節子(三条美紀)は快活な妙齢の娘だが、悪戯心で婚約者の丹羽を惑わす事もしばしば。丹羽は節子と人気歌手・笠間夏子(笠置シヅ子)のレビューを観る約束をしたが開演に間に合わず。節子の隣の席には少年が。だが父親らしき男に連れ去られてしまった。数日後節子の自宅の隣の邸宅に親子が引っ越してきて、節子は息子の孝と親しくなる。孝はレビューの時会った少年だ。父親は有名作曲家の佐伯(斎藤達雄)。笠間夏子は佐伯の妻で孝の母親だった…。

 

 NHK朝の連ドラで再評価の機運が高まった歌手・笠置シヅ子。彼女が戦後間もない頃出演した映画作品がケーブルTVで放映され、今月もまた何本か放映が決まっている。本作も放映済みの大映作品。製作前の1946年に笠置がエノケン(榎本健一)と共演した舞台公演の題名が、そのまんま本作のタイトルにもなっている。戦前に監督になり71年まで168本もの作品を撮った田中重雄が監督を務め、主演は大映の母物映画に数多く出演し、女優・紀比呂子の母親としても知られる三条美紀。小津安二郎の『生まれてはみたけれど』(32)の主演などで知られる斉藤達雄、後に大映から松竹に移籍しても活躍した二枚目俳優・若原雅夫などの共演。

 

 佐伯は夏子と破局して今は別居しており、孝にはお前を捨てた夏子を憎めと命令。口ではそう言っているものの孝の本心ではない事は節子には直ぐ判り、当然佐伯にも分かっていたが、そんな孝の態度が佐伯の私生活を荒れさせた。毎晩の様にキャバレー通いして孝は家に一人ぼっちで放置、見るに見かねて節子が佐伯を諫めた事もあったが、佐伯の行状は変らず今度は自宅で深夜までパーティー三昧。このままでは孝が可哀想と思った節子はファンクラブ会員と偽り楽屋で夏子と直接会い、佐伯との復縁を提案。勿論夏子も孝の事を忘れた日はなかった。佐伯も実は夏子に未練たっぷりだが、男の面子で自分から戻ってくれと言えない…。

 

 笠置の出演及びレビューシーンが本作の売りではあるが、主役はあくまでも三条。赤の他人の家族の揉め事に当たり前の様に介入し取り持とうとする積極さ(お節介さ)は、戦前作品の女性像には無い物だろう。その分自分の相手をしてくれないので拗ねる婚約者の女々しさは、かかあ天下なんて言葉が流行する世相を先読みしているとの評価も可能か。息子の会えない母親への思慕は母物映画に繋がるし、戦後直後の日本映画らしさの典型例みたいな作品。子役を売り物にするお涙頂戴ストーリーは苦手だし、夫婦の破局の原因も観る限りでは全く分からないので映画として高評価はできないけど、笠置のレビューシーンが貴重なのは確かだ。

 

作品評価★★

(必然的に今後も笠置出演作品を取り上げる事になると思うが、個人的には笠置シヅ子は後年のコメディ―女優のイメージが強く、歌手全盛時代の出演作品となると、ちょっと評価は辛くなるかな…との予感。若い三条美紀はキュート。娘の方が先に女優引退してしまった)

 

付録コラム~予定調和を求める今の観客

 石原さとみ主演作『ミッシング』が興行的に大惨敗とのネット報道があった。その記事の中で監督の吉田恵輔が興味深い発言をしている。実は7年前ぐらいに石原の方から主演映画を撮って欲しいとのオファーがあったが、その時は彼女に「女優」として触発される物を感じていなかったので断ったという。つまり吉田恵輔作品の主演は7年越しの念願であったのだ。

 実は去年の綾瀬はるか主演『リバルバー・リリー』も興行的に大惨敗で製作に金がかかっている分損失額は大きく、もう綾瀬はるか主演映画は製作されないとまで言われているという(秋に出演映画が公開予定だが、ロー・バジェット作品ぽい)。

 石原も綾瀬もTVドラマ方面ではれっきとしたスター女優だが、はっきり言って今のTVドラマ出演は半ばCMや広告などのクライアント相手にプレゼンしている様な物。その為常に「好感度」が要求され、責めた役柄や演技など端からNGになっている。するとどうしても彼女たちに欲求不満が生じてしまう。そこで「ガス抜き」的にそれを解消すべく映画出演…という構図が見えてくる。

 が、その結果は興行的には散々であると。つまりTVドラマで得た「スター」としての知名度など映画では全く通用しなくなっている…という事は、既に№48『夜明けのすべて』評でチラッと指摘した。厳しい言い方だが「石原さとみ」「綾瀬はるか」の人気はTVドラマで作り上げられた、イメージ的な物以上ではないのが現実。

 押井守は『押井守が語る映画で学ぶ現代史』の中で「今の観客たちは予定調和を求めている」と指摘していた。映画における『名探偵コナン』や『ドラえもん』のヒットが正にそれ。どんな難事件に遭遇しても最終的には万事解決しくれるコナンや、毎回アドベンチャー的な世界にー舞い込んでも、勇者的に活躍してまた元の世界に戻ってくるのび太。そういう想定内なストーリーが多くの観客の求める物であり、TVの人気女優の想定外なキャラクターなど、殆どの人は期待していない(俺みたいな映画マニアはともかくとして)って事だろう。

 変革を求めない映画観客の志向は、ある意味今の日本を象徴している様ではあるが…。もしそういう映画状況に風穴を開けたいと思う作り手がいるならば、安直に出演者の知名度に頼らぬ、本質的な内容の充実が必須という状況になっているのだ…。