黒船襲来から間もない武蔵国多摩。天然理心流の試衛館道場に所属する沖田総司(草刈正雄)は、兄貴分の土方歳三(高橋幸治)が他道場の門下生に襲撃されていると聞き、現場に駆けつけて門下生を斬りまくった。京都護衛の浪士隊が結成されると聞いたリーダー格の近藤勇、土方、総司ら試衛館の連中は応募して京都を目指す。その際起きたトラブルで近藤は芹沢鴨に頭が上がらなくなり、京都で結成された新選組でも芹沢を局長に抱かざるを得なくなった…。

 

 映画TVドラマなどで何度となく映画化されている新選組。美青年の天才剣士とされている沖田総司は新選組では近藤、土方に次ぐ№3的存在であったが、彼を主人公にした映画となると戦前に『剣士・沖田総司』(29)という作品以降なく、本作は二回目の沖田総司ストーリーという事になる。主演を務めた草刈正雄はモデルから俳優に転身、『卑弥呼』(74)を皮切りに東宝専属になってこの年だけで5本もの作品に出演。本作は『年ごろ』(68)『俺たちの荒野』(69)など青春映画で売り出し、同じく草刈主演で『神田川』(74)も撮っている出目昌伸が監督。ヒロインには女優デビューしてまだ日が浅かった真野響子。他に高橋幸治、米倉斉加年なども出演。

 

 芹沢の横暴は目に余る物となり、我慢できなくなった近藤と土方は芹沢暗殺を謀り、総司も加わって実行に移された。京都見廻役として殺伐とした日々を送る総司の心を癒すのは、ふとしたきっかけで知り合った町娘のおさち(真野響子)。とある筋から長州藩の京都焼き討ちの計画を知った新選組は、その密談が旅館・池田屋で行われると聞き襲撃を掛け、総司の活躍は目覚ましかったもののその際に喀血、医者に見放される程深刻な状態に。池田屋事件以来新選組の名声は上がったが、内部では粛清の嵐が。特に土方は他の隊士に対し厳しく、総司はそれに違和感を覚えつつも従った。武州以来の盟友・山南敬助は付いていけずに脱走…。

 

 イケメン俳優草刈を起用しての明朗ストーリーを想像したが、それとは全く異なる新選組描写。近藤は立身出世のみが目的の俗物、土方は懐疑心の塊みたいな陰キャラ。総司のみが武州時代と変わらない少年ぽさを残しているのだが、それは即ち兄貴分だった土方への盲従という形を取る事になる。僅かにおちさへの思慕という部分で人間らしく生きていく望みを見出そうとする総司だが、おちさは長州浪士との諍いに巻き込まれて斬殺され、総司は人斬りマシーン化したあげく虚無の道を歩む。いかにも現代風な容貌の草刈に総司を演じさせる事で、今を生きる若者たちの姿と照らし合わせようとした演出の試みは、60%は成功していると思う。

 

作品評価★★★

(青春映画の撮り手が沖田総司を描くとこうなるのか…と考えさせられる作品であった。総司に介錯される山南敬助を好演した河原崎次郎の兄・河原崎長一郎が、加藤泰の『幕末残酷物語』で総司役を演じていたという因縁あり。伊東甲子太郎役に浦山桐郎という意外な配役も)

 

付録コラム~北陸新幹線延伸の陰に北陸本線の第三セクター化による消滅

昨日北陸新幹線の金沢~敦賀間が開通。 これで福井から東京までの運行時間が大幅に短縮され、旅行客や頻繁に上京する必要のあるビジネスマンなら大歓迎であるが、その裏で従来の北陸本線の実質的な消滅(僅かに敦賀~米原間までは現存)という、地元民にとってはちょっと複雑な現実もある。

一昨日まで『しらさぎ』『サンダーバード』という特急列車が行き来していた金沢~敦賀間の特急停車駅だったが新幹線は止まらない駅は、北陸新幹線延伸による第三セクター化で『サンダーバード』の廃止、しらさぎの運行が敦賀~名古屋間に短縮化される事で一挙ローカル駅化する事は間違いない(金沢駅&福井駅を除いて)。 特急停車用に作られた長いホームが無用化して閑散となっている光景は寂しい限りだ。

 一昨日の金沢駅などは、金沢駅から出発する最後のサンダーバードやしらさぎの姿をカメラに捉えようと、多くの鉄オタが群がっていたはず。 何か閉館間際の名画座映画館に多くの観衆が訪れる光景と重なってしまうな。

 北陸新幹線延伸に鉄オタは無邪気に喜んでいるのかもしれないが学生の春休み、夏休み、冬休み期間に限定発売される「青春18きっぷ」で石川県をのんびり旅する事は不可能になった。 日本全国鈍行列車なら一日乗り放題がJRが発売した青春18きっぷの売りだったはずだが、新幹線以外はJRじゃなくなってしまった石川県では完全無効じゃん!

 高度経済成長以降の日本の変化と、鉄道に纏わる変化は当然ながら比例している訳だが、蒸気機関車の廃止に始まって経営のスリム化による無人駅の増加、ローカル線の廃止、深夜急行も無くなり、貨物のコンテナ輸送一本化によるコンテナ車両以外の貨物車両や引き込み線の消滅など、 子供時代から俺が馴染んできた鉄道の風景は新幹線路線の増加によってほぼ完全に失われてしまった。 もしタイムスリップできるならば、新幹線が無かった60年代前半の鉄道風景を、今一度体感してみたいね!