『さっき聴いた音楽その352』で「現在入手困難になっている」と書いた『四人囃子』の未発表音源を集めた5枚組BOXセット『From The Vaults』が発売されたのは01年末。その頃四人囃子は初期のフロントマンだった森園勝敏(ヴォーカル&ギター)が復帰して森園、佐久間正英(ベース)、坂下秀美(キーボード)、岡井大二(ドラムス)の最盛期メンバーで活動再開した時期でもあった。02年にはテレビ朝日が主催するライブシリーズ『ROCK LEGENDS』シリーズに度々出演し、その内の『スモーキー・メディスン』とのジョイントライブは土曜深夜に放映もされた。まさか21世紀になってこの編成でのライブがテレビで観れるとは思わなかった。ありがとうテレビ朝日(笑)。

 その時の記憶を脳裏に蘇えさせながらこのBOXセットを聴いた。この企画は96年に設立された四人囃子のオフィシャルサイトで全国のファンに私的録音の音源を募集した事から始まり、集まったライブ音源からのトラックが多数収録されているとか。70年代中期頃まではライブ会場にラジカセなどを持ち込んで録音するなんて当たり前。物持ちがいい人ならそういう貴重音源は未だに保存してるだろうし、現実に動画サイトにその手の音源が無数に存在したりしている。CD上ではもうこういう企画も時節柄成り立たない…って事なのだろうか?

 

 DISC1は正式にレコードデビューする前の、73年のライブ音源が収録されている。特に『ピンポン玉の嘆き』(1stアルバム『一触即発』収録)と『泳ぐなネッシー』(2ndアルバム『ゴールデン・ピクニックス』収録)は初演の演奏が収められているから正にお宝トラックだ。この頃のベースは佐久間ではなく中村真一。既にこの頃から演奏力のレベルは高く、既にバンドの方向性は確立されていた事が判る。

 DISC2は74~5年のライブ音源。1stアルバムが発売されライブも活発化していった頃の音源で、前にも書いたけど最も注目されるのは1974年8月『郡山ワンステップ・フェスティヴァル』での『泳ぐなネッシー』の演奏。森園のハイテンションぶりが尋常ではなく、まるで何かクスリでもやっているみたいだ(笑)。2ndアルバム収録曲『なすのちゃわんやき』の初演や、日本武道館で『ディープ・パープル』の前座で出演した時の演奏も収録。スタジオ録音のない『羊飼いの歌』では茂木由多加(アコーディオン)が加わって四人囃子+1の編成になり、日本武道館ライブからベースが中村から佐久間にチェンジ。

 DISC3は2ndアルバム収録曲のデモトラックやスタジオでのリハーサル演奏、同じく4thアルバム『包』のリハーサル&デモトラックを収録。森園が脱退(解雇)、ギター&ヴォーカルに佐藤満が参加した『包』では、既に四人囃子はプログレバンドとは言えないバンドに変化していたのが判るし、『泳ぐなネッシー』みたいな長い曲はブツ切りして分けて演奏、それを後で繋いで一曲にまとめる四人囃子独特のレコーディング方式の流れも確認できる。

 DISC4は森園脱退後の音源を集めた物でラジオ番組やTV番組での演奏、最初の活動停止直前の、今は無き渋谷『屋根裏』でのライブ音源、バンドブームに煽られた感じで突如復活してアルバム『DANCE』を発表した際の『MZA有明』でのライブ音源を収録。MZA有明は若手ミュージシャンとの共演もあり、その頃既にプロデューサー的な仕事が本職ぽくなっていた佐久間の人脈の広さが伺える。尚元メンバーになっていた森園&佐藤が参加した曲は未収録。

 DISC5はレコードデビュー前のライブ音源で、収録されているのは一曲を除いてカバー曲。四人囃子に最も影響を与えたのは『ピンク・フロイド』でそのカバー曲の演奏を得意にしていたのは有名な話だが、このCDを聴くとそれと同時に欧米のハードロックなどの曲からの影響も強かった事が判る。彼らも最初は何処にでもいそうな洋楽ロック好きな少年だった…という訳だ。

 

 通して聴けば『From The Valtus』は、主に四人囃子の70年代の活動を点描していった様な構成になっていた。卓越した演奏力と閉塞した時代を感じさせるシュールな歌詞を併せ持った2nd アルバムまでの四人囃子の演奏はやはり格別で、それ以降の四人囃子については当方の聴きこみが足りない部分もあるし、今少し猶予を持たせてこのコラムでも紹介していきたいと思うのだが…。佐久間は亡くなってしまったけど、オリジナルメンバーの三人で四人囃子はまだ継続している事になっているから、また新たに活動が始まる可能性もあるだろう。気長に待つしかないか…。