東京で新進建築家として仕事をバリバリこなしていた史朗(生田斗真)だが、独立した途端仕事は激滅しニッチもサッチもいかない状態。そんな時長い間帰省せず連絡を絶っていた実家から父の葬儀通知が来ていたのを発見。温泉町にある家業の銭湯「まるきん温泉」は弟の悟朗(濱田岳)が継いでいた。この機会に史朗は経営不振のはずの銭湯を売り払ろうと考え、地元の不動産屋に連絡し好感触を得る。帰省した史朗は自分の部屋で見知らぬ女のコと出くわす…。

 

「湯道」なんて聞いた事ないしそんなモンあるのかと思ったら、本作の脚本を書いている小山薫堂が提唱している、入浴を伝統文化として推進する運動らしい。いつ潰れてもおかしくない老舗の銭湯を舞台に展開する人情コメディ。『HIRO』シリーズや『マスカレード・ホテル』シリーズなどを撮ったフジテレビのディレクター、鈴木雅之が監督を務め、故・荒戸源次郎の『人間失格』(10)でスクリーンデビューした元ジャニーズ事務所々属の生田斗真が主演。子役上がりで膨大な出演作がある濱田岳、ローカルアイドルから女優に転身して大きな成功を収めた橋本環奈、小日向文世、柄本明、天童よしみ クリス・ハート、戸田恵子らの共演。東宝系で配給。

 

 女のコ・いづみ(橋本環奈)は住み込みの従業員だった。悟郎は父の葬式にも顔を出さなかった兄を快く思っていない。史朗は慣れない銭湯仕事を手伝いながら売却の話を切り出すチャンスを伺う。銭湯の常連客は何れも個性的な面々で、更に風呂焚き用の薪を提供する代わりロハで入浴する「風呂仙人」なる老人もいる。風呂焚きする悟朗に史朗は意を決し銭湯を取り壊しマンションに建て替えする話をするが、悟朗は即座に断り兄弟喧嘩に発展。それが原因でボヤ騒ぎを起こし火傷した悟朗は入院。その間史朗はいづみの指導の下銭湯仕事に本気に取り組み、いつしかそれに愛着を覚える様に。ところが退院した悟朗は逆に廃業を宣言…。

 

 冒頭や所々に勿体ぶった、湯道に基づく入浴作法シーンが挿入(教祖の口から発せられるダジャレギャグはお風呂の温かさと対照的に寒い)されるが、あくまでも本筋は銭湯に纏わる人情ドラマ。仕切りで男湯と女湯に分け隔てられながらも夫婦間、親子間の絆を描くシーンなどは、往年の人気TVドラマ『時間ですよ』を彷彿させたりもする。最初は売却を主張していた兄が心変わりしつつあるのに、肝心の弟が売却に変心する下りは捻りのある脚本だとは思うけど、CX系らしいバブリーな雰囲気たっぷりな演出が、潰れかかった銭湯を守るというテーマとは水と油なのが白けるな。無駄に豪華な出演陣も正にそれ。そんなチグハグ感免れぬ作品。

 

作品評価★★

(飽食の象徴みたいなキーTV局の関係者が、金よりも人情の方が大切みたいな作品を製作する矛盾から脱しきれていない。橋本環奈は確かに可愛いが本作の様な役は面白くはなく、小日向文世、柄本明といったベテランは最低限の貢献はしているけど、それ以上ではない)

 

付録コラム~『ベイビーわるきゅーれ』のTVドラマ化

 21年に公開されその後シリーズ化し、今年9月に第3作が公開されるという、バイオレンスシーン満杯のアクション劇『ベイビーわるきゅーれ』が、映画版とは別にテレビ東京にてTVドラマ化されるというニュースがネット報道された。第3作公開前に全12話で放映、その内の半分は映画版と同じく阪元裕吾が監督し、主演コンビも高石あかり&伊澤彩織で映画版と同じだとか。

 映画のヒット作のTVドラマ化は珍しい話ではないけど、元々は自主映画のTVドラマ化となると初めての事ではないか? それも一般的には無名な映画主演コンビがそのまま主演を務めるのは異例中の異例だろう。キーTV局のTVマンは有名タレントを起用しないと視聴率が取れないと思い込んでおり、それをいい事に大手プロダクションが元ネタなどお構い無しに売り出し中のタレントをゴリ押しでドラマの主役にねじこみ、更に美味しいトコも取れる様に脚本の改訂を要求…みたいな事が平気で行わてきた事は、今更指摘するまでもないだろう。結果出来たドラマは原作とは全く違う性質の物になってしまい、元ネタファンをがっかりさせる…という流れになる。

 だが他のキー局と比べ番外地的なイメ―ジのあるテレビ東京制作のドラマは払えるギャラも少ないので 端から大手プロダクションに相手にされていない。それが逆にメリットになって今回の様な冒険的な企画?が通る余地もあった…という事なのだろう。

 元々テレビ東京は映画製作においても、バブルぽいテイストが否めない作品ばかりの他局とは一味違った個性的な作品にも多く出資しており、TVのバラエティ番組でも予算がない分アイディア勝負で面白い番組を輩出してきた実績がある。残念ながら俺の住んでるど田舎の県には当然ながらテレビ東京系列局が無いので、一部の人気番組しか放映されていないけど『家、ついていってイイですか?』なんかは画期的な企画だと思う(ほんとにガチかどうかは別にして)。

  残念ながら『ベイビーわるきゅーれ』をリアル放映で観る事はできそうもないし、さすがに映画レベルのバイオレンスシーンはTVでは無理かもしれない。でもマジョリティに媚びるばかりな日本映画界の現状に照らし合わせると、近年では珍しい「ちょっといい話」かも。