女子高生のちかこ(安藤希)は17歳になった記念に、背中に天使のタトゥーの刺青を入れた。大きな洋館に住む三人の男(田口トモロヲ 村上淳 大杉漣)はそんなちかこを「華子」と名付け一年間の愛人契約を結ぶ。三人は全員無精子症で「A」「B」「C」と名乗る。理知的だがサディスティックな言動が目立つA。愛人契約を結んだのに実際は華子を全く抱く事がないB。三人の中で一番年上だが性欲は一番あるC。各々のスタイルで華子との愛人生活を愉しんでいる様だ…。

 

 82年にピンク映画で監督デビュー以来80本近い監督作品がある廣木隆一。今でこそ若手俳優を起用した王道的な青春物を撮ったりしているが、ゼロ年代は『ヴァイブレータ』(03)など単館上映向けの小規模な作品を多く撮っていた感がある。本作もその一つ。女流漫画家・やまだないとの同名漫画を映画化した物で、脚本を廣木の助監督出身の監督で、近年はアートぽい作品を撮っている七里圭が執筆。テレビ東京朝の番組『おはスタ』のおはガールからモデルを経て女優になった安藤希が主演、廣木作品の常連である田口、村上、大杉が謎めいた男を演じる。他に前田綾花、GSバンド『ザ・テンプターズ』のドラマーだった大口広司などの出演。

 

 たまには4人で外出し華子に和服を着させて花火見物と洒落込んだりする男達。ちかこは学内では常に一人で行動していた。Cは突然何者かに襲われて腹を刺される。Cが入院した病室は「D」に当る男が居た病室でもあった。ちかこに接近してくる同級生の涼子。日頃から親しい訳ではないし不思議がるちかこだが、誘われるまま一緒に映画を観に行く。当日涼子は弟の行人も連れてきた。微妙な居心地悪さに耐えきれずトイレに行ったちかこは、そこで見知らぬ男に凌辱されてしまった。心配になって見に来た行人。運悪く妊娠してしまったちかこは電話で行人を呼び出し洋館に連れて行く。Aによる「華子」の羞恥プレイを見せられた行人は…。

 

 シュールというか思わせぶりというか、そんなトーンに被われた作品。3人の男はどうやら映画関係の仕事をしているらしく、その師匠に当る男(故人)が病室から見える高校のベランダに佇むちかこに欲望を抱いていたのを代行し、ちかこを愛人に仕立てたらしい。男同士で戯れている光景は時として微笑ましくは映るのだが、そういう描写と期間限定の愛人になる女子高生の心情が、本作を観る限りでは全く繋がっておらず(原作を読んだ人には判るかもしれないが)、多くの観客は首を捻りたくなる設定。ちかこは何の理由があってタトゥーを入れたのか? 人前じゃ着替えも出来ないから体育の時間は見学ばっかり、単位取れずに留年しちゃうけど。

 

作品評価★★

(行人の姓が「柄谷」だったりとか、何だか作り手だけが陰で愉しんでいて、観てる人を置き去りにされてしまってる感が強く、廣木シンパの俺も困ってしまう失敗作。エンディングで五輪真弓初期の名曲『少女』のカバーヴァージョンを流す音楽的なセンスはいいとは思うけどね…)

 

付録コラム~誤報だった?園子温のセクハラ疑惑

 

 大物お笑いタレントやサッカー日本代表の性加害疑惑が報道される中、去年末にとある性加害疑惑に纏わる報道に対しての民事訴訟の判決が下され、原告側と被告側の和解が成立した。

 原告は映画監督の園子温。被告は園の性加害行為を大々的に報道した『週刊女性』。週刊女性のインターネット版に載せた記事を園側が事実無根として、発行元の『主婦と生活社』を相手取り、2022年5月18日に損害賠償や謝罪広告、ネット上の記事の削除を求める訴訟を東京地方裁判所に起こしたそれから約一年半後の2023年12月27日。問題の記事を週刊女性側が削除する事で和解に至ったという。損害賠償や謝罪広告の掲載はどうなったかは、正式な発表がない所からすると、記事の削除のみで手打ちとなったぽい。

 他の性加害報道に対しての影響はあるかどうかは判らないけど、この件に関しては週刊女性が掲載した一連のセクハラ報道は「ガセネタ」だった事を公式に認めた事になる。これは無視できない。週刊女性が焚きつけた形で園に関する溢れんばかりの性加害報道が他のメディアでも乱れ飛び、多くの証言者も登場。ならばそれらの発言は何だったのか。園側が黙殺の形を取っている以上それが事実か嘘であるかは闇の中だ。

 ただその証言者の中には故人となった人もいるというから、現在論議の対象にされている某TVドラマに関するトラブルと同じで、極めて後味が悪い疑惑騒動になってしまった。つまり裁判程度では園の「潔白」が証明されたとは言い難い。このままでは園が映画監督として復帰する日はあるのだろうか…と、一応若い頃園と接触があった身としては気にもなる。

 セクハラ騒動の後、園がとある作品に仮名で脚本を執筆した事が判り大バッシングに発展。今園のスポークスマンとなっている妻(女優でもある)が苦しい言い訳をしていた事を思い出す。セクハラ疑惑のある映画監督の場合は判決で「白」と出ても、疑惑が晴れない内は謹慎を続けるべきなのか? そんなんならセクハラするより初犯で大麻喫って逮捕され、執行猶予期間が済んで完全復帰…となった方が、よっぽどマシな気もするが。

 まあ園自身が新作を撮りたいと願っても、それに賛同し協力してくれるスタッフがいなければ無理である。かつて園を大バックアップしていた『映画秘宝』も休刊して久しいし(今年復刊するとの噂)、映画界にも園子温の味方は誰もいなくなっちまった? これも「身から出た錆」って事なのかしらん。