1940年5月。ドイツ軍の奇襲攻撃によって英海外派遣軍の基地が攻撃を受けた。ドイツ軍が次に英国本土を攻撃目標にするのは時間の問題。戦闘機軍団司令官ダウディング大将(ローレンス・オリヴィエ)は本土防衛に重点を置く様に部下に指示。一方ドイツのゲーリング元帥はドイツ軍がいつでも出撃できる体制を整えているのに満足。ドイツ軍は駐スイス英国大使館に使者を派遣して、大陸から英国が完全撤退したら英国本土を攻撃しないと交換条件を出す…。

 

 第二次世界大戦初期に、英国とドイツ軍の間で行われた英国本土の制空権を巡る戦い「バトル・オブ・ブリテン」を描いた戦争映画で、英国、西ドイツ、米国による合作映画。007シリーズ、戦争映画では他に『ナバロンの嵐』(08)を撮ったガイ・ハミルトンが監督を務めた、映画の70%近くが戦闘機の激闘シーンというガチ戦争映画なのだ。ローレンス・オリヴォエ、マイケル・ケイン、トレバー・ハワード、、ロバート・ショウといった英国の有名俳優がこぞって出演した群像劇スタイル。尚完全版は151分あるらしいのだが、劇場公開には長すぎるという事で133分に縮められ公開。俺が観たのも劇場公開版である。日本では中ヒットレベルの興収だった。

 

 しかし駐スイス英国大使のケリーは敢然と拒絶。ドイツ軍の本土攻撃は必至となった。それに備えて英国に空軍基地では訓練など戦闘準備に余念がなかった。ドイツ空軍も出撃命令を心待ちにしていた。ドイツ戦闘機2500機に対し英空軍戦闘機は650。兵力では圧倒的にドイツ軍が優勢である。空軍パイロットのハーヴェイ少佐(マイケル・ケイン)は休暇を利用して婦人補助空軍に所属する妻のコリンに安全な基地への転属を勧めるが、コリンは首を縦に振らなかった。8月13日愈々先頭の火蓋が切られた。空軍基地だけでなくロンドンにまで出撃し本土攻撃を仕掛けるドイツ軍。英国軍もその報復としてベルリンを奇襲してヒトラーをビビらせ…。

 

 前述した様に戦闘機による戦いシーンが中心に描かれているので、戦争マニアにとっては大満足なのかもしれぬ。その合間に英国ドイツ両軍首脳による駆け引きや、空軍パイロット各々のエピソードめいた物が挿入されていく。確たるストーリーは無いので退屈するかと思ったけど、さすがに007を撮った監督だけあって133分という範疇では観客を飽きさせないテンポの良い語り口。軍人夫婦のエピソードなどは日本の戦争映画だったらもっと膨らませるんだろうが、他のシーンとの調和を考えてあっさり目に処理。敵側のドイツ軍も、現状に無理解な司令官に悩ませられる空軍の指揮官など、「悪」ではなく人間臭いキャラクターに描かれていた。

 

作品評価★★★

(本土防衛という意味からすると本作で描かれる戦争は「聖戦」であるという論理で、ベトナム戦争が泥沼化しつつあった69年に聖戦なんて…という批判もあったかとは思うが、日本の戦争映画みたいに悲壮感がない部分だけ普通に娯楽映画として安心して観られるのも事実)

 

映画四方山話その815~これからは悪役に専念?

 一段落したかと思われた映画監督、俳優によるセクハラ騒動だが、今度は大物中の大物が登場。現在の日本の俳優界では実質的なトップと思われる香川照之がそのターゲットに。香川は被害者女性の主張を全面的に認めTVで謝罪。この件ではPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患った元ホステスの女性が香川ではなく、セクハラ行為を見ていて止めなかった上司(クラブのママ)を民事で訴えたが、多分示談金が出て後に訴えを取り下げこの一件は解決したという。

 直接訴えられたのは香川じゃないから情状酌量という意見もあるが、報道が正しいとしたら諸悪の根源は香川にある訳だし、香川はマスコミや報道側には謝ったけど、被害者には直接面談は無理にしろちゃんと謝罪したのかという疑問は残る。

 今の所香川がレギュラー出演しているTV番組や出演映画の公開延期などの処置は取られていない。それに関しては賛否両論ある様だが生放送の報道番組はともかく、もう既に出来上がってしまっているドラマや映画をオクラ入りさせる事には、俺は基本的には反対。余程の重罪を犯したのならともかく、ドラマや映画の香川は素のそれとは違う「虚構の中の別人格」になっているのだから、私生活で問題を犯したからって、その出演作品まで断罪されるのは間違っている。

 ただ今後の役柄的には大きな影響を及ぼしそうだ。元々演技派俳優のイメージが定着し悪役を演じる事も近年多くなった香川だが、これからは「根っからの善人」みたいな役は殆ど演じる機会はなくなるのではないか。公式的には謝罪で禊は済んだかもしれないが、泥酔していたとはいえ女性に「お触り」をしたという印象は観る側には残る訳で、ここ当分は悪役専科に甘んじる事になるりそうだ。いっそ逆にその悪イメージを利用して極悪キャラとか映画で演じればいいのでは…と思う。演技派だけに本格的な悪を演じたら凄くリアリティがある事は、『クリーピー 偽りの隣人』(16)で証明されている。