1967年南ベトナム。クリス(チャーリー・シーン)は裕福な一家に育ったが、貧乏人や黒人ばかりがベトナム戦線に派遣される徴兵制度の矛盾に憤りを感じ、大学を中退して米国陸軍に入隊しベトナムへとやって来た。米軍は密林のジャングルを利用したベトコンのゲリラ戦に悩まされており、当初は正義感めいた気持ちを持っていたクリスも、現実の過酷さに心はどんどん荒んでいく。クリスはカンボジアとの国境付近に駐留する歩兵師団の小隊に派遣される事になった…。

 

 第59回アカデミー賞で作品賞など四部門受賞に輝いたベトナム戦争物の代表作『プラトーン』。この作品の大ヒットで以降次々とベトナム戦争物作品が続出、監督のオリバー・ストーンもトム・クルーズを主演に『7月4日に生まれて』(89)で再度ベトナム物に挑戦して二度目のアカデミー賞監督賞を受賞した。オリバー・ストーンが自身のベトナム戦争体験を基に脚本を書き映画化。これまたベトナム戦争物の『地獄の黙示録』(79)の主役を務めたマーティン・シーンの息子チャーリー・シーンが主役を務めトム・ベレンジャー、ウィリアム・デフォーなどが共演。ジョニー・デップもチョイ役で出演している。米国のみならず日本でも大ヒットを記録した。

 

 派遣された小隊は歴戦の強者兵士の軍曹バーンズ(トム・ベレンジャー)と、同じく軍曹のエリアス(ウィリアム・デフォー)が仕切っていた。当初クリスは勇敢なバーンズの方に惹かれる気持ちがあり、戦争生活に馴染んでいった彼は回し呑みで回って来たマリファナを喫う事にも抵抗を覚えなくなっていく。しかし戦局は過酷さを増していった。次々仲間は敵の攻撃に倒れていき、荒んだ気持ちを民間人にぶつける兵士も現れる。ある村で村民をべトコンじゃないかと尋問したバーンズは苛々が募って村民を殺害。それを諫めるエリアスは軍法会議に報告すると言い出し、二人の間には険悪な空気が漂う。その間もベトコンの容赦なきゲリラ戦が…。

 

 ジャングルを舞台にした混乱を極める戦闘シーンが延々と続く中、理性との葛藤に苦悩する主人公はバーンズの卑劣な行為を間近に見てからエリアスの方に心移りし、戦闘にかこつけバーンズがエリアスを銃撃したらしい事を嗅ぎつけた事から忘れていた正義感が蘇るが、同感する者は殆どいない。最終的にはバーンズを成敗する事になる主人公だが虚しい限り。自分の裡にもバーンズ的な一面があった事を自覚したからだ。そういう主人公の姿を通して、単にベトナム戦争反対を唱えるだけではなく、自分もまた戦争の共犯者であったいうオリバー・ストーンの自省的な視点も加味されていたのが、公開当時としては斬新だった…という事か。

 

作品評価★★★★

(ベトナム戦争を愚挙と断じた作品の方向性や、戦闘シーン以外の残酷描写には賛否両論あったのだろうが、まだ監督歴も浅かったオリバー・ストーンがこれだけの重いテーマの作品を商業的に大成功させた事は、素直に評価したい。ジョニー・デップは本作ではまだ青二才)

 

映画四方山話その835~インティマシ―・コーディネイター

「インティマシー・コーディネーター」と言われても何のコッチャ…という感じなんだが、映画やテレビドラマなどでの「性的シーン」を撮影するに辺り、セクハラやパワハラが行われないよう監督と出演者の間で調整をする役割の人の事を指すらしい。

 今年初頭に映画界で発覚した監督や俳優によるセクハラ騒動を受け、映画やドラマの現場でそういう役割を担う人が採用される機会が多くなってきたとか。さっきその仕事ぶりを撮影した動画を観た。コーディネーターの人は事前に出演者とどこまでやるかを確認するのみならず、性的シーンの撮影直前にもしっかり監督や俳優と打ち合わせ、撮影その物にも立ち会うという。

 まあ「セクハラ監督や俳優」が現実に業界にいた(いる?)以上こういうシステムが出来る事は致し方ないんだろうが、撮影にまで立ち会われると「邪魔」だと思う監督は少なくないと思うし、演じる側だって気が散っちゃうんじゃないだろうか。事前にきっちり監督と俳優間できっちり打ち合わせができていればこういう人の必要はない訳だし、俺を信用できないのか…と不快な気持ちになる監督さんもいそうだ。

 ハリウッド映画界などでは「インティマシー・コーディネーター」の起用が通例化しているらしいが、そのせいだろうか洋画の「性的シーン」をリアルに感じた事って近頃は全く無い。いかにも「義務でやってます」という感アリアリで、熊切和嘉は「そういうベッドシーンだけは撮りたくない」と宣言して『ノンコ36歳(家事手伝い)』(08)できっちりベッドシーン(相手役には星野源!も)を撮り、出演した坂井真紀も何一つ文句を言わなかった(俺の知ってる範疇では)。

 これからの映画は、どんどんこの様に全ての事がシステム化されていくのだとしたら、映画の出来が確実に落ちるのは否めない。いっその事「性的シーン」その物を全面禁止にすればそもそもこういう問題は絶対起きないんだから、そうしたら? 当方はロマンポルノやピンク映画を観過ぎて、もう映画では特別「性的シーン」を観たいという気持ちはなくなっている。俺はそれでもいいけど、俺以外の人はそういう訳にはいかないか…。