西暦2054年。「プリコグ」と呼ばれる三人の予知能力者の能力を生かし、殺人を事前に察知して加害者を拘束するシステムがワシントンD・Cに限定して「犯罪予防局」として施行され、殺人事件の発生率は0%になった。犯罪予防局に勤務するジョン・アンダートン刑事(トム・クルーズ)は息子の失踪事件をきっかけにこの職に就いたが、精神的には今も落ち着かず妻のララとも別居している。予知システムの全国規模での導入に対する国民投票が行われる事になり…。

 

 映画ファンにも傑作『ブレードランナー』(82)の原作者として知られているSF作家フィリップ・K・デイックの同名小説をスティーヴン・スピルバーグが映画化。殺人事件がこの世界から一掃されるかもしれないという、表面上は奇麗ごとな計画の裏にある陰謀に巻き込まれてしまった男を描くSFアクション。『ミッション:インポッシブル』シリーズでアクションスターの第一人者と目されていたトム・クルーズが主演。この時期ブレイクしつつあったコリン・ファレル、『ギター弾きの恋』(99)で無言のヒロインを務めて注目されたサマンサ・モートン、ベルイマン作品や『エクソシスト』(73)で知られるマックス・フォン・シドーらの共演。日本での興収は54億円越え。

 司法省調査官ウィットワー(コリン・ファレル)が局を訪れ調査の視察が開始。その際プリコグの一人アガサ(サマンサ・モートン)が湖のある森で女性が黒づくめの人間に襲われ湖に叩き込まれ死んでいく予知映像を見せてきた。詳しく調査するジョン。被害者はアン・ライブリーという元ヒロイン中毒者と判明したが前後の事情は分からず。翌日ジョンは予知映像にリオ・クロウなる見知らぬ男を殺す自分の姿が映った事に驚愕し、追跡をかわし局から逃走し真実解明に乗り出し、プリコグの発見者のハイネマン博士を訪ねる。博士によるとプリコグの三人の予知夢が食い違う場合、少数派の予知は「マイノリティ・リポート」として廃棄されるという…。

 

 主人公が逃亡するシーンは異常にテンポが速い、俗に言う「ジェットコースター・ムービー」的な展開で、俺みたいな昭和世代の人間はどっと疲労してしまう。ついスピルバーグは黒澤明の映画は大好きかもしれないけど、小津安二郎には全く興味無さそう…なんて関係ない事を考えてしまった。主人公が行うであろう殺人と、アガサの予知の謎がリンクするまでの下りになると逆に冗長に感じ、かつ情報量も多い為(これは原作に基づいているのかもしれんが)、観る側もそれなりの知的覚悟?が必要に思える。原作を削ぎ落して2時間弱に纏めれば充実感ある作品になったかもしれないけど、スピルバーグはそうしたくはなかったんだろうな、きっと。

 

作品評価★★

(同じディック原作物でも、90年の『トータル・リコール』はB級映画ぽく愉しめた記憶があるのだが、スピルバーグの「どんなもんだい」的な演出態度がどうしても好きになれん。トム・クルーズに関しては、監督から求められた事をきっちりやっているだけだから罪はないけどね)

 

 付録コラム~田中哲司の栄転?

 一般社会もそうなのかもしれんけど、芸能界では年度末となる3月末日いっぱいで所属事務所を退所するタレントや俳優が多い。理由は様々だろうけど、多くは事務所の待遇に不満を覚えて退所…というのが現実ではないか。何のかんの言っても事務所サイドとしては今が旬の所属タレントの売り出しに執心するのは営業方針として当たり前の事で、その分それなりに所属歴が長い中堅タレントのプロモートなどはついつい疎かになりがち。そう感じたタレントがいっそフリーになった方がもっと仕事を取れるのでは…と考えても不思議はないだろう。

 ただ中には事務所的には充分売れっ子だったが、大手の事務所にハンティングされ退所…という例もある様だ。3月いっぱいで所属事務所を退所した田中哲司がそうではないかと噂されている。

 田中哲司はゼロ年代から頭角を現しTV、映画、舞台と途切れる事もなく現在まで稼働。今や同年代(60歳前後)の脇役としてはトップランクと言っていいだろう。悪役や権力側に立つ役柄が多いが善人役も違和感なくこなせる。20年前ぐらいの今頃代々木公園で行った花見の席で、俺はその場にいた劇団『大人計画』の近藤公園氏(村杉蝉之介氏ではないよ)に「田中哲司はその内に絶対ブレイクすると思う」と断言した記憶があるが、俺の予言は当たったのだ。

 勿論それは彼の演技力の賜物ではあるのだが、それだけではなく役者状況の変化も功を奏した。2017年に巻き起こった「バイプレイヤーブーム」の数年前辺りから、それまでは映画などでアクの強い役も演じていた松重豊、遠藤憲一、寺島進といった、田中よりも先輩格の有名脇役の面々が殆ど「いい人」しか演じなくなってしまい、きっちり悪役を演じきれる人が少なくなってしまった事情もある。今田中哲司以外に善悪問わずカメレオン的に様々な役を演じれる脇役系俳優と言えば、せいぜい安田顕ぐらいだろう(田中も安田もバイプレイヤーブームに乗っかる事はなかった)。

 まさか個人事務所を立ち上げるとは考えづらいから、多分近い内に新たな所属事務所が決まって活動していく物と思われるが、大手に移籍したのをきっかけに演じる役柄もいい人役オンリーにチェンジ…なんて事だけは辞めてもらいたい物である。ちなみに田中哲司が所属していた事務所には主役を張る様な大物俳優も所属しており、もしかしたら彼等にも今後何らかの動きがあるかも。

 実は田中哲司と近しい関係だった「セクハラ監督」の園子温も所属していたのだが、既に退所済みであった(解雇?)。