大学生の正吉(石坂浩二)は親友の伊東から金満家・依田家の子供たちの家庭教師をしないかと誘われる。渋々了承し依田家を訪れた正吉だが長女の久美子(浜美枝)の美しさに魅せられてしまった。今まで何人もの家庭教師が付いたが必ず久美子を好きになってしまい、告白したらあっさりフラれて家庭教師を辞めざるを得ない…というパターンの連続だったのだ。しかし正吉は依田(上原謙)に気に入られ久美子も下心を表面上は見せない正吉に好感を持ったみたい…。

 

 石坂洋次郎原作の映画は戦後に限定してもざっと見積もって74本ぐらいあるらしい。凄い数である。明朗な若者描写の中に翳りみたいな要素を入れ込んだ作風が映画化向きだった…という事だろうか。本作の原作『楽しい我が家』は52年に『青春会議』のタイトルで杉江敏男監督によって本作と同じく東宝で映画化されており、本作はそのリメイクという事になる。一見何の揉め事もなさそうなセレブな家庭に、実は娘には言えない隠し事が…というストーリー。杉江と同じく東宝でプログラムピクチャーを撮り続けてきた筧正典の最後の監督作品。戦前から活躍した二枚目スター上原謙、東宝スター女優・浜美枝と石坂浩二の美女美男カップルらの出演。

 

 久美子は短大を卒業したが義母の宗子に仕事などしないで早く嫁に行って欲しいと言われている。私だって社会に出て普通の人みたいに働きたいと正吉に訴える久美子。正吉は彼女の悩み相談の相手をする形になり二人の仲は急接近する。伊藤に誘われ、二人は伊藤と彼の下宿先の娘・貞子とWデート。貞子は正吉の事が好きになったみたいだ。久美子は両親に実の母は彼女が三歳の時に死んだと言われていたが、ある夜依田が宗子に久美子の実の母・民代に偶然会った事を話しているのを久美子の弟が立ち聞きして宿題の作文に書いてしまう。それを読んだ久美子は激しいショックを受ける。実は民代は貞子の母親だったのだ…。

 

 何不自由なく育てられてきたヒロインの生みの母親がまだ生きており、傷ついた彼女を暖かく見守る弟の家庭教師の好青年…というシチュエーションは、何度も映画化された『陽のあたる坂道』の性別の設定を入れ替えたぽい感じがする。そういう家庭劇にまだ結婚こそが女性にとって人生最大の目的とされていた世相を入れ込んだ、風俗劇の要素もある作品だが、親に裏切られて傷心の日々を送っていたはずの娘が、自分を捨てた形の実の母親と対面しても怨み事一つ言わずいるのはあまりにも優等生過ぎるというか、もっと本音を爆発させないと映画的な喚起力を欠いてしまう事は明らか。原作から離れ風俗劇の要素を強めた方がベター。

 

作品評価★★

(タイトルから想像したラブコメぽいイメージは殆ど無く、旧来から映画化されてきた石坂洋次郎物に追従する様な内容だった。さすがに60年代も後半に入るとそれではしんどい感じがする。戦後以降健全な青春映画を撮り続けてきた東宝も曲がり角にきていたんだな…と思う)

 

映画四方山話その718~浜美枝がいっぱい?

浜美枝と石坂浩二の顔合わせというと、俺が子供の頃に観たTVドラマを思い出す。調べてみるとタイトルは『立ち入り禁止・恋と恋』(69)。お互い恋人のいる身ながら不動産屋の手違いで同居する事になった男女のラブコメストーリー…というと『翔んだカップル』の成人版みたいだが(笑)。浜の恋人役はこの時期TVドラマでフラれ役ばかり演じていた杉浦直樹だった。最終的には浜と石坂が結ばれるありがちな結末だったと思うが、印象に残ったのは浜のミニスカートの丈の短さ。ガキンチョながらムラムラしたかも(笑)。

 そういう意味からすると浜美枝は俺にとって初めて「女」を感じさせてくれた女優という事になるのかも。所謂プログラムピクチャーを好んで見る様になってから浜美枝の出演作品はかなりの数を観ている。『日本一』シリーズなど植木等の相手役が多かったコメディ物、『にっぽん実話時代』(63)みたいな会社を舞台にしたサラリーマン物のOG役、特撮映画『キングコング対ゴジラ』(62)のヒロイン、『007は二度死ぬ』(67)のボンドガールなどなど。

 総じて彼女が演じる役柄は今回の作品もそうだが、男に対して媚びる事もなく丁々発止も辞さない気丈な女性。一見ハーフと勘違いされそうなバタ臭い顔立ちもそういうキャラに合っていた…というか。実際映画で見る浜美枝は少年時代とは違ってムラムラする事は殆どなかった(笑)。60年代は「貴方好みの女になりたい」なんて歌詞の歌(by奥村チヨ)がヒットするぐらいの時代だからこういう浜美枝の気丈なキャラクターには好き嫌いがあったみたいで、兄が購読していた学習雑誌『中一コース』(学研)の読者アンケートで、浜美枝は「嫌いな女性芸能人」の5位だった(1位は美空ひばり)。

 そんな気丈な女を演じ続けてきた浜美枝が『砂の香り』(69)という作品で敢然とヌードになっている。俺はこの作品を今は無き『大井町武蔵野館』のレイトショーで観たのだが、予備知識が全く無かったので驚いてしまった。ボンドガールまで演じた彼女が何故大作モードでもない小品ぽい作品で脱いだのか、その理由も分からない。大体ヌードを簡単に承諾する様な人には思えないし…。本来ならムラムラしてもおかしくないのかもしれないのだが、驚きの気持ちが強すぎてそういう気分にはなれませんでしたな。再見して試してみるか(笑)。

 そんな訳で映画出演は70年代に入って殆どやらなくなり、やがて女優業も廃業してしまった浜美枝だが、俺にとっては思い出尽きない女優の一人ではあります。