日本の敗色濃くなった1944年。大本営の主導で、来る米軍上陸に備えある使命を帯びた陸軍中野学校出身のエリート将校が本土から沖縄に派遣された。彼らの目的は米軍にゲリラ戦を挑む部隊を組織する事。地元の15~17歳の少年たちが招集され、厳しい軍事訓練を受けて「護郷隊」が結成される。彼らは沖縄本島の山林に潜み上陸した米兵と戦い、あるいは前線基地に爆弾を投げて破壊工作を行った。その活動は沖縄が米軍に占領されてもまだ続いて…。 

 

 太平洋戦争における沖縄戦では軍人と民間人合わせて19万人弱の日本人が亡くなったとされる。当然ながら凄惨な出来事も有名な「ひめゆり部隊の悲劇」のみならず多くあった。本作は戦後73年を経て公には殆ど語られてこなかった少年部隊「護郷隊」の悲劇、それと連動した工作員たちの暗躍を、今は老人になった元護郷隊の隊員や目撃者にインタビューし炙り出していくスタイルのドキュメンタリー。元琉球朝日放送アナウンサー・三上智恵と、日本最南端の離島・波照間島の人々を襲った「戦争マラリア」関連ドキュメンタリー映画を撮った経験がある大矢英代との共同監督。キネマ旬報2018年ベスト・テン文化映画部門でベスト・ワンに輝く。

 僅か10代で命を散らしていった護郷隊の少年たちの一方で、戦争とは無縁だった波照間島には「山下」と名乗る男が本土から学校教師として赴任。最初は心優しい男だったが突然豹変し、彼の命令で多くの民間人がマラリアが大流行していた西表島に強制移住させられて発病、多くの人が命を落とした。島民が飼っていた牛馬や山羊は全て殺戮、その肉は軍人たちの食料に宛てられる事に。石垣島でも本土の軍人指揮下で島民が組織され、密告も奨励されて米国帰りの二世、三世があらぬ嫌疑をかけられ銃殺される悲劇も起きた。兵隊に親切だった地元の娘も、日本軍の武器貯蔵庫を目撃した口封しの為銃殺者リストに入れられたりも…。

 

 地元の年端のいかぬ少年たちを捨て駒的に利用する日本軍の非情さもさる事ながら、少年たちを指揮した様な陸軍中野学校卒業生が沖縄のみならず日本の津々浦々に派遣され、本土決戦に備えて暗躍していたはずという陰謀論には寒気がする。地元民を「隣組」的に組織しスパイ嫌疑だけでなく「非国民」と目される人も銃殺の標的となったはずで、それに地元民も積極的に加わっていたというから、戦争がいかに人間の理性を狂わせてしまうかの証拠であろう。更に本作は戦時中の日本軍の文献と現在の自衛隊法などと照らし合わせ、民衆を自衛隊の戦争活動の為に利用する発想が、戦時中と殆ど変わっていない事を指摘し、警告を促す。

 

 作品評価★★★★

(米軍関係提供による写真が多く挿入されており、無惨な骸となった少年たちの忌まわしい姿が強烈。いかに軍人から洗脳されていたとはいえ、沖縄島民が同胞を殺すというのも痛々しい限り。その件についは当事者の口も重かった。戦争の悲劇は73年経っても継続していた)

 

付録コラム

 長らく消息を絶ち、さる筋に消されてしまったとか色々な噂が流れていた曽根中生監督が突然湯布院映画祭に姿を現した時は、ホントに驚いた。それからアッという間に亡くなってしまったけど…。あんまり映画業界での評判は良くなかった人みたいで、荒井晴彦尊師は曽根監督の現場での振る舞いを見て「映画監督という人種はこんなに人非人な物なのか」と呆れたそうであるが、才能ある映画監督に人格的な物を求めるのは、土台無理な話…。

 日活助監督時代に若松孝二や鈴木清順作品に脚本協力、日活がロマンポルノになってから監督に昇進し、初期には年間6本も撮った事があるロマンポルノのエース監督の一人になり、その実績で一般映画へと進出していった曽根監督だが、やはりロマンポルノ時代の作品の方が想い入れが深い。

 19年ぶりに再々見した『わたしのSEX白書 絶頂度』(76)もロマンポルノ時代の傑作の一つ。脚本を書いた白鳥あかねは本職スクリプター(記録係)で、『スクリプターはストリッパーではありません』(図書刊行会・刊)という著書もある(題名の由来は、白鳥が打ち上げの宴会で悪ノリして、女優の芹明香の真似をしてお座敷ストリップしようとした時、上司のスタッフに言われた言葉から)。ただ完成品は脚本をかなり改訂して演出している様だ。

 ヒロイン(三井マリア。東映ポルノ出身)は大病院の採血担当看護婦。同居している男(村國守平)は脚本では弟になっているみたいだが、ヒロインが挑発的態度を取るシーンがあるので姉弟ではないだろう。男がEDでヒロインを性的に満足させれない事から、二人の関係に隙間風が吹き始めたぽい。

 男はパチンコ屋で知り合ったヤクザ(益富信孝)の使い走りをして金をもらっている。ヤクザはスケ(芹明香)に稼がせる阿漕な奴で、ヒロインも金になると踏んで誘いをかける。バカにしないでと断るヒロインだが嫌いな医者に言い寄られ、婚約者気取りの病院に出入りする弁当屋の経営者も頼りなく、男への当てつけもあって結局承諾、コールガールになる…というストーリー。

 日活時代の曽根監督は、性に憑かれて堕ちていく女を描くのを得意とした。本作も同様の展開。ヒロインとの関係に絶望した男がアパートを出て行って、ヒロインはヤクザのスケになり芹とヤクザを共有する形に。だからといって仕事を辞める訳でもなく、ちゃんと採血業務は続けている。

 端から見ると堕ちていってるのに、そういう境遇をクールに受け止めているヒロイン像が斬新…というか、後の「東電OL殺人事件」の被害者に通じる物があると捉えるのは穿った観方か。

 むっちりしたボディだがフェイスは一般人ぽい三井マリアと、いかにもお水って感じの芹明香(本作出演後覚せい剤取締法で逮捕。ホントにヤクザの情婦だった)の好対照なキャスティングも良かった。巧みな風景描写(ヒロインが住むアパート近辺の下町、売春仕事先の日章旗が掲げられた丸の内ぽい商業ビル、廃墟ビルを壊す鉄球のショットなど)も秀逸。P-15版で観た為一部カットされていて分かりづらくなっているが、ヒロインが医師とデートで行くライヴハウスは、まだ開店からそんなに経っていなかった、今や老舗の高円寺のライヴハウス『次郎吉』。そこで演奏しているバンド『コスモス・ファクトリー』は、本作以降曽根作品のサントラを多く担当する事に。

 

 俺が加齢してしまった事もあって、出演男優もやに若く映る。日常でも普通に職務質問受けそうな悪党面の益富信孝は劇団『青年座』所属で、夫人の泉晶子は70年代のTVドラマの脇役で良く見た。まさか益富信孝のカミさんだったとは…。益富信孝と言えば『狂った果実』(81年 監督・根岸吉太郎)の狂ったバーテン役も凄かったなあ。

 ヒロインを買う一流会社の専務風役柄で出演の桑山正一。TVのホームドラマでお人好しの職人役とかで出演していた人が、本作では口淫サービス受けつつ若い男からオカマ掘られるという凄いシチュエーションを披露しているのでビックリ(男同士のキスシーンを曽根監督から要求されたが、若手男優が拒絶してNGに)。 曽根中生のお気に入り俳優だったみたいで、ATG作品『不連続殺人事件』(77)では、難事件捜査の指揮を執る警部役に抜擢されていたっけ…。

 往年の日活ロマンポルノの名作、機会があればもっと観直してみたいね。