お笑いコンビ『オードリー』が出演するニッポン放送の深夜番組『オードリーのオールナイト・ニッポン』のイベントが東京ドームで行われ、大盛況を博したという。最近はTVだけでなくラジオ放送も不景気で放送局が統合されるなんて話も聞く中、オードリーの人気故という事を差し置いてもラジオ界にとっては画期的なイベントであったと言える。

 さて『オールナイト・ニッポン』と言えば忘れてならないのが、オープニング&エンディングテーマ曲として多分現在も使用されている(何分『オールナイト~』を随分長い間聴いてないので…)『バタースウィート・サンバ』。軽快な南国情緒に溢れたこのインスト曲を演奏しているのはインストバンドの『ハーブ・アルパート&ティファナ・ブラス』。リーダーであるトランぺッターのハーブ・アルパートは1935年米国カルフォルニア生まれ。大学卒業後にミュージシャン&作曲家として活動を開始するがそれだけに留まらず、後にビッグ・レーベルとなる『A&Mレコード』を創立しアレンジャー、プロデューサーとしても活動。62年からハーブ・アルパート&ティファナ・ブラス名義でアルバムを発表していった。

 それが成功した事でハーブ・アルパートは65年にメンバーを集い、ハーブ・アルパート&ティファナ・ブラスは正式にバンドとして活動開始。さっき聴いた『ホイップド・クリーム&アザー・ディライツ』はハーブ・アルパート&ティファナ・ブラス名義の4枚目、バンド化しての最初のアルバム。女性の裸体にホイップクリームが塗りたくられてるアルバムジャケットは、今だったらアウトかもしれない。

 

 アナログA面1曲目『蜜の味』は、1958年に同名の演劇公演用に書かれたインスト曲。マリアッチ風なイントロ、タイトなリズムセクション軽快なトランペット、絶妙なタイミングでギターが味のあるフレーズをポロリと弾くアレンジの妙。『ザ・ビートルズ』が歌詞入りのカバー・ヴァージョンを発表した事でも有名。本ヴァージョンは全米シングルチャート7位を記録するヒットに。

 

 2曲目『グリーン・ペッパーズ』は『ビタースウィート・サンバ』と同じ作者のボサノバぽいメロディーの曲。ジャズ・ギタリストのウェスト・モンゴメリーもこの曲をカバーしており、スタンダート・ナンバーなのかもしれない。

 3曲目『タンジェリン』は、1941年に発表されたジャズのスタンダート・ナンバーで『艦隊入港』(42)という映画の挿入歌だった。パーカッションや生ギターも活躍するムーデイーな曲。4曲目が問題の『ビタースゥイート・サンバ』。僅か1分46秒しかないので番組テーマ曲にはピッタリだ。ラテン系のリズムが冴える。

 

 5曲目『レモン・ツリー』は1950年に書かれたフォ―クソングで『ピーター、ポール&マリー』のデビュー曲だったそう。ただ本ヴァージョンにはフォ―クぽさは無く、マーティン・デニーを彷彿させるラウンジ・ミュージック風なアレンジ。

 A面最後の曲『 ホイップド・クリーム』は、ベネズエラ生まれの英国人の、エドムンド・ロスという人が1940年に発表した曲。ラテンを基調としたユーモラスな曲で、そのせいか長寿ラジオ番組『毒蝮三太夫のミュージック・プレゼント』のテーマ曲に使用されていたとか。

 

 アナログB面1曲目『ラブ・ポーション・No.9』は『ハウンド・ドッグ』『スタンド・バイ・ミー』の作者ジェリー・リーバー&マイク・ストーラーが作って『クローヴァーズ』というヴォーカルグループがヒットさせた曲。日活アクション映画で半裸のダンサーがキャバレーで踊るシーンにかかっていてもおかしくない感じ。程好いエロぽさがある。

 

 2曲目『エル・ガルバンゾ』は典型的なマリアッチ風サウンド。ティファナ・ブラスのメンバーにはメキシコ人は一人もいなかったそうだが、そつなくメキシコ音楽をこなせる腕前だ。

 3曲目『レディーフィンガーズ』は、ジャズハーモニカ奏者として日本でも良く知られたトゥーツ・シールマンスが作った曲。ハーモニカの演奏をトランペットに置き換えた、ロマンチックムード溢れるアレンジ。

 4曲目『バターボール』はトランペットとサックスが絡み、マンドリンなども登場するデキシー・ジャズをも彷彿させるメロディーが心地良い。ポップ感覚もありインストミュージックとしては完成度が高い。

 5曲目『ピーナッツ』はTV番組とかのBGMに良く使われている曲だと思う。これもメキシコ色強いマーチングソング的な趣のある曲だ。ホーン・セクションが短いながらもソロを取る箇所も。

 アルバム最後の曲『ロリポップス・アンド・ローゼス』はボサノバ・ジャズ系のスタンダート・ナンバーだと思う。意外とタイトなリズムを刻んでゆくリズム・セクションが結構イカす、明朗サウンド。

 

 所謂「イージー・リスニング」と呼ばれる類の音楽には全くといっていい程興味がなく、このアルバムもこれまで殆ど聴き流していた状態だったのだが、オードリーをきっかけに(笑)今回じっくり集中して聴いてみると、意外に面白いというか、アレンジには「プロ」を感じさせる仕事ぶり。

 このアルバム以前はメキシコテイストの音楽ばかり演奏していたというティファナ・ブラスだが、本アルバムではジャズなどのスタンダートナンバーに挑戦しており、その分余計に受け入れ易さがあった…という事ではないか。

 60年代中期のハーブ・アルバート&ティファナ・ブラスの人気は凄かった様で、1966年2月のビルボードアルバムチャートでは、ベストテンに本アルバムを含め4作のアルバムがチャート・イン。ビートルズが全米的な人気を得て、ロックが音楽界を席巻していく前夜に花開いた音楽であったのだ。