鹿児島県指宿で育った八郎(西郷輝彦)はエンジニアになる夢を抱いていたが、父が亡くなった上に経営していた旅館が倒産した為進学は無理になった。荒れた八郎はチンピラと喧嘩して怪我を負わせ少年院送りに。二年後出所した八郎。だが大型ホテルの息子・章司と付き合っていた姉はその間に自殺。事情を先方に訊きにいっても追い返されるし、周囲の人からは白い目で見られるので八郎は上京を決意。章司の妹・佳代(松原智恵子)は悲しみに暮れる…。

 

 64年にレコードデビューするやアッという間にスター歌手になった西郷輝彦。その年に映画デビューもしており多忙なスケジュールの合間を縫って映画出演にも意欲的に取り組んだ。本作は10本目の出演作で『月刊明星』に掲載された自作小説(ホントに西郷が執筆したのか怪しいけど)を映画化した日活作品。フリーになってから東宝作品『モスクワわが愛』(74)で大ヒットを記録した事もある吉田憲二が監督。少年院帰りという傷を背負った主人公のラブストーリーと共に、姉の不審死を探るサスペンス要素も塗した歌謡映画。ヒロインには松原智恵子。荒木一郎の母親・荒木道子、草薙幸二郎、嵯峨善兵などが共演。65年の正月興行として公開。

 

 高校時代の友人を通して八郎は自動車工場に就職。自分の意志を無視して縁談を勧める両親に絶望した佳代も後を追って家出した。佳代に会った八郎は最初指宿に戻る様に諭したが佳代の決意は強く、佳代の両親の秘書と称する元やくざ・飯野(草薙幸二郎)から恫喝めいた事を言われた事もあって八郎も佳代の決断を支持、彼女の自活を助ける立場に。後で友人から生前の姉と最後に会ったのが飯野だと聞かされて愕然とする。佳代を連れ戻しに上京した両親や米国から帰国した章司に問い質そうと宿泊先を訪れるが追い返された。こうなれば飯野自身から訊きだす以外にないと考えた八郎は、飯野の居場所を探し出して対決する…。

 

 わざわざ西郷の地元(鹿児島県)まで出向きロケしているんだから、こういう純フィクションではなく自身の「上京物語」的ストーリーにすれば良かったのに…と思ってしまうのは俺だけであろうか。主人公側の姉弟とヒロイン側の兄妹がW恋愛関係という設定は安直。ただ後年俳優中心の活動になる西郷の演技に対する情熱はなかなかの物で、雨降りしきる中での草薙との格闘シーンは両者泥だらけになっての大熱演。事件の真相が解明後松原と結ばれてめでたしめでたしかと思わせといて実は…という下りは、却って爽やかなエンディングで良かった。西郷のファン向け作品としての用途は充分果たしてはいるけど、それ以上を望むのは厳しかった。

 

作品評価★★

(急ごしらえの製作だったらしくキャスティング層はかなり薄い。その怪我の功名とでも言うべきか武藤章生、野呂圭介、市村博といった、通常はチンピラ役の日活専属俳優たちが、主人公とヒロインの恋を応援する純善玉役で目立っているのは、役者マニアとしては愉しくはある)

 

付録コラム~ヤバい萩原健一さん

 1982年にフジテレビの深夜番組で放映された萩原健一のライヴ番組(30分枠で4週に分けて放映)を観た。俺は基本的に役者がその人気を当て込んで歌手活動するみたいな流れは好きじゃなく、その類は殆ど聴いた事がないのだが、萩原健一は例外だった(元々が歌手ではあるのだが…)。そもそも彼は純粋な意味での「歌手」ではなく「歌手」という役割を過剰に演じているのだ…と俺は常々思っていて、今回の番組を観て益々その想いを強くした。

 彼は常にキャメラを意識し、予知できぬ行動を取って観客が呆れるのを愉しんでいる風なのだ。演奏中にスーツで正装した小人プロレスラーたちを招き入れ、自分も彼らの背格好に合わせしゃがみ込んだする仕草は、今の時代ならば「差別」と弾劾されるだろう。『ラストダンスを私に』の我流の歌詞には「ガンジャ」というワードが登場した。多分テレビ局側はそれが何を意味するのか分かっていなかったからノーカットで放映したんだと思うが、萩原が大麻取締法で逮捕されたのは翌83年だ。その前に彼は堂々と公共電波の場で大麻使用をカミングアウトしていた…という事になる。

 とにかく放送コードも良識もヘッタクレもなく我流を貫き通す萩原のパフォーマンスは改めて凄いと思った。『ラストダンスは私に』だけでなく『大阪に生まれた女』も後に歌詞を「留置場から帰って来た夜」と歌詞を差し替えて唄ったり、そんな自分を『愚か者よ』(近藤真彦の『愚か者』と共作)と卑下してみせたり、歌い手としての萩原は糸の切れた凧みたいに、何処へ辿り着く着くのか分からないヤバさがある。

 そんなヤバさは晩年になるとバラエティ番組でも発揮され、昔なら絶対出演しなかったであろう『太陽にほえろ!』の同窓会風コーナーに登場(どう接していいか分からず困惑している他レギュラー陣の姿が印象的だった)、場違いな番組に出演したあげく「二度と出ねえ」と毒づかれたMCの東野幸治は「殺されるかと思った…」と恐怖体験を告白。リアクションがマジだから恐ろしいはず。

 存命なら間違いなく更なる問題を起こしていたと思われる萩原健一。その無軌道ぶりを単純に誉めそやす訳にはいかないけど、調子の良さのみでのし上り大ブレイクした某大泉などを見るにつれ、ショーケンのヤバさが愛らしくさえ思えてくるこの頃…。