中年紳士(アンディ・ガルシア)から財布を掏ったベンは、中に入っていた写真に写っていた美女を街角で見つけ、入っていったバーで声をかけるが、そこに中年紳士も現れて…。47丁目のインド人ダイヤモンド商マンスークバイの取引所に、ユダヤ人の仲買人リフカ(ナタリー・ポートマン)が訪れて意気投合…。アパートにこもり映画音楽を作曲する作曲家・デヴィッド(オーランド・ブルーム)は、電話の会話のみで会った事もない監督助手のカミーラとに恋してしまい…。

 

 NYの名所を舞台に様々なシチュエーションでの愛が語られるフランスと米国合作オムニバス作品。俺は未見だがパリを舞台にした『パリ、ジュテーム』(06年。ガス・ヴァン・サントやコーエン兄弟などの監督が参加。日本からは諏訪敦彦が参加)に続く有名都市シリーズ?の第2弾(3作目はリオデジャネイロを舞台にした『リオ、アイラブユー』)。ただ本作で俺が良く知っている監督は岩井俊二しかおらず、後監督作品を観た事があるのは『ラッシュアワー』シリーズのブレッド・ラトナーだけ。ナタリー・ポートマンは監督としても参加。ナタリー・ポートマンのみならず有名俳優が至る所に顔を出しており、ギャラは二の次で企画に賛同しての出演だろうな。

 レストランの前の路上で作家(イーサン・ホーク)は淑女風の女に煙草の火を貸し口説こうとするが、女の素性は意外にも…。失恋したばかりの17歳の少年は、顏なじみの薬剤師公認で彼の娘を高校卒業のダンスパーティーに誘う。彼女は下半身不随の車椅子姿で少年は戸惑う…。元オペラ歌手イザベル(ジュリー・クリスティー)は五番街の高級ホテルにチェック・インして体に障害のあるホテルマンと出会い…。ダンサーのダンテはバイトで子守をやっているが、セントラル・パークでは自分が黒人であるだけで好奇の視線に晒される…。チャイナタウンで働く若い女性は、画家を名乗る見知らぬ老人からモデルになってくれと頼まれ戸惑うが…。

 

 オムニバスと言っても、登場人物が別のエピソードと繋がっていたりもしている所が本作の特徴。NYの名所と言われても行った事も土地勘もない俺にはピンとこない部分もあるのだが、NYという都市が様々な人種の坩堝だというのは判るし、やはり異民族間の愛や交流を描いたパートが面白かった。ただベストはダンスパーティー編かな。娘の親父が懐かしやジェームス・カーンというのも良かったし、不幸な身の上の娘とワン・ナイトラブしE気持ちになった少年を唖然とさせるオチは、ちょっと不謹慎という気もするが意外性はあった。逆に岩井俊二編はいかにもって感じで可も不可もないけど、クリスティ―ナ・リッチの変わらぬ容姿を拝めたのは〇。

 

作品評価★★★

(何だかピンと来なかったパートも結構あるのだが、各々の作り手のNY感が千差万別なのは面白い。登場するスターの中で『ロッキー』シリーズでお馴染みのバート・ヤングを久々に見れたのが個人的にはお得感あり。今も元気かなと調べてみたら、去年亡くなっていた…)

 

付録コラム~5月になると思い出す可愛かずみの事

 80年代はとにかく明るければ何でもいい、笑えれば何でも良しという時代で、それこそ今では考えられない事があったが、その一つにそれまで表立っては言えなかった性風俗的な事柄がオープンに語られるという現象があった。映画界においては成人映画出身の女優がTVに出演しアイドル的な人気を得るという動きが。勿論70年代からピンク映画やロマンポルノ出身の女優でTV方面でも活躍した人はいたが、黒歴史とまでは言わなくとも、本人がそういう過去を隠したがる風潮は確かにあったと思う。

 

そんな流れでアイドル的人気を得たのが美保純と可愛かずみだった。可愛かずみの映画デビュー作『セーラー服色情飼育』(82年 監督・渡辺護)は封切で観ている。可愛かずみ扮する女子高生に一目惚れした中年男が卑劣な手段を用いて母親と二人住まいの彼女の家庭に入り込み、まず母親と関係を持って可愛かずみと義理の父ぽい関係になった後母親を事故に見せかけて殺し、頼る者が他にいなくなったのをいい事に可愛かずみを我が物にする…とあらすじだけ書くと随分酷い男に思えるのだが、男の可愛かずみに対する感情はあながち欲望のみとは言い難い純粋な面もあり、渡辺護らしい中年男の心情が前面に出た作品に仕上がっていた。

 可愛かずみのピンク女優らしからぬ(この作品は俗に言う「にっかつ買い上げ」のピンク映画)ピュアな佇まいに驚きながらも、俺は今時こういう普通ぽい女のコも平気でピンク映画に出演したりするんだなとやや醒めた目で見ていたのだが、後で裏事情を知ると可愛かずみはにっかつにスカウトされた時ヌードになるのは嫌と一旦断ったのだが、その件でスカウトした人が上司にボロクソに怒られているのを目の前で見て可哀想になり「私がヌードになればこの人は怒られなくて済むんだ」と思い、ヌードを承諾したという。こんな心優しい理由でピンク映画出演を決意した女性って、他にいるんだろうか。

 ただピンク映画出演はあくまでこの一本の約束で、2本目の映画出演は渡辺護と製作会社『フィルムワーカーズ』を設立した曽根中生の『“BLOW THE NIGHT!”夜をぶっとばせ』(83)。不良少女の自伝の映画化だったが、可愛かずみはストーリーとは関係なく登場するストリート少女役?で、確か台詞は一言もなかったと思う。3本目の出演作はジャニーズ事務所の新進アイドルだった『シブがき隊』主演の『ヘッドフォン・ララバイ』(83年 監督・山根成之。未見)の副ヒロイン役だから、いかに当時の彼女の人気が凄かったという証拠だろう(ヌードはNGになったが、グラビア活動は精力的に行っていた)。

 同じ83年から可愛かずみは人気TV番組『おれたちひょうきん族』内のコーナー「ひょうきんベストテン」で「偽中森明菜」役でセミレギュラー出演、84年から始まった深夜ドラマ『トライアングル・ブルー』で共演した川上麻衣子とは親友の間柄になった。川上麻衣子も篠山紀信撮影によるヌード写真集で注目された経験があり、お互い相通じる気持ちがあったとも思う。こういう流れから可愛かずみはTV方面で順調に活動を広げていったが、映画でも『難波金融伝・ミナミの帝王』の劇場版の第3~6作(何れも94年)までレギュラー出演している。

 TVでの可愛かずみの活躍はあまり把握していなかったが、某人気プロ野球選手との交際~破局で精神的な問題が取り沙汰されたと思ったら、97年に突然可愛かずみは急逝(享年32歳)。命日はゴールデン・ウィ―ク明けの5月9日だった。

 ゼロ年代に入った辺りから女性タレントの「お宝ブーム」が起きる。今は有名人になった彼女たちの黒歴史的な仕事(主にヌード関係)を掘り起こすという、かなり下衆なブームだが正直俺にもそういう物に惹かれる気持ちが全然ないとは言えない。でも『セーラー服色情飼育』がお宝物件になっているのは複雑な気持ち。勿論可愛かずみが自分の意志で受けた仕事であるから何ら恥じる物ではないと思うんだが、そればかりで可愛かずみが話題になるのも何かなあ…。

 ケーブルTV5月の放映ラインナップに『セーラー服色情飼育』R-15版があって、一瞬再見しようかなとも考えたが辞めた。この作品に関しては一度観たらもう充分だと思う。