1954年。カントリー歌手のマネージャーをやっていたトム・パーカー大佐(トム・ハンクス)は、ツアー先で黒人そっくりに唄う若者エルヴィス・プレスリー(オースティン・バトラー)と出会いスカウト。ツアーに同行させるとその煽情的なステージに女性客が熱狂、カントリー歌手からトリの座を奪う。イケると踏んだ大佐はエルヴィスを契約していたマイナーレコード会社から買い取り専属マネージャーに。メジャーレコード会社と契約しTV出演したエルヴィスの人気は全米規模に…。

 

 マイケル・ジャクソンが「キング・オブ・ポップ」なら、エルヴィス・プレスリーは「キング・オブ・ロックンロール」。その評価はエルヴィス没後半世紀ぐらい経っても変わらない。そんなエルヴィスの初となる伝記映画。黒人音楽と両親を愛する純朴青年だったエルヴィスが、スーパースターの座と引き換えに自分を見失っていく様を描く。『ロミオ+ジュリエット』(96)、リメイク版『華麗なるギャッピー』(13)などのオーストラリア人監督バズ・ラーマンが共同脚本を兼ねて監督。それまで主役を演じた事がないオースティン・バトラーがエルヴィス役、トム・ハンクスが自称「大佐」役で助演。監督と同じオーストラリア出身のオリヴィア・デヨングがプレスリーの妻役。

 だがエルヴィスのパフォーマンスは白人の保守層から大バッシングを受け、慌てた大佐はステージやTVでは善良に振る舞えと指示。納得できないエルヴィスはそれを無視したライヴを敢行。これでは大儲けできないと考えた大佐はアメとムチばりに貧しかった両親に豪邸を提供、エルヴィスには模範的青年として2年間の兵役に就かせる。派遣先の西ドイツでエルヴィスはプリシラ(オリヴィア・デヨング)と恋に落ちやがて結婚。帰国後のエルヴィスを映画出演に専念させた大佐。最愛の母が亡くなり落ち込むエルヴィスを慰める一方で、意のままに彼を動かし違法にマネージ料を搾取。60年代後半には映画の人気も下火になったエルヴィスは…。

 

 大佐の回想という形でプレスリーと過ごした50~70年代までを、世の中の動きと照らし合わせつつ描かれる。好きな音楽を演れれば満足だったプレスリーが、ビッグになればなる程それが許されなくなっていく。その元凶は言うまでもなく大佐で、ギャンブル狂いで作った借金を、プレスリーのギャラで補填する様は、まるで某野球選手の元通訳並の卑劣さ。多少は擁護できる人物に描かれているのかと推測したが、トム・ハンクスの憎たらしさには同情の余地は一切無い。それ故に精一杯抵抗しても結局大佐に丸め込まれ薬依存症と化すプレスリーの悲惨さが余計際立つ。痛々しい限りだが、それでも歌への情熱を忘れぬ彼の姿に胸を打たれるな。

 

作品評価★★★★

(プレスリーの音楽志向を通して、彼の黒人へのシンパシーが強調されている辺りは「今の映画」って感じがヒシヒシ。エルヴィスとB・B・キングとの友情関係はさすがに作りの部分が大きいとは思うが、ブルースを歌唱するエルヴィスの姿も、一度は見てみたかったとは思うよね)

 

付録コラム~日本映画専門チャンネルの放映料

 俺に映画館通いを再開させた直接のきっかけは、ケーブルTVの『日本映画専門チャンネル』での映画放映が、昨年から極端に減少した為だ。一昨年まではキネマ旬報ベスト・テンの入った作品なら一年遅れぐらいでほぼ観られたが、今は一年前ぐらいに放映済みの作品を繰り返し再映したりと、ラインナップを組むだけで四苦八苦してるみたいだ。埋め合わせにフジテレビ制作ドラマの再放送(日本映画専門チャンネルのスポンサーはフジテレビなので)と、ピンク映画のP-15ヴァージョンばかりでは「日本映画専門チャンネル」の名が泣くぜ。

 こういう状況になったのは、言うまでもなく映画公開後は動画配信サービス…というルートが確立したからで、ビデオレンタル店が激滅しその業界自体が青息吐息なのも、その煽りを食ったから。そして今度はケーブルTVの映画専門チャンネルがその影響を受け消滅の危機にある。

 ついさっき知ったのだが、日本映画専門チャンネルで作品の製作側に払われる放映料は、二ヶ月単位で「50万」だそうだ。大体リピート放送が月3回あるとして計8回の放映で計50万という値段が高いか安いか、映画業界人でもない俺にははっきりとは分からないのだが、多分バカ安なんだと思う。配信の方に回せばもっと金が取れるんなら、好き好んでケーブルTVに売る関係者は普通いないよね。

 結局嫌が応でも映画を観たいとなると、映画館で観るか配信サービスと契約するかどっちかを選ぶ事になりそうだが、俺はPCで動画を観ると15分もすれば目が疲れて辛くなってしまう性質。加齢のせいかもしれないが集中力が全く続かない。PCをモニターに繋いで大画面にすれば大丈夫なのか? 

 まあ日本でも1、2を争う文化過疎地である県の、そのまたど田舎に在住している身の上故、自由に好きな映画が観れなくとも仕方がないとは思うけど、それでもキネマ旬報ベスト・テンに入る作品が全くといっていい程観れなくなる時代がやって来るとは、想定外であった。ど田舎の映画マニアはキビシー。