WWE11月26日のPPVのビッグマッチ『サバイバーシリーズ』で2人の大物レスラーが復帰を果たした。一人はWWEでは既にレジェンド的存在である「毒蛇」ことランディ・オートン。彼のカムバックにに関しては既に『RAW』で予告済みだったので特別驚く事もなかったが、問題は放送のエンディングになって姿を現したCMパンク。約10年ぶりのWWE復帰になるという。10年前と言えば俺はまだ東京にいて、ど田舎にUターンするとは考えもしなかった頃の話だ。

 

 CMパンクは06年「日本で修業を積みデビューした禁欲主義的レスラー」のキャラクターでデビュー。日本のプロレス団体に参戦したのは一度きりしかないアングル上の経歴だが、日本のプロレスに影響を受けているのは間違いなく、KENTAの必殺技『GTS』(ゴー・トゥ―・スリープ。肩に担ぎ上げた相手の腹部を自分の膝の上に落とす荒技)、天山広吉の必殺技アナコンダ・バイス(スリーパー・ホールドと肩固めの複合技)などを自分の必殺技に使い、三沢光晴が逝去した際には、三沢と何の関りもなかったのにSNSで追悼の意を顕し、三沢の名を記したタトゥーを体に入れている程の拘り様。勿論WWEと契約している以上しょうもないアングルも演じはしたが、基本的には試合オンリーで自分を表現する硬派タイプのレスラー。

 そんなCMパンクの会場人気は高い。もう長い間WWEに在籍していなかったのに試合会場で「CMパンクを出せ」的コールが起きるぐらい。その理由はWWE退団に繋がったWWE首脳部批判にあると思われる。11年にCMパンクは『RAW』の生放送中にロクなチャンスも与えられずリリースされてしまった元同僚レスラーを実名で上げWWE首脳部を批判。当時保持していたWWE王座を保持したまま退団し『新日本プロレス』のリングに上がるかもと、掟破りの演説をブチ上げた。かつて90年代に『ストーン・コールド』ことスティーヴ・オースチンが雇い主(ビンス・マクマホン)に逆らい続ける雇用者というキャラクターを演じた事で大ブレイクしたが、CMパンクはそれをもっとリアルに表現した事になる。これで観客の支持は絶大的な物になった。

 

 この一連の流れは半分アングルで半分ガチンコだったぽく、その後も反体制的ベビー・フェイスとしてCMパンクはWWEに在籍し続けたが、2014年1月RAW出演を無断ボイコット、そのまま解雇となった。その後もCMパンクは様々なメディアでWWE批判を繰り返し完全絶縁と思われてきたのだが、ここへきてアンビリーバブルなカムバックとなった。ビンス・マクマホンとその娘婿のトリプルHは冷遇され続けてきたというCMパンクに謝罪の意を顕し、カムバックを受け入れる用意はあると発言していた。つまり10年ごしに和解が成立したのだが、それにしても約10年の月日は長過ぎる気がする。

 カムバックに至った理由は、WWE離脱後のCMパンクに全く精彩がなかったから…という事に尽きる。格闘技ファイター転向を宣言し『UFC』で2戦闘ったものの何れも惨敗に近い試合内容で、脱レスラー計画は早々と頓挫。21年にWWEのライバル団体『AEW』に所属しレスラー復帰したが、翌年にはまた運営側とトラブルを起こしAEWを解雇されている。それも役員全員一致での解雇決定だというから、一概にAEW側を批判する訳にはいかないだろう。WWE批判には正論的な部分が多くそれで観客も支持したのだが、どうも協調性に欠けるタイプの人間の様にも映る。新日を退団した某レスラーと酷似? CMパンクがプロレスラーとしてシノギしていく道は、ある程度の我慢はしてもWWE復帰しか残っていなかった…というのが実情だろう。

 

 そんな裏事情までには考えが及んでいない米国の観客は、普通にCMパンクの復帰を喜んでいる。ランディ・オートンが『SMACK DOWN』所属になった…という事は、今後のCMパンクはRAWで闘う事になるであろう。予測できる流れは来年1月の『ロイヤルランブル』に優勝して『レッスルマニア』でメイン・エベントに出場…なのだが、その間にまたWWEとトラブルを起こさないか心配になってくるし、WWEに後ろ足で砂をかけて去っていったCMパンクが即推される事に対する、他のレスラーの感情も気になる所。