声出し応援も全面解禁になっている2024年の日本のプロレス界だが、早くも暗雲が立ち込めている。『NOAH』1・2有明コロシアム戦では鉄板と思われた丸藤対飯伏戦がまさかの凡戦評価。『全日本プロレス』は実績あるベテラン選手たちが退団した事が明らかになり、「全日活動停止」がリアルな物になってきた。今後の展開も予断を許さない所がありますな。

 そんなプロレス界の暗い話題を吹き飛ばすべく開催された恒例の『新日本プロレス』1月4日『WRESTLE KINGDOM 18 in 東京ドーム』を今年もTV鑑賞。バトルロイヤルの第0試合を省くと全10試合。『スターダム』の提供試合もなくスリム化された印象で、結果的にタイチ、グレート・オーカーンといった実績ある選手も本戦からオミットされてしまった。新日内でのサバイバルもキビシー~(故・財津一郎風に発音)。そんな訳で一部省略しながらも、観戦記風に思った事を徒然なるまま書いていきたいと思う。

 

 第2試合・NWJP WORLD認定TV選手権

 このタイトルの事は今回まで知らなかった。ビッグマッチになるとやはり何等かの冠が必要なのは分かるけど、シングルベルトが団体内で多過ぎないか? その差別化もあまりされてないみたいだし、せいぜい3つで十分だと思うけど…。15分1本勝負で新日の新社長に就任した棚橋弘至がザック・セイバー・Jrを下しタイトル奪取したが、試合をコントロールしていたのはザックの方で社長就任のご祝儀に勝ちを譲ってあげた感強し。技巧派ザックの異能ぶりはプロレス界全体を見回しても際立っており、もう少し上の方で試合させても面白いのでは…と思う。棚橋はベルト奪取を足掛かりに、依然トップ戦線への拘りが強いみたいだが…。

 

第4試合スペシャル・タッグマッチ

 新日とNOAH両団体を股にかけ展開されている、ヒール集団『ハウス・オブ・トーチャー(H・O・T』とNOAH所属の清宮海斗との因縁の抗争が、H・O・T入りした成田蓮に裏切られた海野翔太を巻き込んでEVILE&成田対清宮&海野戦へと発展。入場時大型バイクに乗って登場した海野はカッコ良かったが、試合はH・O・T構成員全員を乱入させるいつものやり方で進み、成田が海野をフォールして決着。結果的には今後予定される成田対海野戦の前哨戦みたいな印象を覚えた。NOAHの清宮にとっては引き立て役にされたみたいで、美味しい試合とは言えなかったな。H・O・Tの勢いは所属ユニットの『バレット・クラブ』を完全に凌駕している。

 

第5試合・NEVER無差別級選手権試合

 本来はジュニアヘビー級体格のチャンピオン・鷹木信悟と、ヘビー級体格の挑戦者タマ・トンガの一戦は両者共相手を知り尽くしている事もあり、一応の熱戦にはなった。どんなに相手が大型でも対格差を感じさせない鷹木の明朗なパワーファイトは光っており、観客とのコール&レスポンスも定着している感があるが、今回はタマ・トンガの力技に一歩及ばなかった…という所か。両者とも現在はベビー・フェイス的な立ち位置で闘っており、妙な因縁抜きで闘うファイトもたまには悪くないかな…とは思った。ただタマ・トンガは今月末で新日との契約を打ち切り米国マットへ転戦するというから、タイトル奪取の意味は何だったのか…と問うてみたくなる。

 

第6試合・IWGPタッグ&STORONG無差別タッグ選手権

『STRONNG 無差別タッグ』というのも初耳。こういうお手盛りぽいベルト作ってどうするの?と思ってしまうな…。試合もはっきり言って凡戦。挑戦者組のフィニィッシュ技はタイミングがチグハグでスッキリしなかったし、あっさりフォールを許した、かつてはトップランカーだった後藤洋央紀の精彩の無さが目についた、どっか体の具合でも悪いんではないやろか? Wタッグ王者になったヒクレオ&エル・ファンタズモ組だが、これを機会にヘビー級タッグは一本化した方がいい。後藤の高校時代の同級生かつ盟友だった柴田勝頼が、去年末で新日を退団していた事が発表されたが、後藤はそれにショックを受けて精彩がなかったのかな?

 

第7試合・IWGPジュニアヘビー級選手権

 これも第5試合と同じくお互い手が合ってると思った試合。スイングした理由は、新日ジュニア部門のエースである高橋ヒロムの後塵を拝してきたエル・デスペラードのレスラースキルが、ここ数年でヒロムに追いついてきた事が上げられる。長らく「鈴木軍」に所属していた為に俺は外様レスラーと勘違いしていたが、実は新日生え抜きのレスラーであったと。体格も以前に比べるとガッシリしてきて風格みたいな物も感じられる。実は2年前も同じく東京ドームでエル・デスぺラードに敗北を喫していた高橋ヒロムだが、ジュニア戦線においては一昔前の獣神ライガー的な立ち位置にありそんなにダメージは無く、何れチャンピオンに返り咲くであろう。

 

第8試合・IWGP GROBALヘビー級選手権初代王座決定戦3WAYマッチ

 以前は『IWGP USヘビー級』だったチャンピオンベルトが改称され今回初代王座を争う事に。会場で観ていたらどうだったかは分からないけど、結果的にはこの試合がベストマッチであった。トリッキー技のエキスパート(ウィル・オスプレイ)、喧嘩屋(ジョン・モクスリ―)、卑劣なヒール(デヴィッド・フィンレー)と三者三様で個性が明確なのが良かったし、各々いい味を出していたと思う。子分を乱入させて撹乱しまんまと王座を掴んだフィンレーは、格的には他の2人にやや劣るけどきっちり仕事はした。観戦に訪れていた(というアングルの)元『WWE』のドルフ・ジグラー(本名は別)との防衛戦も決まり、今後外人レスラー専門のベルトになっていく?

 

第9試合・スペシャルシングルマッチ

 この試合に関しては、オカダ・カズチカが米国での敗戦の雪辱を果たすのは初めから判っていた。そのシナリオをどう試合で表現するのかにかかっていたのだが…。結果的には予告通りブライアン・ダニエルソンがオカダの右腕に集中攻撃、悶絶するオカダ…という光景が長い間続き、令和の時代に昭和テイストの試合が復活する?という展開に。ダニエルソンは体調が万全でない事もあってか寝技と関節技に集中、立体的なファイトを禁じられたオカダとの攻防戦は俺みたいな昭和世代の人間にはソコソコ面白かったが…。ただ闘い終わってノーサイドというのは、この試合に至るまでの因縁を考えると、ちょっと蛇足ぽくは感じた。

 

第10試合・IWGP世界ヘビー級選手権

 

 メイン・エベントにふさわしい試合だったかどうかは別にして、敢えて苦言を呈するとしたら、SANADAの試合運びは正攻法過ぎ。緩急を付けたファイトで技を受けつつ攻勢に出る内藤哲也との大舞台での経験値の差はかなり大きいと感じた。SANADAはこういうファイトをしてれば観客の支持を失う事はないだろうが、新日のトップに定着する事は難しい。いっそ「H・O・T」入りして冷血マシーン的なファイトをした方が、新日を盛り上げるという意味では面白いと思うけどね。余裕の勝利(と俺には見えた)を飾った内藤の初防衛戦は、SANADAとのリターン・マッチというのは肩透かし。棚橋とやってトップ戦線からの撤退を早めさせるべきだった。

 観客動員数27422人というのは、新型コロナウイルス禍直前の2020年の7万人強(但し1月4日と5日の二日間開催だった)の半分以下だが、ここ数年の厳しい状況から考えると健闘した部類になるのかも。翌5日の墨田区総合体育館興行後の新日は、米国遠征試合を除き2週間のOFF期間に。その間に今年度の選手契約が交わされる訳だが、タマ・トンガ以外の退団者はいるや否や。