音楽はアトランダムに聴くのが俺のモットー。それなりの量の音源を所有しているのだが、中には随分前に録音したのに運悪くロクロク聴かず現在に至った物もあったり。今回取り上げるのも録音する際に聴いた時以来、聴いた事がなかった気がする。

 プログレッシブロックには縁が薄く『ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター』というバンドも一度も聴いた事は無い。だがその中心人物であるピーター・ハミルに関しては結構頻繁に来日公演やっていたな…との印象がある。早い時期から『ヴァン・ダー~』の活動と同時進行でソロ活動を行っており、今回初めて知ったのだが音楽雑誌『フールズ・メイト』は、彼の初のソロアルバム(71)のタイトルから雑誌名を付けたというから、かなりのカリスマ性を持ったミュージシャンであると言えよう。ちなみ所属していたレコード会社の名前も『カリスマ』(『ジェネシス』やジュリアン・レノンも在籍)だった。

 さっき聴いた『ネイディアーズ ・ビッグ・チャンス』は一旦『ヴァン・ダー~』を解散し集中してレコーディングに臨んだ、ピーター・ハミル通算5枚目のソロアルバムだが『ヴァンダー~』の他のメンバーも参加し再結成に繋がったとされる。ハミルが「リッキー・ネイダー」なる架空の少年をに成り切るというコンセプトアルバムらしい。

 

 トラック1『ネイディアーズ・ビッグ・チャンス』は、一瞬『ロキシー・ミュージック』かと勘違いしそうになる、サックスが入りシンセサイザーが暴れ回る退廃美的なサウンドコレクションと、予想に反した荒々しいハミルのヴォーカルに驚く。

 

 トラック2『ジ・インスティテュート・オブ・メンタル・ヘルス、バーニング』も全体的に退廃的な物を感じるが、何処か型にハマらない不可思議さも漂う異色プログレポップ…と言えるだろうか。音の残像を残しつつのエンディングが印象的。

 トラック3『オープン・ユア・アイズ』は、サックス&オルガンが大活躍する、これまたロキシー・ミュージックぽくもある曲。嗄れたハミルのヴォーカルに、強いロック魂を感じる。プログレとは随分異なるが…。

 トラック4『ノーバディーズ・ビジネス』でも強いエフェクトをかけた攻撃的なヴォーカルが印象的。演奏面においては更にグラマラスな色が強くなり、サックスを中心にした混沌としたサウンドが異様だ。

 トラック5『ビーン・アローン・ソー・ロング』は、それまでの曲と一変するアコースチィックギターを主軸にした優しげなアレンジで(でもサックスのソロはやっぱり奇妙)、これは貴公子ぽい「ピーター・ハミル」の名にふさわしい?曲ではある。

 

 トラック6『ポンペイ』はパーカッション系の音を前面に出しつつ、語り的なハミルのヴォーカルが味わえる曲。この曲に関しては「英国のルー・リード」って感じがしてしまうのは俺だけだろうか? この曲でもサックスがソロを取る。

 トラック7『シングル・ソング』もハミルの語り的なヴォーカルから始まり、アコースティックギター&サックスを中心にした、どちらかと言えば淡々としたバック演奏が付く。英国ぽさを感じさせる曲。

 トラック8『エアポート』でもハミルの説得力のあるヴォーカルと美しいメロディーが持ち味。一部Wヴォーカルでコーラスぽく仕上げている。この辺は従来のピーター・ハミルのイメージと近いのかな?

 トラック9『ピープル・ユー・ワー・ゴーイング・トゥ』は『ヴァンダー~』のシングル曲の再録らしい。元歌とどう違うのかは分からないけど、この曲のヘビーな感覚なんかトラック6よりも更にルー・リードとの共通項を感じる。それだけヴォーカルのカリスマ性が強い…という肯定的な意味である。聴き応えは充分の佳曲。サックスも名演だ。

 

 トラック10『バースディ・スペシャル』もグラマラス感いっぱい、ピーター・ハミルのヴォーカルはまるで『セックス・ピストルズ』のジョニー・ロットンの如く、口内に唾を溜めまくって唄っているかの様なパンク唱法なのだ。

 アルバム最後の曲『トゥー・オア・スリー・スペクターズ』になるとパンクというより、80年代ニュー・ウェイヴの魁みたいな演奏。フリーキーにブロウするサックス、荒れ狂うヴォーカルなどかなり過激なテンションとアレンジに驚かされる。

 

 

『ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター』も、ピート・ハミルの他のアルバムも聴いた事のない上での感想だが、音的にはかなり先見の目があるアルバムだと言える。まだロンドン・パンクが産声を上げてないというのに、リッキー・ネイダーを「パンク・ロック少年」とはっきり明記してあるらしいし、プログレとはかけ離れたヘビーな楽曲が多かったりするのだ。

 こういうざらついた感覚を持った英国のソロシンガーは、1975年という時代においては他には思いつかない。ただ従来からのピーター・ハミルのファンならばトラック5やトラック7みたいな、プログレに近い叙情感溢れる楽曲が好みなんではないだろうか。ただアルバムのベストは断然トラック9という事に落ち着くのでは。

 ピーター・ハミルは70代半ばになった現在でも現役で活動中。アルバムもソロだけで40枚以上発表しているというから凄い。また聴く機会はあるや否や。