3年前。「嘘喰い」の異名を取るギャンブラーの斑目貘(横浜流星)は、戦国時代からの歴史を誇るギャンブル組織「賭郎」21代目の「お屋形様」切間創一と命を賭けた勝負で挑んだが、裏の裏をかかれて敗け本来殺される所を、創一の気まぐれによって助命され、賭郎会員をはく奪され小島に流されるだけで済んだ。だが藐は島で賭郎会員を次々と倒し屋形越えを狙っている佐田国(本郷奏多)の噂を聞き、再度屋形越えを適えるべく復活を志し島を出て横浜へと…。

 

 06~18年まで『週刊ヤングジャンプ』に連載された迫稔雄の同名漫画を、日活ロマンポルノの助監督経験者で、一世風靡したジャパニーズ・ホラーの元祖『リング』(98)を撮った中田秀夫が監督。映画化が発表されたのは16年だったそうだが、それから6年もの月日を要した? 天才的ギャンブラーの主人公が、突き落とされても怯まず巨大裏組織に立ち向かっていく姿を描くサスペンス作品。ウザ系タレント・村重杏奈が「好き好き!」とアピールしているイケメン俳優・横浜流星が主演。横浜と同じ事務所所属の佐野勇斗、本郷奏多が共演してイケメントリオ揃い踏みに。他に白石麻衣、三浦翔平らの共演。『ワーナー・ブラザーズ映画』が配給した。

 

 借金苦に苦しめられている梶(佐野勇斗)は偶然藐と出会い、獏に伴われ梶は賭郎の会員で暴力団組長の鞍馬蘭子が経営する裏カジノに出向き、ルーレットのイカサマを見破って500万を稼ぐ。更なる蘭子とのガチンコ勝負にも買った藐は、その金を梶にくれてやる。裏ギャンブルの実態を見せつけられた梶は一旦藐から離れるが、充実感のない生活に無い魅力を感じ再び藐と行動を共にする事に。翌日裏カジノに佐田国が現れ蘭子との勝負に勝ち大金を奪う。その時藐とも運命の出会いが。藐は大金を取り戻してやる約束で蘭子の会員証を譲ってくらないかと持ち掛けたが、蘭子は断り代わりに会員証を持っている謎の老人を紹介する…。

 

 一見して誰もが思いそうなのが藤原竜也主演『カイジ』との共通性。巨大組織に立ち向かう孤高のギャンブラーという主人公の設定が酷似しているが『カイジ』は香川照之の顔芸的な怪演に助けられている部分があった。本作の「例えイカサマであっても見破られなかったらOK」というルールはカイジにはないので新味はあるが、出演者的には香川みたいなアクの強い役者を欠く分引きが弱い部分は否めない。佐田国との勝負のゲームが「ババ抜き」なのは「嘘喰い」ではなく観る人を喰った設定で面白いと言えば面白いけど、獏が何者なのかとか、何故屋形越えに執念を燃やすとかは本作を観ても全く不明。原作を読んでなくちゃ意味がない作品。

 

作品評価★★

(本作の結末は続編として配信されるネットドラマを観てくれとの事。つまりネット誘導を目的とした作品だったのだ。これも時代の趨勢だからいちいち怒ったりはしないけど、知らないで観た俺は無駄に時間を浪費しただけの虚しさだけが残る。白石麻衣に悪女ぽい役はまだ無理)

 

付録コラム~埋もれた黒沢清の傑作『復讐 The Revenge 運命の訪問者』(97)

 今でこそ黒沢清は海外にも名の知れた日本の代表的監督として評価高いが、彼独自の個性は80年代までは日本映画のメジャー系には全く認められていなかった。突飛な内容に会社側が作品納品を拒否したり、撮影現場でキャメラマンから「アンタはいったい何をやりたいのか」と撮影を中断し問答を仕掛けられた事もあったという。

 結果黒沢清の90年代は主にVシネ界を活動の場とする事になり、やはりメジャー系ではなくVシネ界で「帝王」として活躍していた哀川翔主演Vシネを12本撮った。但し何れも劇場公開されているから、これらは「映画」でもある。当時まだ景気が良かったVシネ界では、レンタルビデオ店販売向けの宣伝として短期間映画館で上映し「劇場公開作品」の箔漬けする事が、普通に行われていたのだ。

『復讐 The Revenge 運命の訪問者』もウィキでは「オリジナルビデオ」となってるが劇場公開されている。主人公(哀川)は小学生の時両親と姉を、家に土足で入ってきた二人組(実は兄弟)に殺される悲劇に遭遇した。主人公は母に言われ押し入れに隠れている所を兄の方に発見されたが、兄は殺すのを躊躇して弟に言わず主人公は九死に一生を得た。20数年後。主人公は刑事になっており、覚せい剤取締法違反で逮捕しようとして自殺した指紋のない男の遺体を引き取りに来た保護司を一目見てあの時の男と気付き、男も同様に気付いた。以降主人公は男の背後に犯罪の匂いを嗅ぎ男の事務所兼自宅を度々訪れる。ただこの頃は殺人事件に時効があり、20年以上前の事件は不問だ。それに対する不満が主人公の裡に募ってゆく…。

 作品全体に不穏感が募っており『クリーピー 偽りの隣人』(16)との共通項を感じる。ストーリーが進む毎に陰惨さを増してゆく。裏稼業で殺し請負業をやっていた兄弟。それを嗅ぎつけた主人公の口を塞ぐ為に主人公の妻が拉致されて殺され、怒りが沸点を越えた主人公は警察を退職し復讐に邁進していくのだ。

 殺伐とした復讐シーンがゾッとする様な感触で撮られている。主人公は辺鄙な田舎に身を隠した兄弟を追い詰める。兄は、かつてとは逆に押し入れに身を隠しているのを主人公が発見して射殺、異常性格の弟は海辺まで追い詰め差し向かいで対決、一瞬主人公の方の銃が早く弟は斃れ主人公は生き残るが、復讐を晴らした事へのカタルシスは全く感じられず、主人公が茨の道を今後歩む事を暗示し映画は終わる。甘さも松田優作作品の様なヒーロー性も無い、日本ハードボイルド映画史に残る傑作だ。

 出演者の顔ぶれは、今はトップ脇役になった小日向文世(主人公の同僚刑事)、タレント稼業と全く違う顔の暴力団組長役・鈴木ヒロミツ、既に黒沢作品のレギュラーになっていた大杉漣などだが、何と言っても狂った兄弟を演じた清水大敬(『いじめて、ください。アリエッタ』の卑劣男に次ぐ快演)、六平直政の演技が秀逸。今ではTVのバラエティ番組にも出演し愛されキャラになっている六平だが、この作品を見たらお茶の間で好感を持った人たちも引いてしまうだろうな…。

 今は「ヤクザとエロ」オンリーになってしまったVシネにも、こういう作品を生み出す土壌もあったのだ。