1982年。元『文芸坐』従業員で、今は郷里の名古屋に帰りビデオのセールスマンをやってる木全(東出昌大)に、面識のない若松孝二(井浦新)から連絡が。今度名古屋で映画館『シネマスコーレ』を作る事になったから支配人になって欲しいとの要請。木全は若松と会い熱意に絆され了承。開館まで間もない中、館前を通りかかった地元の大学の映研部員カップルがバイト志願、女性部員の金本はモギリ担当に。開館当日は盛況だったがその後観客数は伸び悩み…。

 

 伝説の『若松プロダクション』絶頂期を舞台にした『止められるか、俺たちを』(18)から10年後という設定の続編作品。自分の監督作品をかけられる映画館を名古屋で作った若松孝二監督と、彼と出会った人々との絆を描くセミドキュメントタッチのストーリー。製作はモチ若松プロダクション。若松プロに在籍した井上淳一がオムニバス映画『パンツの穴 ムケそでムケないイチゴたち』(90)のパート1以来、自ら脚本も手掛け33年ぶりに若松プロでメガホンを取った。出演は前作でも若松監督に扮していた井浦新、色々とあって現在はフリーで活動している東出昌大、小品的な作品ながらも数多く主演も務めてきた芋生悠、新鋭俳優の杉田雷麟など。

 若松はシネマスコーレ観客数テコ入れの為、当初は封印していたピンク映画の上映を指示。約束が違うと反対する木全だが背に腹は代えられず、月1週は好きな映画を上映する条件で手を打つしかなかった。淳一(杉田雷麟)は予備校生だが漠然と映画監督を夢見ており、シネマスコーレに来館した若松に思い切って弟子にして下さいと頼む。まず大学に入学しろと言ってやんわり断ろうとした若松だが、最終の新幹線にタダ乗りし同行する淳一の熱意に負け、大学入学後の若松プロ入りを認める。翌年大学に合格し助監督になった淳一だが、若松に奴隷の様にコキ使われて自信を無くす。そんな彼に出身予備校PR映画の監督の依頼が来て…。

 

 前半は映画館立ち上げから経営に苦しむ実録的なあれこれ、後半は井上監督の自伝的ストーリーが中心に描かれる。前作では些かわざとらしく感じた井浦扮する若松監督も、見慣れたせいもあって違和感はそれ程ない。当時の日本映画状況みたいな物が台詞を通して語られるが、俺的には同時代感もあって面白く観れた。後半は正に「青春ストーリー」って雰囲気だけど、そこに「在日」問題を絡める辺りは師匠譲りってところだろうか。やや鈍臭くも感じられる演出の語り口は、敢えて洗練さよりも「パッション」を優先したい意図的な物だと思われる。現在の木全本人が登場して、虚構ながらも若松監督と再会するエンディングは泣けてしまうな~。

 

作品評価★★★★

(若松孝二なんて知らない世代にどの程度通用するかは半信半疑だが、80年代前半の空気は確かに伝わってくる。様々な作品名が登場し「大林宣彦なんて何が面白い」と言ったりしているので、大林映画マニアには不向きな作品?「美加里」なんて懐かしい女優名も登場)

 

付録コラム~80年代の若松作品

『青春ジャック』には当然ながら若松孝二監督作品の事が映像や台詞などで多数登場してくる。いい機会なので80年の若松作品をプレイバック的に紹介してみようと思う。

 

『聖少女拷問』(80)『密室連続暴行』(81年。共に主演・島明海)

 

 70年代後半以降はピンク映画製作に消極的になってしまった若松だが、それでも80年と81年は一作ずつ監督。『聖少女拷問』は戦争へとひた走る昭和前期を舞台に、貧しさ故に女郎屋に売られた女の怨念劇が展開。女郎たちを弄ぶ軍人たちを国家権力に見立て、プロレタリアートの象徴である娼婦がエリート軍人を刺殺するラストに、原始的な革命の構図を幻視する…というストーリーだった。「ピンク映画の巨匠」のアイディンティティを再確認する様な作品。

『密室連続暴行』のストーリーの記憶は最早全くないのだが、都会で生きるフーテンぽい少女と戦中派の男が出会うみたいなストーリーだった気がする。『餌食』(79)と同じくレゲエがレベルミュージック的に?挿入されていたのは覚えていた。80年代前後に若松が可愛がっていた島明海最後の出演作品。

 この作品を撮った後若松は「ピンク映画はもう撮らない」と宣言、事実その通りになった。

 

『水のないプール』(82年 主演・内田裕也)『スクラップストーリー ある愛の物語』(84年 主演・田中みお)

 両作とも脚本を執筆したのは演劇演出家の顔も持つ内田栄一。藤田敏八作品の脚本で知られる。『水のない~』は、地下鉄の駅員として退屈な生活を送っていた男(内田)が、ふとしたきっかけからクロロホルムを使って女を眠らせてから体を奪う行為にのめり込んでいくというストーリー。ピンク映画の延長みたいな設定だが至り所でシュールな映像が挿入されたり、単なる凌辱物を越えた独自感があった。事件は露見するが被害者のはずの女が訴えなかったお陰で無罪放免という「警察を嗤う」オチはいかにも若松らしかったけど。『餌食』(79)に続く内田との顔合わせで多少は揉め事もあったみたいだが、両者の80年代の代表作になった。

『青春ジャック』内で「併映の『爆裂都市』は自主映画ぽくて詰まらなかったが、『水のないプールは良かった」との台詞が出てくるが、俺の周囲の意見も大方そうであった。東映配給。

『スクラップストーリー~』は、やはり映画化された『沙耶のある透視図』も書いた伊達一行の小説『スクラップ・ストーリー』が原作。「少女M」名で少女ヌードモデルとして活躍した田中みおが、初めて女優に挑戦した作品。『青春ジャック』にこの作品の撮影風景が描かれているが、若干14歳の娘にソフトとはいえSEXシーンも用意されているのは前代未聞、今だったら勿論アウトである。配給の『ジョイパックフィルム』はピンク映画を製作していた会社なので、多分エロ目的で観に来る客を当てに製作が決まったんだろうが、何かひっそりと公開されたイメージが強く、俺も観るチャンスが得られないまま現在に至っている。未成年でビニ本に出て警察の厄介になった女のコの話で若松が監督、内田栄一脚本だけにユニークな青春映画になってるとは思うけど…。田中みおは結局女優としてはブレイクしなかった。

 両作とも共演者で意外性があるキャスト(本職役者でない人)が出演しており、若松監督の人脈の広さが伺える。

 

『松居一代  衝撃パフォーマンス』(86年 主演・松居一代)

 これも劇場で観る事は適わずVHSビデオで鑑賞した。確か『銀座シネパトス』辺りで公開されたと思うんだが…。『青春ジャック』では若松監督が「東映での配給を申し込んだが断られた」と発言している。実際に起こった事件をモデルにしたフイクションで、駆け落ちした女教師(松居)と教え子の愛欲の日々を描く。後にVシネでこの手のシチューションの物が沢山登場するけど、それと比べるとさすがに若松は「プロの映画監督」だと実感させられる程、しっかりと作り込んであった印象がある。これもジョイパックフィルムの子会社『ミリオン・フィルム』配給。

 当時の松居一代は読売テレビ『11PM』のホステス(アシスタントというより、こう表現した方がピッタリする)を経て女優転向したての頃であり、体当たりの積りで本作でヌード披露。演技自体はイマイチだったと言われているらしいが、大昔に観たモンでそこまでは覚えていない。後にカリスマ主婦から一転、船越英一郎との泥沼離婚劇ですっかり有名になってしまった。そういう事情もあり、今はお宝化している作品かも。

 若松お得意の反権力的な描写もないし、純商売と割り切って撮った作品か。

 

『キスより簡単』(89年 主演・原田芳雄)

 石坂啓作の同名漫画の映画化。亡くなった母の恋人で自分の父かもしれないロクさん(原田)とヒロイン(早瀬優香子)の微妙な関係を描く異色ラブストーリー。早瀬優香子は秋元康が惚れこんでデビューさせた異色歌手&女優。原作には明確には描かれていなかったベッドシーンがあり早瀬は初ヌードを披露。何のかんの言っても若松は女優を脱がせるのが上手い。あの浅野温子だって若松作品でヌードになったんだから。

 実は80年代の若松作品で俺が一番好きなのがこの作品。世相に即した内容で若松の演出が際立っていたし(渋谷駅前の歩道橋での、原田&早瀬の夜の長回しシーンは今も脳裏に浮かんでくるぐらい良かった)、原田芳雄という経験豊富で、かつカリスマ性あるスターの主演効果はやっぱり大した物。本作以降も若松&原田主演で3本の作品を監督する事に。

 そういう時代に合わせた演出をしつつも、原田の役柄を「異色作ばかり書く映画脚本家」に変えさせ、ラストは仕事を整理して異国へと旅立つという設定にして、元若松プロの盟友にエールを贈っていたのが若松らしくて好き。「臭い」と言われるかもしれないけど、それが若松孝二という人なのだ。

 

 そんな感じでバブルへと向かった80年代を乗り越えた若松孝二は、90年代は意外にも売れっ子になったりもする映画監督生活を走り続けるのであった…。