福本伸行の漫画『賭博黙示録 カイジ』を原作とする映画『カイジ』シリーズ三作を一挙鑑賞。社会的には落伍者だが勝負事になると天才的洞察力を発揮する主人公カイジが、永遠の宿敵『帝愛グループ』と対峙し絶対的に不利と思われる幾多のゲームに挑んでいくサスペンス作品。東映出身で大作作品の監督として映画界に重宝がられた佐藤純彌の子息で、日本テレビ系ディレクターである佐藤東弥が全シリーズ作を手掛け、本シリーズに限らず日本テレビが絡んだ作品に多く起用されている感もある藤原竜也がカイジを演じる。共演陣にはベテランから有望若手まで様々な役者が出演している。一作目に出演した佐藤慶はそれが遺作になった。

 一作目『カイジ 逆転ゲーム』(09)は投げやりな人生を送っていたカイジが知り合いの借金の連帯保証人になった為、帝愛金融の社長(天海祐希)の部下に拉致されて『希望の船』で行われるジャンケンゲームに挑むが敗退、気が合った中年オヤジ(光石研)と共に借金を返す為地下で強制労働を強いられる。ただ希望者は借金完済と強制労働からの脱出をかけてのゲームに挑む権利が。だがそれは超高層ビルにかけられた鉄骨を渡り切るという生か死を賭ける超デンジャラスなゲーム。励まし合っていた参加者は恐怖のあまり疑心暗鬼になり次々に転落死。限界を悟った中年オヤジも自分の持ち金を娘を渡す事をカイジに託し自ら落下…。

 

 ゲームといっても通常の博奕ではなくジャンケン、鉄骨渡り、カイジ側に圧倒的不利かつシンプルなカードゲームと奇天烈な物ばかり。ジャンケンやカードゲームは運に任せていれば相手の思うツボになってしまうのは必須で、相手と出方の先の読み合いが勝負を左右する事になる。実社会では典型的ダメ人間のカイジが、瀬戸際まで追い詰められる事で突然冴えを発揮する様が本作の見所だろう。脇役ではカイジの最大の敵となる香川照之の怪演が良くも悪くも目立ちまくり。この作品の演技がTVドラマ『半沢直樹』の雛形になった事は間違いない。最終的にカイジと組んで帝愛を裏切るが、しっかりソロバン勘定は弾く遠藤の存在も面白かった。

 二作目『カイジ 人生奪回ゲーム』(11)でまた借金を作って地下労働行きとなっていたカイジが、班長のチンチロリンのイカサマを見破り仲間から巻き上げた金を奪回、その金で仲間たちを自由にする事を要求。帝愛側が出した条件は二週間娑婆に出て持ち金を元手に計2億円の返済金を作る事。娑婆に出たカイジは今やカイジと同じく帝愛に借金まみれにされた利根川(香川)から、帝愛グループが経営する裏カジノを紹介される。カジノに行ったカイジはそこで借金で身を崩した関西弁の男・坂崎と出会い、10億円儲かる巨大パチンコ台攻略計画に乗らないかと誘われる。その動きを察知しカジノ支配人・一条(伊勢谷友介)はスパイ工作を指示…。

 

 二作目では複雑な人間関係もフィーチャーされる。坂崎がスパイとしてカジノ店の従業員として送り込んだ娘は一作目の中年オヤジの娘で、カイジを逆恨みして一条の二重スパイに。だが事のなりゆきを見てどっち側に付くか悩む。利根川は帝愛憎しでガイジと共闘するがやはり本音は…。ゲームは賞金かライオンに喰われるかの殺人心理ゲームと件の巨大パチンコの二つ。パチンコ攻防戦は心理戦というより文字通りスパイ合戦みたいな展開になってしまって、ゲームの趣向自体は前作程アイディアの捻りは感じられないのだが、それでも結構惹きこまれてしまうのはパチンコに付き物のギャンブル嗜好が、多少なりとも俺の裡にあるからか。

 三作目『カイジ ファイナルゲーム』の舞台は2020年の東京オリンピック開催後。契約労働者のカイジはあまりの賃金の安さに黒崎社長(吉田鋼太郎)に掛け合うが鼻で笑われた。ムシャクシャしたカイジは久々に再会した元班長の大槻から貧乏人向けの大金ゲットバトル『バベルの塔』の話を聞いて参加し見事優勝の証しのカードをゲットするが、大槻と賞金10億円を山分けするより裏面の極秘情報を知る権利を選ぶ。数日後連絡が来てとある屋敷に向かったカイジ。そこには同じく極秘情報の権利を得た若い娘・加奈子がいた。屋敷の主で大富豪の東郷(伊武雅刀)は近々行われるゲーム『人間秤』出場の協力者として二人をチョイスしたのだ…。

 

  前作とは9年のタイムラグがあるオリジナルストーリーの映画化。その為かテイストもかなり違う。これまでのカイジの闘いは個人的理由からであったが、今回は日本を特権階級の為の社会に変革しようという動きを阻止すべく立ち上がった大富豪の協力者という立場。帝愛の息がかかった宿敵・黒崎との「人間秤」対決はより多くの金を集めた側の方が勝ち…という、東郷の目的は正当でもバブリーな勝負と言わざるを得ず、カイジのこれまでの闘いとは全く趣が違う。結果的に途中病に斃れた黒崎に代わり「世直し」をするカイジ…って何か違和感が残る。ヒロインの加奈子もストーリーの流れではあまり必然性ない立ち位置で面白くなかった。

 

作品評価・『カイジ 逆転ゲーム』★★★

       『カイジ 人生奪回ゲーム』★★★

       『カイジ ファイナルゲーム』★★

(さすがに三本続けてみるとかなりの疲労感。奇想天外なゲームバトルには映画的であるかどうかは別にして、原作漫画未読な人間には一応の面白さが。ただ東京五輪が2020年に行われなかった弊害が第三作に影を落としているし、年代的には設定が近未来なのは変だ)

 

映画四方山話その763~『桃尻娘』で青春プレイバック?

 

 日活ロマンポルノ作品『桃尻娘』を約44年ぶりに再鑑賞(但しR-15ヴァージョン)。80年代にはマルチ文筆家として大ブレイクする橋本治の原作を職人監督のイメージがあった小原宏裕が監督。竹田かほり、亜湖というフレッシュコンビのキャスティングに加え、後にNHK大河ドラマも執筆する金子成人による脚本の功績もあり、ロマンポルノ作品としては珍しいオジン感覚のない女子高生像を描いたラブコメディの快作に仕上がっていた。

 SEXを巡ってライバル心を燃やす二人の女子高生。竹田と喧嘩した腹いせで家を飛び出した亜湖がアンノン族(女性誌『アンアン』『ノンノ』の熱狂的読者)よろしく金沢、京都などの名所巡りの旅に出て、それを竹田が追っかける展開。その過程で亜湖は行きずりの男と体を重ね竹田に優位感を覚える…という内容だった。熊本出身の大学映研の後輩(でも俺より年上。高校時代の同級生に現JOC会長の山下泰裕がいたそう)が「アンノン族なんて旅の恥は掻き捨てだと思っているからナンパすればすぐヤレる」と豪語していたが、果たしてそんなにイージーな物だったのかな…。

 初見した時はあまり意識していなかったが、公開当時俺は金沢に住んでいたからこの作品は「地元ロケ」の作品だったのだ。作品内では金沢の積雪はかなりの量。確か78年2月中旬に交通障害が起きる程のドカ雪が降っていたから、この作品の金沢ロケの撮影は豪雪直後ぐらいだった事になる。

 その頃俺は金沢にある四流大学の映研部員だった。金沢みたいな名の知れた地方都市でも文化状況は東京などとは比べ物にならず、野心作などは殆ど映画館で上映されないので日本映画はメジャー会社の番組でも観るしか術がなく、首都圏の映画マニアには鼻で笑われるレベルの情けない映画マニアであった。

 竹田が亜湖を探し女性誌の観光ガイドに必ず「名スポット」として載っている作家の五木寛之が金沢在住時代よく通っていたクラシック名曲喫茶に行く(そこの店員役で橋本治がノン・クレジット出演していたのは今回観ての新発見)のだが、そのモデルと思われる店には二回ぐらい行った事がある。T氏という映画館勤務の人からアパートに電話連絡があったのでその店に行くと、今度ボクシング経験のある元暴走族の青年を主演に『ロッキー』みたいな作品を作るので手伝えという話。当時俺には自主映画を作りたいという気もちは1ミリもなかったので面食らった。

 T氏は大阪芸術大学の写真学科を出て東京でカメラマンの助手になりエロ本のグラビアなどを手伝っていたが、精神的な消耗で地元の金沢に戻っていた。もう既婚者だったがそれでも単に仕事を真面目にしてるだけの社会人にはなりきれない…みたいな意識があったのだろうか。既に時代はニュー・ファミリー幻想が幅を利かす閉塞的状況になっていたが、まだその頃はT氏みたいに色々な事諦められない人が地方都市にもまだ点在していた…という事か。その店を含め何回か打ち合わせをしたがT氏が映画製作とは無関係な、大学セクト風な組織論ばかり言いだして具体的な話は一向に進まず、やがてT氏は再度精神的問題で映画館を辞めて自宅休養になり、その話は自然消滅になっていった…。

 

 竹田は漸く内灘海岸(ここもアンノン族のお約束観光スポット)で亜湖と再会。内灘海岸は金沢在住時代一度も行った事がなかったが、内灘にある「金沢医科大学」には縁がある。映画マニア成りたての頃金沢医科大学の「新歓祭」で映画オールナイト大会が催されると聞きつけ電車に乗って内灘まで行き閑散とした夜の校舎に到着。講義室の硬い椅子に座りながら俺は夜通し映画を観た。上映作品は『昭和残侠伝・死んで貰います』(マキノ雅弘)『神々の深き欲望』(今村昌平)、寺山修司の実験映画『トマトケチャップ皇帝』『独立愚連隊』(岡本喜八)の四本立て。日本映画マニア初心者としては相当にエポックメイキングな上映会になった。俺が今村作品の中で取り分け『神々の~』を高く評価するのは、この時の体験があるが故である。

 前述した様に文化後進地に金沢ではこの手の日本映画の旧作を観るには、大学の学園祭などの上映会にでも期待するしかなかったのだ。偽学生になって他の大学で一晩過ごすなんて精神的にも楽な事ではないが、日本映画への情熱がそれを上回った…という事だろう。

 後に映研活動を通して金沢医大生とも知り合いになったが、学生の大多数が医者の子息で就職の心配がないのと経済的に裕福な為か、留年を繰り返しても平然としている連中が多いのにはビックリした。彼らの間では大森一樹の『ヒポクラテスたち』が大注目作品で、殆どの学生が観たいと思っている…という噂も聞いた。いっそ大森の講演会付きで学園祭とかで上映したら良かったのに…と思う。

『桃尻娘』を再見して若き日の映画マニア時代を思い出し徒然なるままに書いてみたが、キリがないのでここまで。