先日半世紀に渡る伝説的な活動が終了した事が明らかになった『裸のラリーズ』。裸のラリーズを「バンド」だと認定すれば日本で一番最古のロックバンドだったのだが、これからは『ムーンライダーズ』が日本最長寿のロックバンドという事になるのだろう。結成は1975年だから今年で41年目。その間メンバーチェンジとオリジナルメンバーのかしぶち哲郎の死去と何回かの活動停止があったが、活動を再開し今年末にライブアルバムの発売もあるそうだから凄い。

 さっき聴いた『meets GREAT SKIFFLE AUTREY』はムーンライダーズのメンバーである鈴木慶一&博文兄弟が結成したデュオ『THE SUZUKI』のファーストCD。鈴木博文はソロアルバムの受け皿的なインディーズレーベル『メトロトロン・レコード』を87年に設立、このCDもそこから発売されている。全4曲というミニアルバム仕様なのだがボーナストラックというか、メトロトロンからCDを発売しているミュージシャンの音源が12曲も収録されており、カタログ的なアルバムになっていた。

 

 THE SUZUKI名義の曲を紹介しておくと『ロメオ、ジュリエット・アンド・フランケンシュタイン』(慶一作詞&作曲)は軽快なリズムトラックに乗って、バブル転落後を舞台にした90年代のロミオ&ジュリエット伝説というか、実は現代詩ぽい過激ぽいワードが並んでいて曲の軽快さと裏腹にちょっと不気味だったりする。

『ワーキング・クラス・ロード』は確か博文がソロアルバムかソロライブでも唄っていた記憶があるのだが。彼独特のクールな視点で汗水流して働く労働者の悲哀を唄っており、シンプルなバッキングも彼らしい。

『ロレナ』(慶一作詞&作曲)は問題作。フィリピンで起きた「フィリピン版阿部定事件」の当事者の女性の事を唄っている。浮気癖のある夫は男根を切られて縫合手術を行ったそうだがもう性行為ができなくなったとか。こんな事件をテーマにした曲を作るなんていかにもひねくれ者の慶一御大らしい。バッキングの演奏は彼がTHE SUZUKIの指標としている「パブ・ロック」に確かに近い感じ。

『ア・ブルー・カラード・ウーマン』(博文作詞&作曲)もこれも彼のソロ曲として聴いた記憶が。文学的な心象風景描写が相変わらず巧みである。兄とは曲作りの発想からして全く対照的だ。

 

 で、残りのトラックを紹介していくとトラック5『水に浮かぶダンス』トラック6『地底へGO』の青山陽一はトラック11『ワイルド・フレンズ』を演奏している『GRAND FATHERS』のリーダー&ヴォーカリストでもある。GRAND FATHERSは一度ライブを観た事があるが、二本のギターにベース、Wドラムスの編成で英国のニュー・ウェィヴバンド『XTC』ぽい音を出していた記憶がある。青山独特の節回しがあるヴォーカルが印象的で、ソロ作ではかなりモダンな演奏をバックに唄っている。GRAND FATHERSは青山ソロ曲よりアップテンポなバンドサウンドらしいアレンジで詞は英語だ。

 そのGRAND FATHERSのベーシスト太田譲は並行してトラック14『ヤング・ワイズ・メン』を演奏している『カーネーション』に加入。メジャーデビュー前のカーネーションは現在よりも繊細な感じだが,直江政太郎(現・政広)の垢抜け、かつ大胆な曲作りは当時としても個性的な物があったと思う。

 トラック7『エイズの人よ』を唄う さいとうみわこは元『タンゴヨーロッパ』という女性バンドのヴォーカリスト。91年に亡くなった『クイーン』のヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーへの想いを唄い上げるテクノ演歌.。話題性という点で言えば本CD収録曲でもピカイチ?

 トラック13『ごっこ遊びをいたしましょ』のHAMADA RIE(濱田理恵)は博文のライブのバックを務めたりしていたキーボード奏者。何か慶一の元嫁、鈴木さえ子を彷彿させる様なテクノロック仕様のポップスだが、ヴォーカルのコケティッシュな雰囲気がこの人ならではの持ち味か。メトロトロンから1枚アルバムを発売した後アーティスト名を「ダリエ」に変更、現在はNHK Eテレの子供向け番組の曲などを作ったりする活動もしているとか。

 トラック8『長い塀』の『CORNETS』は92年にメロントロンから『乳の実』というアルバムを発表した女性バンド。『長い塀』はそのアルバムの曲でヴォーカリストの幼児番組の歌のお姉さんみたいな端麗なヴォーカルが印象的な佳曲で他の曲も聴いてみたくなる。長い間主だった活動はしてなかったみたいだが近年また活動再開し始めたとか。

 トラック9『淋しさのリアル』を演奏する『MOSQUIT』は元カーネーションのギタリスト、鳥羽修が結成していた二人組のユニットとか。ビートルズやXTCの影響を受けているというプロフィールからして大体サウンドの予想もついたが正にドンピシャなムーンライダーズ~初期のカーネーション寄りのサウンドだった。トラック710『ドライヴ』の青木孝明は現在まで7枚ものアルバムを発表しているシンガー・ソングライター&ギタリスト。ビートルズや『ザ・バーズ』がルーツだそうで、確かにこの曲も『リヴォルバー』辺りのビートルズを彷彿させる様なサウンドプロジェクト。メトロトロンからは3枚のアルバムを発表、メトロトロン周辺のミュージシャンのレコーディングにも度々参加しているとか。

 トラック12『ジャッキー』を演奏している『WEBB』は現在ソロシンガーとして活躍している綿内克幸と小池雄治が結成したポップデュオ。所謂ネオアコ系のサウンドでメトロトロンというより「渋谷系」の方に分類されそうなサウンド(英詞だし)。綿内曰くあくまで習作という事だがその洗練されたポップセンスには確かに才気を感じさせる。そしてトラック15『ノース・カントリー・ボーイ』(インスト)トラック16『どん底天使』の博文のソロ曲2曲で〆となる。

 

 THE SUZUKIも含め個性はそれぞれバラバラだが、通して聴くと何となく統一感みたいな物が感じられる。あまり切迫感のない肩の力を抜いた音楽へのアプローチ…それがメトロトロンレコードの社風というか。

 ムーンライダーズの長持ちの理由の一つに、鈴木兄弟に顕著な若手ミュージシャンたちとの交流や共同作業があると思う。彼らと相互に影響受け合う事でムーンライダーズは「昔の名前で出ています」的なバンドに陥るのを免れていると言っていいのではないか。とある戯曲の台詞から引用すれば「変わらない事、それは変わろうとする意志」がムーンライダーズにはあるのだ。