70年代までは知る人ぞ知るレベルだった『ジャックス』が、80年代にレジェンド的なバンドとして語られる様になったのは『ザ・スターリン』の遠藤みちろうがフェイバリットミュージシャンとして挙げていた事が功を奏したのだと思う。パンク・ロッカーの遠藤みちろうも実はジャックスのメンバーとほぼ同世代の、リアルタイムでジャックスを体験した口だが、それより二回りくらい若い世代にもインパクトある音楽として受け入られた事実は、ジャックスの音楽の普遍的な衝撃性を物語ると言ってもいいのではないか?

 さっき聴いた『Echoes In The Radio』オリジナル盤(その後3曲プラス、及び曲順を変えてCD再発)もジャックス再評価の一環として発売されたミニアルバム。1966年から82年まで放送されていたニッポン放送の15分の帯ラジオ番組『バイタリス・フォ―ク・ビレッジ』。俺はかまやつひろしMC時代に何回か聴いた事があったが、検索してみると人気フォ―クシンガーの大方が出演している。俺が聴いた頃はライヴコンサートの一部を流すだけというシンプルな構成であったが、放送初期はアマチュア向けのフォ―クソング講座みたいな回もあったらしい。その番組にジャックスも何回か出演。『Echoes~』はその出演時の音源をレコード化した物であった。

 

 アナログA面1&2曲目は67年2月18日録音。この時のジャックスは早川義夫と高橋末広によるアコーステイックギター2人組で出演。1曲目『遠い海へ旅に出た私の恋人』は1stアルバム『ジャックスの世界』に収録。2曲目『地獄の季節』はタイトル通りアルチュール・ランボーの同名詩集からインスピレーションを得て作った曲だろう。両曲とも早川の文学志向がベースにある楽曲で、勿論そんなグループは当時の日本の音楽界では彼等以外には皆無だった。

 尚『遠い海~』は藤田敏八監督の日活ロマンポルノ『8月はエロスの匂い』(72)の劇中でヒッピー集団が夜の海辺で歌唱する曲として使用され、『地獄の季節』はジャックスが若松孝二監督作品『腹貸し女』(67)のサントラを担当した時に作った曲で、このアルバムで初めてスタジオヴァージョンが陽の目を見た。『腹貸し女』の劇中にも、乱交するフーテン集団の傍らでこの曲を唄うヒッピースタイルの早川義夫の姿があった。

 3&4曲目は67年6月10日録音。高橋が抜けて早川、水橋春夫(ギター)、谷野ひとし(ベース)、木田高介(ドラムス)の1stアルバム当時のメンバーになっている。だがギターもベースも生、ドラムスもスネアとシンバルだけのアコースティックスタイルでの演奏。3曲目『マリアンヌ』も4曲目『われた鏡の中から』も1stアルバム収録曲。『マリアンヌ』での早川の絶叫系ヴォーカルは 何度聴いても耳を奪われる。『われた鏡の中から』の詞の内向的な文学的表現もジャックス(早川)ならではであろう。これでA面終了。

 

 アナログB面は68年1月28日録音。担当楽器は全て電気化し、ジャックスの「バンド」としての体裁はこの時点で整っている。演奏される3曲は何れもライヴでは披露されていたがスタジオ録音はされなかった、やはり本アルバム発売時点で初めて陽の目を見た曲。1曲目『この道』は辛い事はいっぱいあるけど、自分を信じてこの道を歩いていこう的なポジティヴソング?だし、水橋のファズギターが炸裂する2曲目『いい娘だね』はGSサウンド風、木田がドラムスではなくフルートを演奏する3曲目『時計をとめて』は、当時のカレッジ・フォ―ク勢にも通じるストレートなラブソング。何れもA面曲の暗さや壮絶さと対になってる感がある。バンド活動を継続する為にはこの手のキャッチ―な曲?も必要との判断が、ジャックス側にあったのかも。

 

 89年には本アルバムも含め、ジャックスが遺した全ての音源を収録したとされる6枚組CDにシングルCD付きが付いた『ジャックス CD BOX』が発売され、これでジャックス関連の音源は出尽くしたと思っていたが、その後もライブ音源の発掘などが続き、近々ジャックスの解散コンサートライヴ盤の「ニューアルバム」も発売されるというから、まだまだ潜行的にジャックスブームは続いていくという事なんでしょうか…。