北野武監督、ビートたけし主演の『座頭市』は03年に公開され、第60回ヴェネツィア国際映画祭監督賞(銀獅子賞)を受賞。世界的な評価を得たと同時に、日本で興行的には弱いとされていた北野武映画としては異例の大ヒットを記録した。

 勝新太郎版の座頭市とは盲目である以外は全く異なるテイストの作品だったが、音楽担当も従来の久石譲ではなく『ムーンライダーズ』の鈴木慶一に交代。鈴木慶一はそれまでもコンピューターゲームの音楽を作り、映画でも『良いおっぱい悪いおっぱい』(90)など幾つかの音楽を担当した経験があったが、話題作の音楽を手掛けるのは初めてであった。そのオリジナル・サウンドトラックが本作なのだ。

 

 本アルバムは全曲コンピューターで作曲し演奏。トラック1『A road to a post-town』でも顕著な様に、シンセサイザーが和風メロディーを弾くというコンセプトに貫かれている。トラック2Firewood-chopping and a farmer who wants to be a samurai』は鼓動の様な単純な音階が奏でられ、一聴すると環境音楽ぽくもあるのだが、そこに和太鼓風なパーカッションサウンドを組み合わせてアレンジ。

 

 トラック3『Ginzo’s first command』ではシンセにガムラン音楽テイストの音をプラスしてオリエンタリズムを強調。トラック4『The Naruto-ya rice merchant massacre』はいかにも劇伴ぽい雰囲気にサウンドを奏でるが、、メロディ―が何となく久石譲に似通って聴こえるのは俺だけであろうか。

 トラック5『The gambling house massacre』は劇中で使われたと思しき芸者の都都逸が冒頭でちょっとだけ使用された後は、ベース音を強調した重厚なサウンドに変化。トラック6『The wasteland massacre and the reminiscence of Geisha』は雅楽みたいなリズムを取り入れたアレンジと、シンバルぽい音を組み合わせた冒頭が、不吉感を漂わせたメロディーへと転調される。

 

 トラック7『A house on fire and massacres all over』も重々しいサウンドだが、何処か馴染み易い雰囲気もあるのが特徴。トラック8『Constructors』はガラリと変わって、ユーモラスさを漂わせるシンセのメロディーが面白い。それにチープなパーカッション的な音を重ね合わせている。

 

 トラック9『O-Kagura』はタイトル通り神楽を意識したアレンジで、劇中でタップダンサーチーム『STRiPES』が振り付けしたダンスシーンのイメージを音像化。大太鼓ぽいリズムと男達の賭け声が響き渡りトラック10『Zatoichi showdown』へ。一転してシンセのみの演奏となるのだが、坂本龍一の『B-2ユニット』(80)ぽいオリエンタリズムサウンドと表現してもいい。

 それがトラック9のパート2みたいなトラック11『Festivo』へとまたまた一変。映画のクライマックスシーンであった下駄による圧巻のタップダンスシーンの再現音像となっている。この曲のみサックス(矢口博康)とトランペット(武川雅覚)のアナログ楽器が使用されているのだが、それらもコンピューター処理されており、一聴すると聞き逃してしまう。

 

 トラック12~14は『A road to a post-town』『Ginzo’s first command』『A house on fire and massacres all over』のアウトテイクを収録。採用されたトラックとの違いを味わって欲しいとの趣向であろう。トラック13&14は採用されたヴァージョンに比べるとかなり音数が多い印象がある。最後に賑々しく盛り上げるショートナンバー『Trailer』にてアルバムは終了。

 

  北野版『座頭市』は従来の時代劇のイメージを逸脱した物になったが、サントラにおいてはデジタルサウンドで時代劇ならではの和風感を醸し出す事を指標に制作されている様だ。やはり映像の記憶と音が一体化したトラック11がベストトラックで、他の曲での和楽器風な音との融合も上手くいっている。映画を観ていなかったとしても緻密なサウンドコラージュがされている分、聴きごたえあるアルバムになった…と言っていいだろう。

『座頭市』で北野武に気に入られた鈴木慶一は、その後の北野監督作品『アウトレイジ』シリーズ(10~15)、『龍三と七人の子分たち』(15)の音楽も担当した。