団五郎(榎本健一)率いるドサ回り劇団「雲の上団五郎一座」は、劇団員が不足の上演目も古臭い時代劇ばかりなので人気はイマイチ。おまけにさる街の公演にてヤクザの親分のお妾が劇団員ののり蔵に熱を上げた事で、親分はカンカン。のり蔵は逃亡し公演も早々に畳むしかなかった。次の公演地の四国に向かう連絡船の船中で、一座は酒井(フランキー堺)という青年と知り合う。酒井は自称気鋭の演劇演出家。小難しい演劇論をまくし立てる彼は一座と同行…。

 

 1960年12月に初上演され大人気を博したとされる、人気ラジオドラマ『君の名は』でお馴染みの菊田一夫が台本を書いた同名舞台劇の映画化。今も綿々と続いている大衆演劇一座を手―マにした東宝配給映画で、先日観た№28『愛の世界 山猫とみの話』が良かった青柳信雄82本目の監督作品。フランキー堺主演、ヒロインは現新派の大御所2代目・水谷八重子である水谷良重だが、一座の面々にはエノケン(遠藤憲一じゃないよ)を始めに三木のり平、由利徹、南利明といった浅草軽演劇で鳴らした役者連中が大量出演。翌年には続編が製作され(監督は同じく青柳信雄)、テレビで何回となくドラマ化されたというスタンダードなストーリー。

 酒井と一座の接触は、東京で演劇学校に通っている間に酒井と恋人関係になった興行主の一人娘はるみ(水谷良重)の差し金で父親に酒井を熱烈売り込み、酒井が団五郎一座の芝居の演出を担当する事が決定。酒井が考えた出し物は時代劇を演ってる役者に西部劇を演らせるというハチャメチャな物で、稽古を見たはるみの父・五郎はショックのあまり言語障害になり寝込んでしまった。しかし芝居は観客の爆笑を呼んで大当たり。ライバル劇団の色仕掛けの妨害工作で大量の劇団員が裏切る大ピンチもあったが直ぐに復帰、親分の追跡を逃れたのり蔵も戻って来た。大当たりを聞いた五郎の健康も戻り、酒井とはるみの仲も公認になって…。

 

 時代遅れなドサ回り一座がコメディ劇に専念したお陰でトントン拍子にブレイクしていき、やがて大阪の大舞台のステージに…というサクセスストーリーにはさしたる捻りも無く、映画的には凡庸評価になってしまう所だが、本作の見所はストーリーではなく、劇中劇として演じられるドタバタコメディシーン。最早舞台のドキュメント映像と言った方が正確な雰囲気で、今となってはお笑い文化研究的にも貴重な浅草軽演劇系の名役者たちの至芸が、十二分とまでは言わずとも味わえる。エノケンは既に体調が悪化していた時期なので脇に回り、芸を披露するシーンは皆無なのは残念だが。堺、水谷も加わるラストの大レビューシーンの華やかさも必見だ。

 

作品評価★★★

(庶民の娯楽が映画、軽演劇などから完全にテレビへと移行していく、その狭間の時期に撮られた作品という事になる。本作の出演者もテレビに進出して更なる人気を博していく者と、エノケンや花菱アチャコみたいに往年の人気の威光も忘れ去られていく者とで二分されるのだ)

 

付録コラム~あのちゃんとフワちゃん

 歌手としても活躍するタレント「あのちゃん」がSNSで「童貞」をボロクソにこき下ろして炎上、謝罪するという騒動があった。その文面を読むと正に「罵倒」という表現がピッタリで容赦ない攻撃文だ。普通ならこんな事発信したらマズいんじゃないかなと躊躇すると思うのだが、そういう事をしない所が自由奔放に生きているあのちゃんらしい。「大人の事情」で謝罪したが、多分これは本心なんだろうね。

 謝罪の理由としてあのちゃんは、これは一般人に向けてではなく、童貞である事をカミングアウトしている、自身の冠TV番組の共演者である漫才コンビ『霜降り明星』の粗品に向けての発信だったと弁解しているが、文章に「粗品」の名は出てこない。百歩譲ってそれが事実だとしたら粗品とは「童貞の癖に」などと、痴話喧嘩じみた言葉を吐ける程の深い関係である事の証明になる。藪蛇になっちゃったんじゃないかな。

 尤もこの件であのちゃんの活動に深いダメージを及ぼす事はないと思う。社会の規範など無視して言いたい事を言い、芸能界のしきたりなど完全無視して行動(「打ち上げ」には絶対参加しないなど)するあのちゃんは、今や引きこもり女子の希望の星だ。芸能界関係者もそういう事を百も承知で「異化作用」効果を狙ってあのちゃんを番組に起用しているのだろう。ある意味「さかなクン」がTV界で重宝がられているのと共通する部分があるのかも。

 やはり常識破りのキャラクターでお茶の間の人気者になったのが「フワちゃん」だ。常に水着みたいな恰好でTVに登場、どんな大物相手にも呼び捨て、タメ口という礼儀知らずという態度ながらも、抜群のコミ力であっという間に芸能界での人脈を築き上げた。我儘そうに見えながらも抜群の運動神経を生かしてバラエティ番組に体当たり企画もこなす。あのちゃんのブレイクまでは飛ぶ鳥を落とす勢いであった。

 所が去年末辺りから徐々に逆風が吹く様に。番組収録に対してのだらしない行動(遅刻癖、忘れ物や紛失癖など)へのバッシング報道は「スタッフ筋」から流れ出し、そして決定的なダメージとなったのが共演者である「みちょぱ」のSNSでの苦言。さすがに目に余った…って事だろうか。元々あのちゃんと同じく芸能人の範疇を越えた破天荒さが売りだったはずなのに、あのちゃんは許されてもフワちゃんはバッシングされてしまう。

 その理由は、あのちゃんに無くてフワちゃんにある「コミ力」故であろう。それだけの能力を持った人間なら常識もあって当然と周囲から見られてしまう辛さ。それが自由奔放に生きてきて活動してきたフワちゃんをジワジワと苦しめたのか、フワちゃんは突如4月からの海外移住を発表。芸能仕事を休養するのかと思いきや、約二週間毎に帰国して収録仕事をこなすという。時差ボケとかあるし、海外在住じゃ忘れ物取りに戻る訳にもいかないだろうし、芸能仕事を定期的にこなすにはデメリットしか浮かばない。でもそれを選択したのは案外、みちょぱはともかくも、見も知らない珍粕野郎(とは言ってないけど)にまでディスられる国(日本)にはいたくない気持ちもあったのかも。図太い様に見えてハートはか弱いフワちゃん…。

 あのちゃんは年甲斐もなく(失言)可愛いとSNSで褒められ、フワちゃんはもうテレビで観たくないタレントとか言われてディスられる。個人的には大物芸能人にへつらう事で稼ぎまくりリッチな生活を享受している『平成ノコブシ』の吉村みたいなコバンザメ芸能人が嫌いなので、規格外の二人にはもっと頑張って欲しいとマジに思うのです、ハイ~(とやす子調で〆)。