1973年のNYにて『レッド・ツェッぺリン』が3日間連続で行なったマジソン・スクエア・ガーデンでのライヴを撮影した映画『レッド・ツェッぺリン 狂熱のライヴ』(76)。それまで『ウッドストック』(70)みたいな複数のミュージシャンが登場するライヴ映画は何本か観た事があったけど、一つのバンドのライヴだけの映画って多分この作品が初めてだったのではないか。68年のデビュー以来コンサートツアーに活動を費やしてきたツェッぺリンだが、日本では72年に2度目の来日ライヴを行って以来ご無沙汰という事もあり、ロックファンの間ではこの作品はそれなりに好評だった。ただライヴ以外の寸劇めいたシーンは不要というのも、観た人の多くが思った事だと思う。

 そのサントラ盤『永遠の詩(狂熱のライヴ)』(アナログ2枚組)は同じ年に発売された。そのアルバムも聴いた事があるのだが、俺が今回聴いたのは07年に「最強盤」の名目で発売されたCD2枚組ヴァージョン。リマスターされたのは当然の事としてアナログ盤に未収録だった曲を追加し、更に曲順も微妙に変えている。その辺りはジミー・ぺイジならではの拘りもあるのだろう。加えてオーバーダブはしていないと言いつつ、違う日のライヴを巧みに繋ぎ合わせて1曲に編集したりしている。これも唯我独尊的キャラの?ジミー・ぺイジらしい。

 

 DISC1はアナログA面とB面の拡大盤という感じで、アナログ盤には未収録の6曲が追加。オープニングナンバー『ロックン・ロール』は『レッド・ツェッぺリンⅣ』収録曲。ダイナミックなロバート・プラントのヴォーカルと、クリアでかつ切れのいいジミー・ぺイジのギターが光るストーレートなロックナンバー。

 3曲目『ブラッグ・ドッグ』は、俺が人生で初めて「これはロックだな」と認識した記念すべき曲(その頃ストーンズはまだ聴いた事が無く、ビートルズはロックではなく「ポップス」だと思っていた)。何故かアナログ盤では未収録。『ロックン・ロール』と同じ『Ⅳ』収録曲で、日本ではシングルカットされ洋楽チャートの4位ぐらいまで上昇。スタジオ録音はプラントのアカペラヴォーカルから始まり、プラントのヴォーカルに合わせ観客も吠える。間奏の混沌としたギターソロが素晴らしい。スタジオ版に比べるとラフな演奏だが、それもライヴの醍醐味か。

 

 4曲目『丘の向こうに』は。このライヴの時点で最新作だった『聖なる館』(73)の代表曲。これも独特なペイジーのギターと共に、インストパートでのジョン・ポール・ジョーンズのベースとジョン・ボーナムのドラムの強力なコンビネーションも強力。この曲もアナログ盤では未収録。

 6曲目『貴方を愛し続けて』は、やたら評判が悪かった『Ⅲ』(70)収録ナンバー。一応ブルース曲だが、ぺイジの速弾きも駆使する超テクギターによってそれに留まらない広がりを感じさせる。プラントのジャニス・ジョプリン似?のヴォーカルも凄い。この曲もアナログ盤では未収録だった。

 9曲目『レイン・ソング』(『聖なる館』収録)はハードロックに留まらないツェッぺリンの魅力が詰まったスローナンバー。静かなる男ジョン・ポール・ジョーンズが、この曲ではメロトロンを演奏して隠された実力を発揮。メロトロンが入ってくると、何か『キング・クリムゾン』ぽく感じてしまうのは、当方の音楽ボキャブラリーの狭さの問題だと思うが…。

 

 

 アナログC&D面に当るDISC2はツェッぺリンライヴのハイライト的な曲が収録されている。1曲目『幻惑されて』(ファーストアルバム収録)は、ライヴだと常に30分近い長尺演奏に。本アルバムでもその長さで完全収録。長い曲の中で様々な要素を織り込んだジミー・ぺイジの七色変化なギターが堪能できる訳だが、何と言っても有名なのはぺイジの必殺技バイオリン奏法(バイオリンの弓でギターを弾く)。映画で見ると演奏しながら「凄いだろ、どんなもんだい!」と言わんばかりのぺイジの自信満々な態度が印象的だった。ジョン・ボーナムのワイルドなドラムも聴き捨てならない。

 2曲目『天国の階段』はあまりに有名過ぎるので特にコメント無し。ダブルネックギターで前半は12弦ギターをアルペジオで弾き、ソロになると通常のギターにチェンジするジミー・ぺイジの姿を映画で確認できたが、その後同じ光景をネット動画で飽きる程観る事に。

 

 

 3曲目『モビー・デイック』(『Ⅱ』収録)は「ボンゾ」ことジョン・ボーナムのソロパフォーマンス用の曲で、これもライヴでの十八番であった。ドラムソロはハードロックバンドのライヴの定番とはいえ、ダレる事もなく20分近くもたった一人で叩き続ける(素手で叩いたりも)ジョン・ボーナムのパワーには恐れ入る。

 

 

 4曲目『ハードブレイカー』(『Ⅱ』収録。アナログ盤では未収録)を挟んでラスト曲『胸いっぱいに愛を』(『Ⅱ』)。スタジオヴァージョンは当時の録音技術を生かしてのトリップ感もあるヴァージョンになっていたが、ライヴでもスタジオ版的効果を生かしつつ、ハードロックの王者的な貫録を見せつける。中途ブギ~ロックン・ロール調になるという意外な曲展開になるのもライヴならではの余興だろう。

 

 日本にもかなりいそうなツェッぺリンマニアの鑑賞眼はかなり手厳しく、本アルバムに関しても賛否両論乱れ飛んでいる様だが「浅く広く」の音楽マニアである俺はそこまでツェッぺリン道を極める積りもないので、本アルバムで俺は十分満足できた。改めて実感したのはジミー・ぺイジが弾くギターのひらめきのエグさ。誰かの影響みたいな物一切感じさせないオンリーワンなギタリストだ。そして♂版ジャニスと呼びたくなるロバート・プラントのワイルドかつパワフルなヴォーカル、正確さとワイルドさを併せ持ったジョン・ボーナムのドラムと、冷静沈着なプレイに徹するジョン・ポール・ジョーンズ。70年代前半のロック界を牽引したレッド・ツェッぺリンの音楽が色褪せる事は、それこそ永遠に無いと思うぞ。