今年のプロレス界は1月から激震の連続。思えば『新日本プロレス』1月4日のドーム大会。入場者数27422人と聞いて「少なくない?」と実は思っていた。新型コロナウイルス禍から脱し声出し応援などの規制がほぼ全面解除されたのにこの動員数は…。それもあって今年の新日に漠然とした危惧を感じていたのだが、それが現実の物に。鉄壁の新日のエース、オカダ・カズチカの新日退団である。

 オカダが新日を退団し海外に戦場を移すのではとの噂は去年ぐらいから流れていた。実際オカダは他のレスラーにパクられない様に必殺技の名称『レインメーカー』の商標登録を済ませていたというから、新日退団~海外転戦の意志は随分前に固まっていたと思われる。新日は棚橋弘至を新社長に据えて選手契約更新の話合いで翻意を迫ったが、オカダの意志は変らなかったという事だろう。

 オカダの新日のリングでやれる事は全てやって興行の成功にも貢献した、今後は海外でチャレンジしてみたいという希望は、一流レスラーとしては当然の欲で何の邪心もない。ただ新日(株式会社ブシロード)としては、棚橋という必殺技まで出しておきながら岡田の退団を止められなかったのはあまりにも痛い。

 これで新日は飯伏幸太、オカダ・カズチカと2年続けてトップレスラーを失った事になる。外人レスラーの事実上のトップだったウィル・オスプレイも退団し、新日は日本人と外人のエース候補レスラーを急遽作り出さなければならなくなった。今の所日本人レスラーは内藤哲也とSANADA、外人はデビッド・フィンレー、オカダと同じく日本のリングでブライアン・ダニエルソンを撃破したザック・セイバー・Jr。この4人が新日事実上トップグループだが、やはり物足らなさは否めない。だからといって急いで救世主みたいなレスラーを売り出しても、ファンが簡単に納得するだろうか?

 2月になると更にプロレス界に激震が走った。女子プロレス最大の団体『スターダム』生みの親でエグゼクティブプロデューサーを務めていたロッシー小川が、新団体設立の選手&スタッフの引き抜き行為があったとして2月5日付けでスターダムを解雇された。

 俺は去年11月28日のブログで「現在のロッシー小川の役職は一種の名誉職ぽい。既に事実上試合運営からは身を引いているみたいだ」と書いたが、それは当たっていた様だ。解雇されなくてもロッシー小川は今年度でスターダムを辞める積りだった。新団体設立も退団後に予定していた事であったが、スターダムの杜撰な運営問題が生じ、嫌気がさしていた一部のレスラーが、小川さんが退団するなら私も選手契約を更新せず新団体に合流すると言っているとの情報をフロントが聞きつけ、ロッシー小川解雇に至った…という流れだと思う。引き抜きか、それとも選手たちの方から何とかしてくれと言われて、ロッシー小川は相談受けただけなのかは、外部の人間には判らない。

 ただ所属選手が30人以上と大量に増え、かつ去年の様に運営サイドの不手際が伝えられる問題が起きた場合、何れ退団者が出るのは必至だったとは言える。少なくてもロッシー小川は、新日と同じくブシロードから出向してきたスタッフよりも選手の信頼を得ていた事は確かだ。

 事件が露わになって以降の選手の反応は様々だが、今SNSなどで積極的に発言している人は殆どスターダム残留組だろう。トップレスラーの一人、ジュリアは至ってクールな反応だが、これは元々スターダムとの選手契約を更新せず『WWE』に転出する事が決まっているからだと言われている。

 微妙な立場に追い込まれているのは、スターダム発足以来の在籍レスラーで、スターダムのアイコンと言われている岩谷麻優。彼女にとってロッシー小川は自分を引きこもり生活から救い出してくれた恩人。「今の生活続けるぐらいなら、東京でヤバい事に巻き込まれてワンチャン殺されてもいい」と上京しプロレスラーになった彼女の本心は多分「新団体に合流」なのだが、彼女を主人公のモデルにした映画の公開が5月に予定されている為、まだスターダムを辞める訳にはいかない(強行して辞めたら裁判沙汰になるだろう)。その苦悩に耐えきれずSNSで錯乱したメッセージを発信…って、スターダムのアイコンとか言われても、心はレスラーデビュー前の割れ易いガラスのままだな。こんなんで今後大丈夫か?

 それにしても今の日本のプロレス界をリードしてきたブシロード傘下の二団体が、揃って激震に見舞われるとは、去年の今頃は考えられなかった事だ。

 こちらは去年辺りからヤバいと言われている『全日本プロレス』に更なるトラブルが。三冠王者に輝いた中嶋勝彦(フリー)が「闘魂スタイル」と自称して防衛戦後に「1、2、3、ダァー」をやった事に、猪木関連肖像権を管理する「猪木元気工場(IGF)」が、「闘魂スタイル」を名乗る事と「ダァー」の使用禁止を中嶋側に通告。「ダァー」に関しては中嶋が謝罪し今後使わないと約束したが「闘魂スタイル」に関してははっきりとは撤回の意志を示しておらず、IGFは全日本サイドが「闘魂」ではなく「闘魂スタイル」の商標出願をしているのを、直ぐに取り下げる事を要求。IGF側の怒りは相当な物で「こんな事をジャイアント馬場さんが天国でどう見てるのか」とまで言っている。

 どうやらこの一件は中嶋の意志というより、その後見人的な動きを見せている新間寿の意向が強そうだ。新間は初代タイガー・マスクこと佐山聡が主宰する『ストロングスタイルプロレス』の会長であり、再度「過激な仕掛人」として中嶋の三冠ベルトを使い、プロレス業界に波乱を巻き起こそうと企んでいるのだろう。

 それにしても1967年の『東京プロレス』崩壊に纏わる告訴合戦以来、合体と決裂を繰り返してきた新間と猪木サイドのくされ縁が、猪木亡き後にも繰り広げられているのには呆れるというかしつこいというか…。ただ今頃になって新間を担ぎ出すのは全日窮余の一策という感アリアリで、この件についてはIGFの主張の方が理に適っている…と俺は考える。

 

 オカダ・カズチカの移籍先、ロッシー小川の新団体の詳細については4月になれば明らかになるのではないか。新日としてはオカダが友好関係にある『AEW』所属になれば今後もビッグマッチに招へいできるので御の字なんだろうが、俺個人としてはこれまで無縁だったWWEで闘うオカダを見たい。WWEの大一番『レッスルマニア2024』が4月6日&7日に開催されるので、WWEに移籍するとしたらその前後に何らかの発表があるはずだ。

 ロッシー小川の新団体には危惧感を覚える。確かに彼は選手間には信用があるけど、これまで設立した団体や関わった団体を潰しており、経営者としての実績は低い。スターダムにおいてもブシロード傘下になる前に『全日本女子プロレス』全盛期の「仲の悪い者同士を闘わせれば盛り上がる」を時代錯誤的に盲信したマッチメイクをして、大トラブルに発展した事もある。彼にちゃんと物を言えるパートナー的な人の協力がなければ、また団体は潰れるのでは…と勘ぐってしまうのは、俺だけではないはず。