弁護士の卵・木場正彦(舟木一夫)は当り屋に絡まれた美沙緒(和泉雅子)を助けるべく当り屋を引き付けて逃亡、その間美沙緒は車を発車させ難を逃れた。とあるバーに飛びこんだ正彦は、今はやくざになっている小学校時代の旧友、吉田(藤竜也)と再会。翌朝正彦は吉田が三流経済紙編集長・広瀬を殺した容疑で逮捕されたと聞いてビックリ。直ぐ面会に行くが吉田は自分が殺ったと言い続けるだけだった。正彦は吉田の無実を信じ刑事・田宮と協力して捜査開始…。

 

 60年代の歌謡御三家(橋幸夫、舟木一夫、西郷輝彦)の中で最も映画出演に積極的だったのは舟木一夫だった。60年代各映画会社を股にかけ出演作を撮ったが、特に日活では主演作を含め15本の作品に出演。本作は舟木にとって映画界の恩師である職人監督・西河克巳が監督した歌謡映画。正義感に燃える弁護士見習いの主人公が、親友の無罪を証明しようと躍起になる中で愛する人と出会う…というストーリー。ヒロインは『絶唱』(66)など他にも舟木と共演作がある和泉雅子。若かりし頃の藤竜也、東京帝大卒のインテリ悪役の神田隆、日活時代は松原智恵子のライバルと目されていた山本陽子などの共演。春休み時期に公開された。

 

 正彦は雇い主である小島弁護士の使いで宇月産業の社長に会い、そこで美沙緒と再会。TVアニメの下請け会社を経営している美沙緒は宇月社長の令嬢だった。正彦は美沙緒だけでなくあのバーに居合わせた常務の溝口、地回りのやくざ野島の姿を社内で目撃、広瀬殺しに宇月が関わっているのでは…と疑いを持つ。美沙緒は父から金目当てに宇月と接近してきた実業家・一ノ瀬との結婚を勧められるが拒絶、この時以来正彦と美沙緒の仲は急接近。正彦は吉田の恋人で件のバーの雇われママ、町子から吉田の無実を訴えられると共に、誰かから50万円が送金されてきた町子の実家のある三宅島へ向かう。それを追って美沙緒も…。

 

 正義感溢れる舟木一夫…という設定は、『あゝ青春の胸の血は』(64)『友を送る歌』(66)もそうだったから珍しくはないし、友情もテーマになっているのもその二本と同様。だがそれに比べても相当に緩い内容である。事件捜査で三宅島に行ったはずなのに恋人が追っかけてくると捜査は一旦中止し観光三昧するのには呆れた。事件の真相が明らかになり宇月宅へ乗り込んで宇月を追い詰める下りなどは演出的にはもっと緊張感が出せるはずなのに、甘いマスクで甘口の演技以外できない舟木では迫力がなく、歌謡映画という縛りを念頭においてももっと充実した作品に出来たのでは…とは思うね。和泉雅子よりも山本陽子が俺の好みではある。

 

作品評価★★

(ヒロインが経営するアニメ会社で『オバケのQ太郎』のセル画を制作していたり、お菓子メーカーの「不二家」が実名で登場したり、劇中でタイアップを堂々カミングアウトしてるのは珍しいかも。「うえずみのる」なんて懐かしい俳優も登場したり、批評を放棄したらまあまあ愉しめるか)

 

映画四方山話その827~色々あったけど頑張れ東出昌大

 一連の騒動(不倫~離婚~事務所解雇)以来表立った情報が伝わってこなかった東出昌大の近況がネットニュースに。現在は関東近郊の山小屋で狩猟中心の一人暮らしをしているとか。そこは携帯電話も繋がらない僻地で山小屋にはガス、水道設備もなくトイレは汲み取り式、風呂はないので近所の温泉に通い、食料は近隣の人から野菜をもらって凌ぐ…って、ムチャクチャ禁欲な生活ぶり。今時携帯が繋がらないというのは仕事上では大変な障害になると思うのだが、大丈夫なのか?

 

 派手な東京生活から一転して田舎での地味な生活…と聞いて思い出すのは関根恵子(現・高橋惠子)。77年に当時の恋人に感化され2年くらい女優業を休業して岐阜の山村で隠遁生活を送っていた。そこから女優復帰した直後謎の失踪事件を起こし海外に逃亡、帰国後は周囲から囂々たる批判を浴びたが、仕切り直しして日活ロマンポルノ作品『ラブレター』(81)に主演し『TATTO(刺青)あり』(82)の出演で高橋伴明監督と出会い結婚。以降はマイペースに女優業を展開して今に至っている。若い頃はスキャンダルに見舞われた問題児女優だったが、現在はそんな面影など微塵もない。

 俺はTVドラマは殆ど観ないから、東出昌大が世に広く知られる様になったきっかけも良く分からない。映画で彼を認識したのは故・石井隆監督作『GONIN サーガ』(15)からで、以降も所謂メジャー作品ではない「意欲作」にも数多く出演しており、単なる女好きのイケメン俳優でない事は判る。まあ自分が蒔いた種とはいえ関根恵子と同じく色々な所からバッシングされ所属事務所からも解雇されてしまった。しかし長い目で見れば芸の肥やしとまではいかないまでも、自分を一度リセットして見つめ直すという意味では、現状も決してマイナス効果ばかりではないのではないか。

 はっきリ言って事務所を解雇されて現在フリーという状況では、TVドラマなどでの活躍は当分無理だし、映画や小劇場の舞台が主戦場になる。TVドラマを元々観ない俺としては、そのマイナス分を東出昌大が映画の意欲作に数多く出演して埋め合わせしてくれればそれでいい。非モテ男としてはイケメンには正直シンパシーは湧かないけど(トホホ…)頑張れ。