ミュージシャン生活50周年を迎えた細野晴臣。ソロとしてワールドツアーに出る彼に生まれた頃の思い出から、ミュージシャンとしての軌跡を貴重な映像を混じえつつ語ってもらう。音楽好きの両親の間に生まれた細野少年は物心つく頃から音楽が好きになり、中学時代に聴いたモダン・フォ―クへの興味から楽器を持ちバンド活動を始める。大学時代にその後長い付き合いになるミュージシャン仲間と知り合い、大瀧詠一とも電撃的な形で出会い流れのままにプロデビュー…。

 

 半世紀に渡り日本の音楽界で第一線として活躍してきた細野晴臣。毛髪もすっかり白くなり孫までいるお爺さんなのだが、近年は長い間遠ざかっていたライブ活動にも熱心。本作は18年のソロワールドツアー直前にインタビューを収録、ワールドツアーにもキャメラは同行してライブの様子も多く収録。それに加えて商業的ブレイクのきかけとなった『イエロー・マジック・オーケストラ』時代の映像も長めに収録されている。『Perfume』や『AKB48』『乃木坂46』のドキュメンタリー映画に関わってきた佐渡岳利が監督を務め、細野と交流深いミュージシャン連中が大挙顔を出している。本作内にも登場し熱狂的細野ファンである星野源がナレーション担当。

 

 大瀧、松本隆、鈴木茂と結成した『はっぴいえんど』は商業的な成功は得られなかったが、細野本人の意識としては楽しい事をやってるだけの遊び同然だったという。友人・久保田真琴の勧めで喜納昌吉の『ハイサイおじさん』を聴いて以来細野は従来のロックの枠を越えた民族音楽への興味をも深める。その一方で人力でできる事をコンピューターがやったら面白いのでは…という発想から高橋幸宏、坂本龍一と『YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)』を結成、ワールドツアーを終えて帰国したら日本でYMOブームが起きていて細野自身が一番驚いた。そのYMOも人気絶頂時に解散させ、一人になった細野はプロデューサー的活動を開始…。

 

 煙草をくゆらす細野。「煙草の煙と音楽は同じ」。煙草を嗜む細野にとっては音楽はそれと同じくらい日常的で決して健全ではないけどなくてはならない物…という事だろうか。物腰は穏やかだが細野の言動からは自分のやってきた音楽はその時の時代に即した一流品という自負が伺える。そして「今のバンドには僕がいまだに好きな古い音楽にある物が欠けている」と手厳しい発言も。その硬派ぶりは意外であったけど。それでもライブなどで見せる細野の淡々とした姿は好感度高い。長年コンピューター音楽にどっぷり浸かってきた反動が生音への回顧願望を促したと思われる最近の細野の音楽は、必然的に今の音楽業界のアンチではある。

 

作品評価★★★

(常に時代の先を読んでいたかの様な音楽を長年作ってきた細野が、若いミュージシャンとの共働で自分のルーツを探る様な音楽をやっている姿は、いい意味で自己肯定感に溢れていて心地良い。最近話題になった某ミュージシャンも登場するが細野との再共演はあるや否や)

 

 映画四方山話その676~細野晴臣が音楽で関わった映画

銀河鉄道の夜』 夜空の色の猫であるわたくしという現象 | シネマの万華鏡

 今回の作品内で細野がサウンドトラックを担当したアニメ映画『銀河鉄道の夜』(85)が紹介されていたが、細野が音楽を担当した映画は調べてみると予想外に多かった。こんな作品までも…というのもあったな。

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 取り敢えず細野が一番最初に映画に関わったのは、吉田喜重の代表作とされる『エロス+虐殺』(69)が最初。当時細野、松本隆、小坂忠らが結成していた『エイプリール・フール』がこの作品のサントラで演奏した。細野名義として最初に音楽担当したのは神代辰巳の一般映画『宵待草』(74)。大正時代を舞台に銀行強盗と化したテロリストの逃避行を描いた作品であまり評判にならなかったが、俺は傑作だと思っている。サントラで演奏しているのは当時細野が参加していた音楽集団『ティン・パン・アレー』だと推測される。

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『パラダイス・ビュー』(85)は高嶺剛が手掛けた自由奔放な沖縄ムービーで、沖縄音楽に傾倒していた細野らしい仕事。細野はサントラアルバム制作だけでなく役者としても出演。ヒロイン役は細野がプロデュ―スを手掛けていた二人組ユニット『ゲルニカ』のメンバーでもあった戸川純。ビートたけしがプロデュース&主演を務めた『ほしをつぐもの』(90)の音楽を細野が担当していたとは今回初めて知った。

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 犬童一心の『メゾン・ド・ヒミコ』(05)『グーグーだって猫である』でもサントラアルバムを担当。両作とも世知辛い日常とは別の地点で生活を送っている人を描いたプチ小品ぽい作品で、そういう手作り感に細野が共鳴するところがあったのかもしれない。それに比べると『万引き家族』(19)のサントラ担当は名前のある人を引っ張ってきた…みたいな作り手の意図が見えてちょっと鼻白む。細野自身は頼まれた仕事をやっただけで罪がないのだが…。

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             ロスト・イン・トランスレーション オリジナル・サウンドトラック ... 

あとロード・ムービーの傑作『ヴァイブレータ』(03)でハッと耳を奪われるピュアな曲が使用されていたので何という曲か調べてみたら、はっぴいえんどのファーストアルバム『はっぴいえんど』収録の『しんしんしん』という曲だったので驚いた事があった。三昔ぐらい前に作られた曲なのに全然古びて聴こえないのが凄いと思った。ソフィア・コッポラが東京でロケした『ロスト・イン・トランスレーション』(03)のカラオケシーンでは松本が作詞、細野が作曲したはっぴいえんどの『風をあつめて』が流れた。この作品のプロデューサーにこの曲の使用を勧めたのは、これまた最近話題のアノ人だったらしいのだが…。