久子(谷ナオミ)は母(冨士ひろ子)と小料理屋を経営しつつ、今は行方不明の父の教えを受け自ら包丁を奮、料理の腕前から「色包丁」との異名を得ていた。一方で父から性暴力を加えられた事で男嫌いになり、女学校時代の同級生でクラブホステスのカズエとのレズ行為にのめり込んでいる。助平な客からの誘いも要領よくかわしていた久子だが、ある日偶然カズエの男との浮気を目撃してショックを受ける。以来久子得意の包丁捌きも冴えが無くなってしまい…。

 

 74年に団鬼六原作『花と蛇』のヒロインに抜擢され、以降も主にSM作品で活躍するロマンポルノ女優として花開いた谷ナオミ。尤も女優デビューは67年で日活以前はピンク映画界で活躍しており、ロマンポルノに出演する様になっても時間があればピンク映画にも主演する、ピンク映画に世話になった恩を忘れない義理堅い人であった。本作は73年に主演した新東宝製作のピンク映画。女ながらも板前として働くヒロインが運命の男と出会って…という悲恋ラブストーリー。監督の「姿良三」は大蔵映画専属みたいな形で活躍していた小川欣也(小川卓寛、小川和久名でも監督)の変名らしい。年増女優の冨士ひろこ(藤ひろ子)、山本昌平らの共演。

 

 ある夜常連客が精悍な男・信吉(山本昌平)を伴って店に現れる。信吉は久子が出した造りに一切手を付けずに帰ってしまい、久子は料理人としてのプライドを傷つけられる。旅行代理店を経営している件の常連が久子母娘に温泉ホテル旅行をプレゼント。ホテルでは母といい仲の中年男、浮気男と結婚して新婚旅行中のカズエと会う。昔の事は水に流してカズエ夫婦たちと食事する久子だが、出された造りの盛り方が自分流儀と酷似していた事に久子は驚き、板前の名を確認するとやはり信吉だった。夜信吉の部屋を訪ねる久子。信吉はあの時のあんたの包丁捌きには邪念が入っていたと言い放ち、改めて久子に包丁を握ってみろと言う…。

 

 ピンク映画なので濡れ場は盛りだくさん(俺が観たのはR‐15版なので大幅にカットされていたが)。谷ナオミの顔はどうしようもなく水っぽく、正直観る側を選ぶと思う。でも張りのある体は素晴らしく、特にお椀型の巨乳は美しくかつエロい。濡れ場を除くと根性物ドラマとよろめきドラマを足した様なストーリーになっており、ロマンポルノではNGだった近親相姦的な「禁断の愛」がテーマとなっている。小川欣也の監督作品はもう何本も観てきたが、本作は丁重に演出しているという意味では、これまで観てきた小川作品の中では上出来な部分に入るとは思う。でもそういう生真面目さを突き抜ける様なパッションを感じられないのが、映画として致命的。

 

作品評価★★

(山本昌平はピンク映画界を離れた後東映作品、TVの刑事ドラマや時代劇の悪役として活躍。谷ナオミとは彼女の引退作『縄と肌』で再共演。映画的には×だがこの頃のピンク映画界には経済的余裕があったらしく、俺がピンク映画に傾倒してた頃の困窮状況とはかなり違う)

 

付録コラム~明石家さんまにあって、上田晋也にない物、或いはその逆

 

「お笑いBIG3」なんて持ち上げられていた時代は遠い昔、タモリもビートたけしもタレント仕事を絞ってしまった中、明石家さんまだけはまだTVのゴールデンタイム奮闘中…と言いたい所だが、彼もそろそろメインストリートから退場の時期が近づいてきている様だ。彼がMCを務める番組は軒並み低視聴率に喘ぎ、いつ番組が終了してもおかしくない状況だとか。

 そのさんまの代わりのMCに、ここ十年ぐらいで浮上してきたのは『くりーむしちゅー』の上田晋也。『踊る!さんま御殿』と同じく自身の名前が入った番組『上田が女と吠える夜』って、かつてさんまMCでやっていた『恋のから騒ぎ』とコンセプトは酷似。イケメン系の男性ゲストを呼ぶトコとか、さんま好みの女子大生からタレントに代えた出演者のアンケートエピソードに上田が突っ込み弄るパターンなど、全てが『恋のから騒ぎ』を躊躇している。制作担当者も多分同じだと思う。つまりMCがさんまから上田に代替わりしただけ。

 さんまにとってはちょっと屈辱的な話だし、その『上田と女が吠える夜』の好視聴率のお蔭で、裏のさんまの番組『ホンマでっか!?TV』が存続の危機に瀕していると聞けば、尚更だ。

 何故さんまが視聴者から敬遠され始め上田が歓迎されるのか? その理由はさんまにあって上田に無い物、そして上田にあってさんまに無い物を考えれば見えてくる。

 さんまにあって上田に無い物と言えばズバリ「性欲」。女性出演者に向ける視線には、常に「やりたい」的な物を感じ得ずにいられない。年齢的な問題はあるけれど、実際今は独身なんだから出演するZ世代の小娘や、アシスタントの女子アナとやったとしても、基本的には問題ではないのだが、それをいい事にさんまはTV収録にかこつけて好みの女性を心ゆくまで「視姦」している感じ。まあ時代が平成だったらそれで笑って済ませられるレベルだったかもしれないが、まず初めにコンプライアンスありきな令和時代になると、不適切な「スケベなオヤジ」風に視聴者に映ってもおかしくない。

 対照的に上田は性欲どころか、そもそも出演者自体に全く興味を抱いていなさそうに映る。たださんまが持ち合わせていないスピード感はある。上田独自の得意技「一瞬で突っ込んでコメント処理」はもはや条件反射的な物でしかないのだが、その迅速な対応は2時間弱の映画を5倍速でないと観れなくなっているZ世代辺りにはフィットするズピード感かも。最早さんまや笑福亭鶴瓶みたいな、関西出身タレントならではの、出演者へのしつこい弄りや絡みは確実に時代遅れになりつつある。

 テレビ番組を「創造物」ではなく「消費品」と捉えるとしたら、これから番組MCを担当するタレントには上田程ではないにしても、それなりのスピード感が要求されるはず。それが出来るか否かでタレントは仕分けされていく。そんな時代の流れに抗せられず、視聴率不振で冠番組があらまし終了したとしたら、さんまはどの方向に向かっていくのだろうか。それはそれで興味深いが…。