『RCサクセション』活動停止後は様々なユニットを組んで活動してきた忌野清志郎だが、4枚目のソロアルバム『KING』(03)の頃からはツアーメンバーはほぼ固定した状態に落ち着き、そのメンバーでレコーディングに臨む様に。ゼロ年代になってからは自転車にハマり出し都内の移動は全て自転車を利用していた…なんて話も聞いた事がある。そんなヘルシーな生活をしていた清志郎が、病魔に襲われる事になるとは思ってもみなかったが…。

 5枚目のソロアルバム『GOD』は、長年の相方だったギタリスト・三宅伸治と一緒にプライベート・スタジオ『ロックン・ロール研究所』で約1年以上の制作期間を経て完成。大部分の曲が清志郎と三宅の共作。ツアーメンバー以外には『クロマニヨンズ』の甲本ヒロトがヴォーカル&ハーモニカで参加。気の合う仲間たちとのレコーディングとなった様だ。

 

 トラック1『ROCK ME BABY』は、RCサクセション時代を彷彿させるソウル・ロックナンバー。ロックがあれば何にもいらない、これでいいのだ…と歌詞も明解。New Blue Day Horns(A.sax:梅津和時/T.sax:片山広明/Tp: 渡辺隆雄)のホーンセクションのアレンジや、厚見玲衣(元『VOW WOW』.)のキーボードなど、バックの演奏も快調だ。

 トラック2『愛と平和』は尊大な連中の前では愛も平和も通用しなさそうな時代に対し、やっぱり愛って一番大切だろう?と訴えるラブソング。RC時代にレコーディングに参加した事もある白人系R&Bバンド『タワー・オブ・パワー』みたいなバックが付く。

 トラック3『仕草』は前曲に続く70年代ソウルサウンドをバックに、家族や日常生活の素晴らしさをアピールした歌詞がグッと来る。『ザ・タイマーズ』などの過激な面とこういうナイーヴな面が表裏一体となっているのが、清志郎の真骨頂であろう。

 

 トラック4『Remember You』は、オーティス・レディングへのリスペクトを感じさせる曲。一部甲本ヒロトが唄いコーラスでも歌唱。一種懐かしさもあるね。スティーヴ・クロッパーばりのギターも聴ける。〆はヒロトのハーモニカソロ。

 トラック5『ママもうやめて』は止む事のない子供へのDVD事件に触れた重い曲。サウンドアレンジは笠置シズ子ばりの昭和ブギウギリズムを取り入れたりし一聴すると陽気な分、歌詞の深刻さが応える。

 トラック6『GOD』はいつまでも戦争を辞めようとしない「人間」という種族を生み出した「GOD」に違和感を隠せないという、かなり大それたテーマの問題曲。実際現在も海の向こうで進行形で戦争が続いている。それもGODの気まぐれ故…という事なのか。

 

 トラック7『Kiss』は結構エロがかった詞が特徴のロックナンバー。「愛とか平和とかどうでもいい 必要な物はお前の唇」と、敢えて他の曲と矛盾している事を唄ったりもしている、純粋ロックナンバー?

 トラック8『サイクリング・ブルース』はタイトル通り自転車への偏愛を素朴に歌詞にした物で、サイクリングをしながら頭をよぎる様々な想いや、大雨や強風に襲われながらも自転車を走らせる風景が唄い込まれている。

 トラック9『旅行』はリコーダーの音が優しい、旅への憧れを唄った物。ただそれは70年代のシンガー・ソングライターが良く唄った「放浪の旅」ではなく、帰る家がある家族旅行って雰囲気。旅行会社『HIS』のCMソングだったらしい。

 トラック10『わからず屋総本家』は正統派のブギウギナンバー。庶民の苦しみや哀しみを全く理解しようとしない、上から目線の為政家に向けて唄われた歌だと思う。現・自民党副総裁が首相時代、街頭演説で「下々の皆様」と発言したのを思い出すなあ…。

 トラック11『春の嵐』では、スティールギターを導入してカントリー・ロック風サウンドに挑戦。春という季節に合わせて一歩踏み出そう…と、結構ポジティヴシンキングな曲だが、メロディーに「泣き」を感じる分だけ、安直な応援歌みたいにならない所がイイ。

 トラック12『君を信じてる』も前曲の姉妹曲みたいな感じだが、清志郎の切ない系のヴォーカル力が生かされた佳曲と言えるだろう。ロクでもない時代だけど何かを、誰かを信じる気持ちさえあればきっと生きていける、生きていけるはず…。ストリングスの導入はRC時代の『ヒッピーに捧ぐ』を思い出すなあ。

 

 最後の曲『JUNP』は、晩年の清志郎ライヴではオープニング曲になっていた有名曲。馴染み易いメロディーだが、唄われている歌詞は結構シビア。マスコミを始めあらゆる物に不信感を拭えなくなったこんな時代。それを乗り越えるべくジャンプしよう…という歌詞は、大江健三郎の短編集のタイトル『見るまえに跳べ』を意識した? 

 

 

 R&Bやソウル、ブギウギ、フォ―クスタイルまで幅広い音楽性を「忌野清志郎」というフィルターを通して聴かせる、まあファンなら絶対満足するであろう好アルバム。『GOD』や『JUNP』の歌詞が今でも通用するって事は、悪い時代である証拠なのだが…。自作の『夢助』(06)はアメリカ・ナッシュビルでのレコーディングだったので、国内で制作した清志郎のアルバムは本作が最後となった。もう亡くなって15年も経ったとは信じられないね…。