俺たちの世代で「三大ロックギタリスト」と言えばエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ぺイジの事を指した。何れも『ヤードバーズ』というバンドに在籍していた事から比較対象される事は必然だったと思うが、スーパーグループにありがちな確執に疲れて米国音楽に活路を見出していったクラプトン、類まれな発想力で『レッド・ツェッぺリン』をスーパーグループにのし上げたぺイジに比べ、ジェフ・ベックには確たる音楽志向が見えてこなかった感じがする。ギタリストに留まらない才能を発揮した他の二人と違いジェフ・ベックの場合はギタリストへの執着が凄いというか、俗に言う「ギター馬鹿」タイプの人ではないかと俺は思う。

 実際ヤードバーズ脱退後ジェフ・ベックが組んだバンドは人間関係の問題で早々に解散する事になっていたし、大体ライブに集まる聴衆も「ジェフ・ベックのバンドが聴いたい」のではなく「ジェフ・ベックのギター」が目的で集まるのだろう。そういう意味からしてジェフ・ベックがギターインストアルバムを発表するのも必然だった…とは言える。

 さっき聴いた『ブロウ・バイ・ブロウ』はそんなジェフ・ベックの記念すべき初のインストアルバム。ベックのギターを支えるべく集まったのは第二次ジェフ・ベック・グループのメンバーだったマックス・ミドルトン(キーボード)、元『ゴンザレス』というR&B色強い大世帯ロックバンドのメンバーだったフィリップ・チェン(ベース)とリチャード・ベイリー(ドラムス)。プロデューサーはあのジョージ・マーティン。ジェフ・ベックの為『迷信』という曲をプレゼントする程交友が深かったスティービー・ワンダーもシークレット・ゲストとしレコーディングに参加。

 

 アナログA面1曲目『分かってくれるかい』はベックとミドルトンの共作。ミドルトンの弾くクラヴィネット、ファンク色強いリズムセクションをバックにベックがギターテクニックを駆使して派手に弾きまくる。バンド結成時代は敢えてソロを抑え気味にしていたベックのギター魂全開って感じで掴みはOK?

 2曲目『シーズ・ア・ウーマン』はビートルズのシングル曲『アイ・フィール・ファイン』B面曲のインストカバー。前曲とのフェイドアウトと重なる感じでドラムスからイン。オリジナルは聞き覚えがないが、ベックが『ベック、ボガート&アピス』時代も使っていたボイスモジュレイター(ギターのフレーズを管を通して演奏者の口の中に導いて変換させるテクニック)の響きが懐かしい。ベックはそれのみならず一曲の中で様々なギターテクニックを披露しておりさすが…と言うしかない。

 3曲目『コンスティペイテッド・ダック』はベックの作曲。早いリズムの曲でディレイエフクターを駆使したベックのプレイが愉しめる。バックの演奏も手抜かりないのだが、三分弱であっという間にフェイド・アウトしてしまう。

 4曲目『エアー・ブロワー』は演奏者4人の共作という事になっているから、ジャムセッション風に即興レコーディングしたのかもしれない。ベックがジャズミュージシャンよろしく速弾きを披露しているのが聴きもの。ミドルトンのキーボードソロの後突然曲調が変わり後半はよりクロスオーバー色強い演奏になっていく。

 5曲目『 スキャッターブレイン』はベックとミドルトンの共作。ドラムスソロから始まり冒頭小刻みなギターソロを披露するベック。あまり器用なギタリストという印象がなかったけれど、三大ロックギタリストだけあって(笑)そんなプレイもお茶の子さいさいといった所ですか。中盤以降はワイルドに弾きまくるベック、ミドルトンのソロも有り。後半挿入されるストリングスがビートルズの『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』を彷彿とさせるジョージ・マーティンのアレンジで、ベックのギターとの絡みは異様だ…。

 

 アナログB面1曲目『哀しみの恋人たち』2曲目『セロニアス』がスティービー・ワンダーが提供した曲。『哀しみの~』はベックらしからぬメロウなギターソロが聴きもののバラード風な曲だが、ベックとしてはミュージシャンズ・ミュージシャンとして尊敬を集めていたギタリスト、ロイ・ブキャナンに敬意を捧げるという意図があったらしい。そういう意図を抜きにしてもベックのギターテクニックの真髄が愉しめる名曲ではある。『セロニアス』はクラヴィネットの音色を聴いただけでスティービーが演奏してるやろと分かってしまう程スティービー色が強い曲。この曲でもボイスモジュレイターが活躍する。

 3曲目『フリーウェイ・ジャム』はミドルトン作曲。エフェクター効かせたソロを奏でるベックのギターが印象的な結構キャッチ―なメロディーでバックメンも熱演。ベースのフィル・チェンはこのアルバムの後ロッド・スチュアートグループに参加して有名になるが、ドラムスのリチャード、ベイリー共々演奏力は相当に高い。

 最後の曲『ダイヤモンド・ダスト』は8分あまりの大作。またまたベックのギターとストリングスが絡み一風変わった音楽空間を作り出す。ここでのベックのギターはワイルドではなく繊細なイメージ。後半はミドルトンのキーボードソロもフィーチャーされて落ち着いた感じのエンディング曲となった。

 

 発売当時は自覚していなかったけど、本アルバムが日本においてはクロスオーバー(後にフュージョンと言い換えられたが)の先駆けになったのは間違いないだろう。バッキングなんかは正にクロスオーバーその物って感じで、70年後半になるとこの手のサウンドは食傷気味になってしまった。でもジェフ・ベック自身は思いっきしギター弾ければそれでいいやって感じで、ギターの音色その物にはロックテイストが溢れ出ているから、ベックのギターに集中して聴けば今でも十分聴くに耐えれるアルバム。それだけベックはこのアルバムに賭けていたのだろうし、米国での売り上げも上々だった。ただ発売時の邦題『ギター殺人者の凱旋』はいただけないな。

 本アルバム発売後ジェフ・ベックは2度目の来日を果たす。邦洋のロックアーティストが共演するロックフェス『ワールド・ロック・フェスティバル・イースト・ランド』に出演する為で、日によっては出番が2番目というアンビリーバブルな時もあったという。但し体調を崩して京都と仙台公演はキャンセル。フォ―クシンガーの豊田勇造がその事について唄った『ジェフ・ベックが来なかった雨の円山音楽堂』という曲を聴いた事があるが、ジェフ・ベックに劣らぬ名演でした(笑)。