千葉県香取市。市役所総務課勤務の池本(中井貴一)は観光事業振興策を尋ねられて、思いつきで地元の英雄・伊能忠敬主役のNHK大河ドラマ誘致案を出すと、意外にも千葉県知事のお墨付きをもらい採用される。脚本家に指定された加藤(橋爪功)に会いに行くがケンもホロロ。加藤は20年前本意ではない脚本を書いて以来仕事をしていない。池本に拝み倒され根負けして了承するが、加藤が調査すると忠敬作と言われる日本地図を忠敬は作ってない事が判明…。

 

 落語家・立川志の輔の新作落語を中井貴一が企画して映画化した作品。歴史上初めて日本の地図を作った人と言われている、伊能忠敬主演の大河ドラマ実現に奔走する人たちが空想したドラマ…という設定で「映画内時代劇」が展開される。個人的には時代劇の佳作『花のあと』(10)以来観る機会がなかった中西健二監督作品。主演の中井に加えて『花のあと』でヒロインを務めた北川景子、橋爪功、松山ケンイチ、平田満、岸井ゆきの、西村まさ彦、草刈正雄らの出演で、原作者の志の輔も出演。町起こし映画にしてはくキャステイングが豪華だな(主題歌担当が玉置浩二なのも意外)と思っていたら、松竹配給だとか。ヒットしたのかな?

 日本地図を完成させる事無く伊能忠敬は病死。直ぐに駆け付けた、亡き父が忠敬の親友だった幕府天文方・高橋景保(中井)に、測量士の綿貫善右衛門たちは忠敬の遺志を継いで日本地図を完成させたいので、忠敬の死は3年伏せておいてほしいと頼む。予算がかさむ日本地図制作は忠敬が死んだと判ると中止になる可能性が高いのだ。忠敬の前妻エイ(北川景子)の策略で父が忠敬から大金を借りていたと偽られ、景保も一肌脱ぐ事に。以降忠敬は一切人前に出る事がなくとも生きてる事にされ、景保はそのアリバイ工作に奔走。だが幕府方の勘定奉行は忠敬が死んでいるのではと睨み、密偵に忠敬が死んだ証拠を掴めと命じるが…。

 

 現代編に登場する俳優がそのまんま時代劇篇で二役を務めている。3年もの間忠敬の死を隠さんとする景保らのドタバタぶりや、大家の脚本家に扮する橋爪功の難物ぶりはクスクス笑いを誘う。その一方で伊能忠敬の遺志を継いでどんな事をしても日本地図を完成させようとする、歴史上では名を遺す事は無い人々の無償の尽力が描かれていく。時代劇編は脚本家が構想するストーリーに添った展開になっており、同時に作り手の映画論、物語論に重なる部分もある。中井、橋爪、平田といったベテランの面々は手堅い演技。『花のあと』の可憐で気丈な娘から「いい女」に変った北川景子も華がある。松山ケンイチはやや手持無沙汰な感じだが。

 

作品評価★★★

(ヒューマン系作品だがそれを誇張せずさりげない感じで纏めた演出は割と好き。そんな作風に比べてエンディングの玉置浩二の歌が濃厚過ぎで、明らかに作品に合っていないのは残念であった。伊能忠敬は未だ大河ドラマの主役になってないが、映画の主役にはもうなってる)

 

映画四方山話その997~日刊スポーツ映画大賞

 2023年も押し迫り『日刊スポーツ映画大賞』の発表があった…と言われても、超文化過疎地在住の俺は今年封切の作品は2本(『妖怪の孫』『ベイビーわるきゅーれ2』)しか観ていない体たらく。はっきりと確認はしていないけど、俺が観たくなる作品はこのど田舎では一本も上映されなかったと思う。だから本来はこの手の話題に対して何も言える資格もないのだが、他に話題にするネタがないので…。あいすません。

 以前知人から〇〇映画賞の結果は『キネマ旬報ベスト・テン』に直結する…と聞いた事があるけど、どの賞の事だったか残念ながら記憶がない。調べてみると日刊スポーツ映画大賞は1988年設立だから、映画賞としてはそんなに伝統のある賞ではない。過去作品賞受賞作を見てみると90年代まではメジャー系の作品が多く受賞していたが、近年は確かにキネ旬受けが良さそうな作品の受賞が続いている(去年の受賞作は『ハケンアニメ!』)。

「有識者」の中から選ばれたという審査員の中には映画好きで知られる笠井信輔元CXアナウンサー、ベテラン映画評論家の寺脇研などに加えて社民党党首・福島瑞穂参議院議員が入っていたのには驚き。彼女が映画好きだったなんて、初めて知った。

 結論から言うと今年の作品賞は石井裕也の『月』。もう一つの今年度公開作品『愛にイナヅマ』も主演女優賞(松岡茉優)をゲットしており、石井監督の活躍は群を抜いていた…という事になる。主演男優賞の鈴木亮平は同性愛をテーマにした『エゴイスト』に出演。この三本の作品の内のどれかがキネマ旬報ベスト・テンの第1位に輝くのであろうか? よう知らんけど。

 ただ助演男優賞に輝いた磯村勇斗は間違いなくキネマ旬報ベスト・テンでも同賞に輝くと予想(ちなみに彼は先経って発表された『報知映画賞』でも同賞を受賞)。何のかんの言ってもイケメン系俳優として活躍してきた彼が『月』で実在の死刑確定囚をモデルにした人物役を演じたのは勇気ある決断だと思う。

『石原裕次郎賞』には大ヒットしたアニメ映画『THE FIRST SLUM DUNK』が受賞…って、既に大儲けした作品に今更賞なんかあげてもなあと思うんだが、これは最も観客に支持された作品に与える賞なので、まあ一応主旨には該当する。でもやっぱりアニメは実写とは別枠で賞を作った方がいいのでは…との俺の考えは変わらない。

 そんなこんなで2023年の日本映画界、俺のショボクレた日常も終わりを告げる。最早来年もいい映画を沢山観たいなんて事を言うのも虚しい限りだけど…。