『YMO』の大ブレイクに驚いたレコード業界は、当然の如く二匹目の泥鰌を狙ってテクノ・ポップバンドのスカウトに血眼になる事になるのだが『プラスチックス』をその文脈で語るのにはちょっと抵抗がある。プラスチックスはYMO人気に火が点く前から活動していたバンドで、79年ぐらいから都内のライヴハウスに進出し一部のマニアには早くから注目されていたのだ。

 元々は音楽の素人だった「業界人」が結成したパーティーバンドだったが、バリバリのプロミュージシャンである『四人囃子』の佐久間正英が加わり、編成もリズムセクションを省きシンセとリズムボックスで賄うテクノポップスタイルに変化。四人囃子が79年いっぱいで解散した頃からパーマネントバンド化。日本より一早く英国の先鋭的なレーベル『ラフ・トレード』からシングル『Copy / Robot』でデビュー。その後80年1月に1stアルバム『WELCOME PLASTICS』が日本で発売になった。歌詞は基本的には英詞。メンバーは中西俊夫(ヴォーカル&ギター)、佐藤チカ(ヴォーカル)、立花ハジメ(ギター)、島武美(リズムボックス)、佐久間正英(シンセサイザー)の5人に落ち着いている。

 アナログA面1曲目『TOP SECRET MAN』はペラペラのギター演奏に乗って中西のエキセントリックなヴォーカルが跳ねる異様な曲。チカのキッチュ感溢れるコーラスはニューウェイヴだが、GSを彷彿させる間奏のギターソロは何か郷愁を覚える味がある。

 

 3曲目『.COPY』は、欧米からの情報が過剰に溢れている東京の文化形態を皮肉った過激ソング。リスナーをからかっている様な「コピー」というワードの氾濫、「オリジナルなんてナイナイ」という一節も強烈だ。その揶揄が自分たちにも返って来るという自己批評も感じたりもする。

 

 A面最後の曲『TOO MUCH INFORMATION』はプラスチックス版ファンキーミュージックとでも言えるだろうか。旧式の安っぽいシンセサウンドも今聴くと、妙に新しく感じたりするのも興味深いのだが。

 

 アナログB面1曲目『WELCOME PLASTICS』は日本語の詞が付いているが、実はGSグループ『ジャッキー吉川とブルー・コメッツ』の楽曲のカバーだとか(歌詞は一部改訂)。バンドのテーマ曲であるのだが、当時の最先端サウンドと懐かしのGSサウンドが融合した感じ。

 3曲目『ROBOT』は、英詞の中に「NHK」「TDK」「FBI」「EMI」などのワードが入る。そういう組織の操り人形になっている人たちに軽く警句を促すソング? 単調なリズムが一層そういう雰囲気を煽りたてる。

 

 4曲目『DELICIOUS』は英詞だがチカのヴォーカルの発音はほぼ日本語で「時計仕掛けの東京タワー」という日本語詞も登場。ソロを取るシンセが壊れてるんかと思うくらい調子ずれだったり、ヘンテコリンな曲。

 アルバム最後の曲『COMPLEX』もまた欧米文化に対するコンプレックスを表明した歌? エキセントリックな中西のヴォーカルは本気モード・アレンジも他の曲の様な脱力感は無く、結構ノリノリでアルバムは終了。

 セカンドアルバム『ORIGATO PLASTICO』は1stアルバムの8か月後の9月に発売。その間にプラスチックスは米国の『トーキング・ヘッズ』のツアーの前座で海外ライヴを体験したらしい。そんな事もあってかアナログA面1曲目『IGNORE』は、アレンジなどにトーキング・ヘッズからのダイレクトな影響を感じてしまうな~。2曲目『DIAMOND HEAD』は1stを継承するすっ呆けたビート感覚と、立花ハジメと思われるヘタウマサックス?がフィーチャーされる。

 

 

 チカの語りがフィーチャーされる5曲目『BACK TO WIGTOWN』を聴くと『フライング・リザーズ』を連想するのは俺だけか? 珍しくピアノの伴奏が付いているのが面白い。A面最後の曲『CARDS』は、これもトーキング・ヘッズぱい中西のワイルドなヴォーカルが強調された曲。

 

 

 アナログB面2曲目『DANCE IN THE METAL』は退行型ポップともいうべきか、かなり前衛寄りのアレンジで、意味深なタイトルもそれらしくもある。3曲目『INTERIOR』は何か、同時期に活動していたインディーズバンド『突然段ボール』みたいな脱力ソングで、この辺りの曲並びは正攻法で実験的に攻めている様に感じられるのだが。

 

 

 4曲目『PARK~EIGHT DAYS A WEEK』はオリジナル曲と『ザ・ビートルズ』赤盤期の代表曲をメドレーにした曲。アルバム最後の曲『DESOLATE』は6分近くあるプラスチック最長の曲で、ミディアムテンポで淡々と唄われる、ビート感覚を省いたエレクトリップ・ポップソングモードのアレンジ。

 

 改めて聴いても1stの日本の音楽界や文化の現状を皮肉った幾つかの曲のインパクトは強烈で、こういう毒はYMOを含めて他のテクノ・ポップバンドにはなかった個性である。それに比べると2ndは欧米のニュー・ウェイヴバンドからのダイレクトな影響を感じさせる曲がある一方で実験性ある曲も幾つかあり、そんな試行錯誤を重ねた上で次作に期待を持たせる役割を担ったアルバムと言えようか。

 ただ1stの様に音楽を俯瞰で捉えるみたいな方法論は同業者にも賛否両論あったみたいで、プラスチックス、『シーナ&ザ・ロケッツ』との対バンで日本武道館ライヴを行った『RCサクセション』の忌野清志郎は「プラスチックスは最低」と批判。日本の音楽界ではかなり異端な存在であった事は間違いない。

 翌年からの更なるワールドワイドでの活躍を期待されながらも、3rdアルバムを発売してあっさり解散というのもプラスチック流儀だろうか。メンバーは各々の形でその後も音楽と関わっていく事に。「素人」だった立花ハジメはサックスを習得、音楽を本業にして90年代以降も活発に活動。