扮するリンコの母親(20歳くらい年下の男と再婚)のおっぴろげなキャラクターも面白いし、親切ボカシな事を言うお節介なカイの母親(小池)も「いる、いる」って感じだ。前半のままならかなりの傑作になるかも…と予想したが、後半になると一転してシリアスな雰囲気になり、それに合わせて映画的にも失速していった感は否めない。こういうテーマを扱う以上深刻にならざるを得ない事情は分からないでもないけど、前半が良かっただけに何勿体ない気がする。

 

作品評価★★★

(周りの評価はともかく、荻上監督にはあんまり社会派映画風な方向に走って欲しくない気持ちが俺にはある。そんなのは某是枝とかに任せておけばいいではないか。性転換した割には生田の身体ゴツ過ぎなのは詮無い話? 40年前に観たリりィのいライブは良かったな…)

 

付録コラム~小演劇ブームから40年以上経った

 女優・木野花が『徹子の部屋』に出演した際に明かした実年齢(別に隠していた訳ではないが)がネット住民に衝撃を与えている。76歳というから立派な後期高齢者。お婆さん的な役はあんまり演った事がないから違和感が強かったんだろうが、彼女は30代半ばぐらいになってから漸く演劇界で名前が知られる様になった遅咲き女優。80年代初頭の演劇界を席巻した「小劇場ブーム」の際に女性だけの劇団『青い鳥』のメンバーとして活躍。86年退団後から積極的にTVドラマに出演する様になり、映画もゼロ年代からは途切れる事無く出演。『愛しのアイリーン』(18)の演技でキネマ旬報ベストテン助演女優賞をゲット、名実ともに現役名脇役女優の道を歩んでいる。

 

 

 対照的に一か月程前「もたいまさこが消えた」というニュースもネットで流れた。もたいまさこは1972年に渡辺えり子(現・渡辺えり)と『劇団3〇〇』を結成。やはり小劇場ブームの時に注目されたが、木野花と同じ86年に退団。89年にコメディドラマ『やっぱり猫が好き』に出演した辺りからTV界に引っ張りだこになった。映画では八百屋夫婦と中国人留学生の交流を描いた大林宣彦の『北京的西瓜』(89)に主人公の妻役で出演。荻上直子監督とは劇場映画デビュー作『バーバー吉野』(03)以来荻上作品の常連だった関係。もう3年近く女優の仕事をしていないとか。木野花(CMで共演経験あり)とは顏が似通ってるとの話もあり『徹子の部屋』に木野が出演した時、もたいまさこと見間違える人もいたとか。

 所属事務所の公式発表では女優休業中とのことだが、年齢(今年72歳)もあり、もう俳優仕事はやり尽くした気持ちになっていて、このまま引退という流れになりそうな気配もある。あくまで本人が決める事だし、それでもいいのではないか。

 二人のベテラン女優の話題がネットで出て、小劇場ブームからもう40年近くも経ってしまったんだなあ…としみじみ実感。一時期俺は演劇通の友人の影響もあって、2ヶ月に一回ぐらいの割合で芝居を観劇していた。青い鳥や劇団3〇〇は観る機会はなかったが、解散直前の「つかこうへい事務所」公演で生の風間杜夫を見たし、大杉漣や今や重鎮俳優の笹野高史、「神戸ちゃん」こと神戸浩も演劇の舞台で見た。あの頃風間杜夫は別として木野花ももたいまさこも、大杉漣も笹野高史も俳優業だけでは食えてなくて、バイトもしていたと思う。各々演劇界では注目を集めていたとはいえ、皆まだまだ貧しかったのだ。

 それから40年以上経ち、そんな彼らも俳優として一本立ちした末、冗談抜きに「終活」をも考える年齢に。大杉漣に至っては晩年妙な売れ方をしたが為に過労で体調を崩し、早世する事になってしまった。そう考えるともたいまさこみたいなフェイド・アウトの仕方が、ある意味俳優としては理想形かな…と思ったりもするのだ。勿論木野花にはまだまだ頑張って欲しい。