母親と二人暮らしの気弱なサラリーマン・徹(真田広之)は、同じマンションに引っ越してきたスタイリストの留美(小泉今日子)と知り合う。留美は徹に「私は怪盗ルビイ」と名乗り自分の犯罪の手助けをして欲しいと言う。当然断った徹だが留美に押し切られ、小さな食料品店のオヤジの金が入ったバッグを路上で掏り替える計画に協力するが、入っていたお金はススメの涙。バックは徹がオヤジに拾ったと称して返却、泥棒が逆に感謝される始末。留美は次なる計画を立てる…。

 

 映画マニアとして知られ『キネマ旬報』で連載を持っていたイラストレーターの和田誠は、84年阿佐田哲也原作『麻雀放浪記』で映画監督デビュー。映画について書いた軽妙な文章からは想像つかない重厚な演出が評価されキネマ旬報日本映画ベスト・テン第4位にランク・イン。次回作が期待されたが実現したのは4年後。米国の推理作家ヘンリー・スレッサー作『怪盗ルビイ・マーチンソン』の映画化で、キュートな自称怪盗の娘と相棒に抜擢された若者の珍怪盗ぶりを描くロマンチック・コメディ。当初『麻雀放浪記』のヒロイン、大竹しのぶを起用するはずだったが小泉今日子に。相手役も『麻雀放浪記』主演の真田広之に変更になっている。

 第二の標的は徹が預金してる銀行の強盗だった。気が進まないまま変装して銀行へ行き脅迫文を女子行員に渡す徹だが、間違えて母親から預かった買い物のメモを渡してしまい、行員からは悪ふざけとあしらわれてしまう。もう辞めようと言う徹に、留美は尚も宝石店詐欺を計画、徹はまたまた実行犯をやる事に。だがこれも店員に手口をあっさり見破られてしまい散々な結果に。次に計画したのは高級マンションで行われるパーティーに客の振りをしてマンションに侵入し、別の留守宅に忍び込んで金品を戴く空き巣。侵入には成功したがトイレに入った徹がドアノブを壊し出られなくなる。留美が一旦退出した後部屋の主が帰ってきてしまって…。

 

 自称怪盗だが殆ど趣味感覚なヒロインの片棒を担がされ散々な目に遭う男。運動神経抜群の真田が、本作では自転車も乗れない運痴なのがおかしい。犯行が露見しかかっても相手からは犯罪者扱いされない情け無さ。だが最後の計画(ヒロインの超プライヴェートな動機からの計画)でやっと犯罪として認知され警察に捕まってしまう男だが、それが幸いして相棒だった二人の関係が一挙に変化…。重厚な前作から一転して小品的なコメディというのが意表を突いている。怪盗役を原作の男から女に代えたのも正解。やや小生意気だが憎めないヒロインと、マザコン気味で実生活ではダメダメな男の組み合わせも、いい意味で浮世離れしている。

 

作品評価★★★

(映画に出演している小泉今日子を見て、初めて可愛いと思えただけで画期的な作品。この時期の真田広之は敢えて硬軟関わらず様々な役柄を演じており、本作もその一環だろう。知名度を度外視し起用した脇役キャストも適役。もう少し作品全体に華があればもっと弾けた)

 

付録コラム~気になる土井志央梨

 

 TVドラマを真剣に観る事がなくなってから随分経つ。それでもドラマに出演している女優や俳優を見て「誰?」と興味を覚える事は今でもある。そもそも映画に対する最初の興味も監督云々ではなく役者が入口だったし、日本映画に関してはその初期衝動は依然俺の裡にあったりする。

 そんな俺が…というより、多くの視聴者が「誰?」と思っているだろう女優が、NHK朝ドラ『寅の翼』で「男装の、ヒロインの大学同級生」に扮している土居志央梨。全く名前が記憶になかった人なのでちょっと調べてみたら、意外な事実が判明。何と岡崎京子の同名漫画が原作の『リバース・エッジ』(18年 監督・行定勲)に出演していた。

 土井志央梨が扮するのは高校生であるヒロイン(二階堂ふみ)のクラスメートである友人。パパ活をやって金を稼ぎメイクもバッチリなイケイケ風、友人でありながらヒロインの元カレ(本人は「元」とは思っていないけど)と関係、ドラッグ経験もアリというかなりビッチな娘だ。校内の元科学室に件の親友の元カレを呼び出して誘惑し事に及ぶシーンがあった。この作品では二階堂ふみの初ヌードが宣伝的な売りとなっていたが、はっきり言って二階堂ふみには一度も性的な興味を抱いた事はない(こういう表現も、逆の意味でセクハラに当たるのか?)、対照的に原作では淡々とコマ割りで描写されているに過ぎなかった土井志央梨の濡れ場シーンは、やにエロかった(近作の映画でそういう感情に駆られたのは久しぶりでもあった)。撮影時の実年齢はJK年齢ではなく26歳だから、設定離れした成熟さを感じるのもそれも当たり前か。高身長(168cm)というのも映画になると映えるのだ。

 そんなビッチな行動の一方で、彼女は家庭では引きこもりで見栄えもパッとしない姉との確執(それが「女子力みがき」に走るきっかけになった?)を抱えている設定で、その病みっぷりは、ストーリー的には狂言回し的な役割だった二階堂ふみよりもリアルに、若者世代のある一面をクローズアップさせた存在感があった。ただその時も無名女優が頑張っているなあとの、ありきたりな感想を覚えた程度で、今回の朝ドラで話題になるまでは完全に忘れていた。あいすません。

 これからの土居志央梨には出演オファーが殺到する事が予想され、それをステップに更なる女優活動に邁進してくれればそれでいいのだが、『ドライブ・マイ・カー』(21)の演技が絶賛された三浦透子が、また地味な脇役女優に戻ってしまった例もあるから安心は出来ない。やはり出演する作品選び(TV方面で行くのか、それとも映画、はたまた舞台中心の活動に進むのか)が重要という事になるのだろうな、きっと。