作曲家・いずみたくでまず思い出すのは『手のひらを太陽に』(作詞・やなせたかし)。この歌を最初に聴いたのはいつだったかは記憶にないけど、俺たち世代のスタンダートナンバーだった。改めていずみたくの経歴を調べてみると、芥川也寸志に師事して現代音楽家の道を踏み出しながらその後TVの世界でCM音楽を制作、特定ジャンルに限らず様々な曲を作り、作曲活動だけでは飽き足らず芸能プロダクション経営、ミュージカル制作とそれに対応するヴォーカルグループ『いずみたくシンガーズ』の結成、更には自らシンガー・ソングライターとしてレコードを出し、晩年には国会議員にまでなった。

 そのバイタリティ溢れる活動はTVメディアの成長と並行しての物だったと言える。今若者たちの間でTV離れが進行していると言われているが、いずみたくは60年代後半から70年代前半のTV絶頂期最も活躍した作曲家の一人だった。

 さっき聴いた『いずみたく作品集』は、そんないずみたくの仕事の一端を収録した2枚組のCD。DISC1には良く知られる代表曲が並び、DISC2はアニメソングやCM音楽、お宝的な楽曲を収録。

 

 DISC1は、いずみたくの秘蔵っ子だった佐良直美のデビューヒット曲『世界は二人のために』から始まる。フォ―クソングテイストなこの曲のスタイルは『フォー・セインツ』がオリジナルの『希望』や、中村雅俊のデビュー曲『ふれあい』にも通じるいずみたく節である。

 歌謡曲も沢山作曲したいずみたくだが、ベタベタの演歌風メロディーだけは作らなかった。永六輔が作詞しコーラスグループ『デュ―ク・エーセス』が唄った『にほんのうた』シリーズ(65~66年)の『女ひとり』など歌詞だけなら演歌的と言えるのだが、いずみたくの爽快感あるメロディーが感情過多になる所を押し留めている。考えてみれは大学コーラス部上がりのコーラスグループ…という音楽文化は, 歌謡畑では70年代後半には死滅してしまったのだ。

『ザ・ドリフターズ』がヒットさせた『いい湯だな』も、元々は『にほんのうた』の曲だった。ドリフターズヴァージョンは加藤茶の意味不明な「アー、ビバノンノン」という掛け声が面白い。仲本工事のソロパートを聴いていると何か泣けてしまった。

 由紀さおり『夜明けのスキャット』岸洋子『夜明けのうた』も最初聴いた時からハッとさせる名曲だった。ちなみに日活が製作した同名映画『夜明けのうた』も俺は大好き。DISC1の最後を飾る『見上げてごらん夜の星を』は、坂本九が主演した同名ミュージカルの主題歌だったとか。坂本九がこの歌を1963年の『紅白歌合戦』で唄った時俺も親と一緒に観ていたはずだが、多分眠ってしまっていたと思う。

 

 

 

 DISC2は声優の熊倉一雄が唄うアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の主題歌から始まる。「♪お化けにゃ学校も試験も、会社も仕事もない♪」って素晴らしい。序にお化けの世界には陰湿な苛めや戦争、元首相暗殺もないんだろうな。CM音楽篇では明治チョコレートのCM、『伊東に行くならハトヤ』、番組主題歌では細川俊之のナレーションが渋かった東京FMの番組『ワールド・エレガンス』のテーマソング『ラブ・ワールド~愛の世界』などは俺の耳に沁みついている感じ。数10秒のCMソングでも倍賞千恵子、いしだあゆみ、ピンキーとキラーズ、弘田三枝子といった錚々たるスター歌手が歌唱。文豪ヘンリー・ミラー夫人になったホキ徳田の『三菱ロマンチカ』CMソング…なんてのもある。

 注目は特攻帰りの俳優・西村晃が唄う『さらばロバよ』、そしていずみたく自身が唄う『このままでいいのだろうか』。共に『URCレコード』傘下の『ガーリックレコード』から発売された、各々名義のアルバム収録曲。

『さらばロバよ』は中国戦線で闘った日本軍兵士と、日本軍の輸送用に駆り出されたロバの別れを描いた藤田敏雄の詞にいずみたくが曲を付けた物で、西村原案の同名ミュージカルの挿入曲でもある。ベテラン俳優ならではの西村の人生味のあるヴォーカルが溜まらない名曲。

『このままでいいのだろうか』は、某政党支持者だったいずみたくの率直な反戦メッセージが伝わってくる。唄は上手くないけど自分で唄わざるを得ない程、彼の裡では絶える事の無い戦争への憤りが湧き上がってきていた…という事だろう。合唱団で唄われるアルバム最後の曲『美しい地球』にもまた平和への強い祈りが感じられる。

 

 

 

 享年62歳というから、今の尺度で言えば若死の部類に入るいずみたく。でもその音楽人生において圧倒的な仕事量をこなし名曲を幾つも遺した。残念ながら音楽が消費物化した現在に、彼の様なタイプの音楽家が今後登場してくるとも思えない。