舞台は群馬県前橋市。梅雨から一か月経ち毎日うだる様な暑さ続きで雨が降る気配など全く無い。岩切(生田斗真)は水道課停水執行担当の職員。まだ新顏職員の木田(磯村勇斗)と共に水道料金4カ月未納の契約者宅を回って支払いの要請をして停水を予告し、尚も払わない契約者には停水執行。契約者の中には傲慢な態度を取る人間もいるが、冷静を保つのも仕事の内。ある日未払い者の小出有希(門脇麦)宅を訪ね警告したが、有希は全く払う意志が無い…。

 

 実際に水道課職員だった河林満が1990年に発表し芥川賞候補にもなった同名小説を、若松プロ出身の売れっ子監督・白石和彌が企画&プロデュースを担当して映画化。宮藤官九郎や岩井俊二などの助監督を務めてきた高橋正弥が本作にて監督デビュー、廣木隆一作品などの脚本を書いた及川章太郎が脚色を担当。投げやりぽい生活を送る主人公と、厳しい現実に晒される子供姉妹の交流を描く。太宰治原作『人間失格』(10)主演で映画デビュー後は、幅広い役柄に挑戦している生田斗真が主演。若松プロ『止められるか、俺たちを』シリーズに出演していた門脇麦、注目の有望若手俳優の磯村勇斗、尾野真千子、柴田理恵などの出演。

 取り敢えず支払い要請し小出家を後にした岩切だが、有希の娘姉妹の事が気になって仕方が無い。有希はマッチングアプリで売春まがいの事をして金を稼いでおり、やがて家に帰らなくなる。支払い期限が過ぎたので、岩切は止む無く木田と共に溜められるだけ水道水を溜めた上で停水執行。それを素直に受け入れる姉妹。その姿を見て思い立った岩切は別居中の妻の実家に行き息子とコミュニケーションを取ろうとするが、やんわり拒否される。有希の態度は一向に変わらず娘を置いて男と駆け落ち。公園から水を汲んできてしのいでいた姉妹だが、節水で公園の水道も断水。有希から渡されたなけなしの金も底を尽き窮地に立たされ…。

 

 妻子に去られたショックを引き摺った日常を過していた主人公が、子供放棄する母親を目の当たりにし思わず「それでも母親か」と批判。だが開き直る母親に言い返せなかった事から、心の裡にあったモヤモヤが弾け~という展開。長期間雨が降らない渇ききった日常風景は、まんま人々の温もりのない生活にシンクロしている。このままだと取返しのつかない悲劇に陥る姉妹を救わんとした行動(主人公言う所の「テロ行為」)は、大局的にはちっぽけな反抗に過ぎないけど、何もしないよりもマシとは思う。ラストシーン前の、水がいっぱい溜まったプールで戯れる姉妹という象徴的シーンも、全てが好転した訳ではないけど、一応の希望を匂わせる。

 

作品評価★★★

(絵に描いた様な感動を促す『万引き家族』より、本作レベルの〆の方が俺には感情移入し易い。監督デビュー作としては上々。門脇麦の「門脇麦的」な佇まいもさすがだ。不良JKが自動販売機の下を覗いて小銭を探す姉妹を見て「あたしも昔やった」と励ますシーンも良かった)

 

 付録コラム~ドナルド・サザーランド

  外国の演技派俳優は自分の俳優キャリアの為になる作品と、手っ取り早く金になるからオファーを受ける作品を使い分けて映画出演してる様に思える。日本の俳優だと一旦名優呼ばわりされたりすると、途端にB級モードの作品への出演には消極的になってしまうパターンが当たり前ではあるけど。

 カナダ出身のドナルド・サザーランドは1963年に映画デビューしているけど、広く知られる様になったのはロバート・アルトマンのブラックコメディ『M★A★S★H』(70)に出演してからであろう。朝鮮戦争下で働く腕のいい軍医でありながら上官に反抗的で、お下劣な悪戯をやらかす問題児という役柄を軽妙に演じた。

 ベルナルド・ベルトリッチの大作『1900年』(76)ではムッソリーニが統治したファシスト政権時代のイタリアで、貧しい農民たちを苦しめる大地主の手先役で憎たらしい演技を披露。同じ年のフェデリコ・フェリーニの『カサノバ』(76)の、女を取っかえ引っかえの放蕩生活を繰り返したあげく虚無的な心境に陥る、イタリア18世紀時代のプレイボーイ、カサノヴァも演じた(年老いたカサノヴァが人形相手に疑似SEXを演じる姿が哀愁感漂う)。

 

 ロバート・レッドフォ―ドの監督デビュー作『普通の日々』(80)では、長男の事故死をきっかけに崩壊していく家族の夫をリアリズムぽい演技で好演。この作品で演技派の名優との評価が定着した。クリント・イーストウッド監督&主演の『スペース カーボーイ』(00)の、ひょんな事から一度断念した宇宙飛行士になる念願を果たす老カーボーイ役?も観ていて愉しかった。

 こういう巨匠や鬼才監督作品出演の傍ら純娯楽作品の重要な脇役としてサスペンス作品、アクション作品などにも積極的に出演。あまりに出演作が多いのでその方面での代表作はどれか問われても答えに詰まってしまうけど、ジョン・ランディスの出世作となったドタバタコメディ『ケンタッキー・フライド・ムービー』(77)『アニマル・ハウス』(78)にドナルト・サザーランドが出演していた記憶は、今となっては全く無い。同年代の俳優を想起しても、こんなに映画出演した人は他にいないんじゃないかな。

 ハリウッド映画はCG全盛時代となり「怪優」みたいな人の需要はまだまだあるとは思うけど、ドナルト・サザーランドみたいな「演技派」のイメージが強い俳優の需要は段々少なくなっていってる気もする。ドナルド・サザーランド死去のニュースを聞いて、そんな事を考えた。