舞台は新宿。竜崎組々長・竜崎は幹部を集め事業に専念する為引退し跡目は鳴海に継がせると宣言。五十嵐(菅原文太)はこれを機に組を起したいと竜崎に言う。その時賭場に手入れが入り、五十嵐は警官たちに対峙して捜査を妨害し逮捕。入れ違いに大阪・藤上組の実子だが破門になった三郎(待田京介)が草鞋を脱ぐ。五十嵐を疎ましく思う竜崎は出所した五十嵐を三郎に始末させようとするが、五十嵐の男気に触れた三郎は斬らず、旅に出る様に勧める…。

 

『現代やくざ 与太者の掟』(69)で東映主演デビューした菅原文太。鶴田浩二、高倉健、若山富三郎に続く第4の任侠スターとして直ぐに『関東テキヤ一家』シリーズなど多くの作品で主演を張る事に。本作もその一つで、50年代の『警視庁物語』シリーズで知られた村山新治が監督、村尾昭が脚本を執筆。現代の新宿を舞台に任侠道を貫こうとする主人公と、それに立ち塞がらんとする連中との闘いを描く。ヒロインにはやくざ映画初出演となる吉行和子。主人公のライバルには待田京介、善玉親分には戦前からから活躍し、戦後は監督としても活動した小杉勇、悪玉親分に敵役常連の渡辺文雄。スペシャルゲスト格として鶴田浩二御大も出演。

 

 妻・早智子(吉行和子)に別れを告げ旅立とうとする五十嵐だが、弟分の庄司が暴走して竜崎を襲いリンチを受けているとの報せが入る。五十嵐は庄司を救う為に事務所へ向かい、行きがかり上自分も竜崎を斬ってしまう。五十嵐に恩がある老舗の若林組々長が仲介に入り事は収まったが、五十嵐は刑務所に逆戻り。目の上のタンコブがいなくなったのをいい事に、竜崎は三郎に命じて若林組の縄張りを荒らさせ、早智子を毒牙にかけた。三郎は卑劣な事は気が進まなかったが、ここでのし上る為には仕方無しと自分に言い聞かせる。そんな時大阪から三郎を連れ戻しに藤上組代貸・中部(鶴田浩二)が上京して説得。再度出所した五十嵐は…。

 

「兄弟分」は文太と待田の事を指すと考えるしかないのだが、実際はそんな関係ではない。地道に妻や弟分たちを食わせていこうと考えている文太に対し、待田は彼の男気を認めつつも浮上する為には非道も辞さない現実主義者。そんな二人が最終的に手を結んで…というシナリオを予想したが、鶴田が登場する事で二人の関係性が希薄になり、結局鶴田が美味しいトコ(文太と連れ立ち殴り込み)を取ってしまう安全パイ的流れに落ち着く。展開が性急過ぎるという難点と共に、古典的やくざの文太が何故にして卑劣な渡辺の盃をもらっていたのか…という疑問が、本作の最大のネックであると言わざるを得ないな。任侠映画衰退の感ある作品。

 

作品評価★★

(第4のスター候補だった文太と待田が映画内でもライバル関係というのは皮肉。やっぱり文太兄ィには正統派な任侠映画の主役は似合わないね~。既に悪役専科になりつつあった近藤宏が久々に善玉やくざを演じたのと、砂塚秀夫が珍しく硬派な役だったのが印象に残る)

 

 付録コラム~坂本長利

 金沢在住時代の1980年、知人に勧められて一人芝居『土佐源氏』を観劇。土佐(高知県)を舞台に今は乞食にまで落ちぶれた元馬喰の老人が自分の性遍歴を独白…という、一時間強の内容。俳優・坂本長利が67年に初演して以来1000回以上上演されてきたという。上演の翌日行き付けの喫茶店で素の坂本と遭遇した。落ち着いて物静かな人であった事を記憶している。

 当時演劇には左程詳しくなかった俺だが、坂本長利は日活ロマンポルノ初期から円熟期の70年代末まで活躍した常連俳優の一人として知っていた。日活がロマンポルノ路線に踏み切った際、日活に残った男優はチョイ役俳優ばかりで演技力という点では些か心もとなく、人材を外部に求めて演劇人がメイン的に起用される機会が多かった。風間杜夫、本田博太郎も元々演劇俳優だったが、ロマンポルノでの演技が認められたのがブレイクのきっかけになっている。

 

坂本長利は50年代初期から活躍するベテラン俳優で、60年代にはアングラ劇団の走りとも言える『変身』という劇団で活躍、アングラ演劇の影響が強く感じられる金井勝の自主映画『無人列島』(67)で映画初出演。ロマンポルノに所謂プログラムピクチャー的な作品から鬼才の意欲作までジャンルは問わず、幅広く作品に出演している。

 印象に残るのは小沼勝監督、田中陽造脚本、谷ナオミ主演トリオの『花と蛇』『生贄夫人』(74)。団鬼六原作という触れ込みの『花と蛇』ではノーマルな妻のSM調教を部下に依頼する会社社長役、『生贄夫人』では性犯罪を犯して失踪したが舞い戻って来て、妻を拉致して廃屋でSMプレイに没頭する、やはり夫役を演じた。『花と蛇』はコメディぽい作風で「原作とは違う。この作品の作り手はSMを判っていない」と団鬼六を激怒させたが、オリジナル脚本の『生贄夫人』の方が団鬼六ぽいという逆転現象が面白かった。失う物が無い程落ちぶれた夫が何とか昔の関係を取り戻そうと、妻に花嫁衣裳を着させて責める下りの坂本の演技は迫真の物が。

 小沼勝作品では『性と愛のコリーダ』(77)の怪演も印象に残る。桂千穂が脚本を執筆した『色情妻 肉の誘惑』(76)では欲求不満のヒロイン(松永てるほ)を快楽の世界へと誘う謎の水晶占いの老婆!役、一転して泉じゅん主演のヒット作『感じるんです』(76)では根っからの善人な貧乏教会の神父。胡散臭い役柄が多かった坂本にしては、珍しいノーマルな配役であった。

 そんな坂本長利も『美姉妹・犯す』(82)を最後にロマンポルノから離れTVドラマ出演が中心になり、俺の目線に入る機会も少なくなっていったが『土佐源氏』の上演は90歳を過ぎた近年でもやっていたというから凄い。その意味では「94歳 老衰で逝去」は、正に役者一筋の人生であったと言えるだろう。