直子(永野芽郁)は会社『三冨士』に勤めるOL。同僚たちと社食ランチでお喋りしたするごく普通のOL生活を送っているが、その一方で覇権争いに血眼になっている「裏OL」たちも存在。「狂犬の紫織」一派と「悪魔の朱里」一派の抗争は朱美の勝利に終わり、ムショ帰りの「大怪獣悦子」率いる一派も挑むも朱美の勝利に終わる。でもそんな抗争は直子たちには全く関係のない事。或る日新入社員として「カリスマヤンキーOL」を自称する蘭(広瀬アリス)が現れて…。

 

 最近は単なるお笑い芸人に留まらず、脚本家としても活躍する「バカリズム」のオリジナル脚本による映画化。各一流会社に存在するヤンキーOLたちの抗争に巻き込まれる、喧嘩とは無縁な一般OLのヒロインを中心に描くアクションコメディ。テクノガールズユニット『Perfume』などのMVの監督として活躍する関和亮二本目の映画作品。NHK朝ドラ主演経験者の永野芽郁がヒロインを務め、ヤンキーOLたちに広瀬アリス、菜々緒、川栄李奈、小池栄子といった人気女優が扮するのみならず遠藤憲一 勝村政信、松尾諭といった男優陣もOL役で出演。他にも人気女性芸人&タレントたちがヤンキー役で顔を出す。『ワーナー・ブラザーズ』が配給。

 

 蘭を生意気だと言ってシメにかかる件のヤンキーOLトリオだが、欄は圧倒的に強くあっという間に3人をノックアウトし、三冨士の裏OL界は蘭の支配下に置かれる。蘭は盗撮魔を撃退したのをきっかけに直子と親しくなり、噂を聞きつけ挑戦してくる他会社のヤンキーOLをKOしつつも、普通のOLぽく直子と「アフター」を楽しんでいた。蘭の異名は一部上場企業『トムスン』を牛耳るお局OL「魔王の赤城」(遠藤憲一)の耳にも入って、赤城の命を受けた子分たちによって直子は拉致されて人質にされる。朱美たちが止めるのを制して蘭は単身で赤城らのアジトに乗り込み、赤城配下の最強トリオと一人ずつタイマン勝負に挑むが、一敗地に塗れ…。

 

 往年のヤンキー漫画の世界観をそのまんま女に置き換え、更に学園ドラマではなくOLの抗争劇に変換。何はともあれTVドラマ主演を張っている様な豪華女優陣が、ヤンキーメイクして暴れ回るというシュエーションが見どころ。ヤンキーOLのラスボス役が『下妻物語』(04)でレディ―スのヘッドを演じていた小池栄子というのもナットク。作り手の悪ノリで女装OLまで登場させたり。でも遠藤憲一が注目され始めた頃は、映画で同じ位スチャラカな役も演じていたから、左程驚きはなかった(勝村&松尾はようやるわいと思ったが)。感動とかとは程遠いおバカ作品だが、観客よりも演じてる女優の方が楽しそうという意味では、女版『アウトレイジ』ぽい。

 

作品評価★★★

(はっきり言って本作は「映画」ではなく長尺の「コント」と割り切って観るべし。映画館で金を出して観るのは躊躇われるけど、初めから二次使用が主目的で製作しているのかも。どんなヘタッピな役者でもチンピラ役と兵隊役はできると言われているが、女優のヤンキー役も同じ?)

 

付録コラム~原一男、ケンティに指導?

『映画芸術』最新号の原一男執筆『釜山国際映画祭』レポートが興味深かった…と言っても、映画祭自体の事ではない。文章中にチラッと登場する人物に対する物言いが、いかにも原一男らしいなと思ってしまったのである。

 映画祭には石井裕也監督作品『月』が出品されており、石井本人も出席していた。原一男は『月』を観て、自分も同じ障害者をテーマにした作品を撮った立場から『月』の出来栄えに満足できず、それを受けて『キネマ旬報』で石井との対談が企画されたのだが、石井が対談当日風邪を引いたとか、更に新作の仕上げに忙しいからと言って結局キャンセルになり、結局キネマ旬報には原の批評文のみが掲載されたという。

 原自身の本音としては作品批判するというより、直接会って石井本人と『月』について論議したかったのだが実現しなかった。そこでいい機会なので石井にインタビューしたいと申し込んでみたが、石井は生返事するだけでOKともNOともちゃんと言わず、この原稿を書いている時点でも石井からは何の連絡もないとの事。

『月』公開におけるトラブルであれだけ積極的に発言していた石井裕也らしからぬ対応に驚かされる。あくまで原主観の文章ではあるけれど、読んだ限りでは石井は明らかに原一男を敬遠していると言わざるを得ない。『月』を未見なので、俺個人としてはいいか悪いかなど言える立場ではないけど、同じ映画監督同士で論議を交わすのは有意義な事…と普通に思えるのだが。それとも原一男みたいに「反秩序的な狂った作品を作る奴」と話するのは時間の無駄と考えているのか。

 原は映画祭開催中『WOWOW』の映画関連番組の取材を受けたという。その番組のMCは中島健人でインタビュアーも彼。先日まで元ジャニーズ系グループ『Sexy Zone』で活躍していた(現在は脱退)ケンティ(中島の愛称)が、映画好きだなんて全く知らなかった。調べてみると映画出演作9本中主演が8本。バリバリの大スター扱いである。日本映画の問題点という硬派なテーマでのインタビューだったそうだが、ケンティは至極真面目にその役割をこなしていて、彼がどんな人物か知らなかった原一男も好感を持ったという。

 ただ質問は紋切り型の一般論に終始した印象も無きに非ずだったそうで、原一男は「インタビュアーが自分の作品を観ていないのでは躍動感がない」と指摘している。確かに映画に限らず色んなジャンルでインタビュアーが最初にやるべきなのは、相手がどういう人物なのか先に知っておく事だろう。原が言う様にケンティも今後もインタビュアーをやる機会があるなら、それを肝に念じていた方がいいと思う(とか大スターに言ってる俺って何様?)

 ただ、だからと言って中島健人が原一男の『極私的エロス 恋歌1974』(74)『ゆきゆきて、神軍』(87)を観たとしたら、何て思うんだろうか。俺みたいな映画マニア擦れしている人間でも『極私的エロス 恋歌1974』を観た時は腰を抜かしそうになったくらいなんだから、普通の映画好きのケンティにはハードル高過ぎ(笑)。簡単に観た方がいいと言えない気もしてくる。

  今回の文章を読んで、改めて原一男という監督の、映画界における「異端者」ぶりを再認識した。今思い出したけど、俺は原一男唯一の劇映画『またの日の知華』(04)のエキストラに参加した事もあったな…。